033 「魔導師マグナスの領域」
酸と焔に満たされた竜の吐息。
それは、物理攻撃としては極めて強力なもののひとつ。
そして、あらゆる魔法的防御を無効化する凶悪さを兼ね備える。
わたしはその、暴虐な深紅の嵐に曝された。
しかし。
セイバー オブ ブラックの攻撃無効化は完璧だった。
セイバーの鎧はアーマークラスでいうとせいぜい5だ。数字が小さいほど防御力は高い。吸血鬼の王であれば-5くらいになる。
でも、竜の吐息はわたしの頭上で消え去ってゆく。
熱にふれた淡雪のように。
凶悪な深紅の嵐が消え去った後。
竜が姿を現す。
漆黒と黄金の竜。
ドラゴンブレスが通用しないわたしに、より物理的な攻撃をしかようと身構える。
竜は、音速を超える速度で爪による攻撃をしかけることができた。
でも。
わたしには、それはとても遅く感じられる。
老いた猫がゆるりと戯れるようにしか、思えない。
わたしはとん、と竜の肩にのった。
そして、漆黒の剣を振るう。
無造作に竜の首が墜ちた。
最強硬度、アーマークラスでいえば-20くらいのでたらめな強さを持つ竜の鱗。それを、それ以上のでたらめさを持った剣であっさり切り裂いた。
夜が終わるように。
漆黒と黄金の竜は、消滅する。
わたしは地上降りた。
ダンジョンの床は酸と熱で蹂躙され、焼け焦げて溶けている。
その床に、ヴァンパイアの王は横たわっていた。
身体の半分は消滅しており、残った部分も煙りと焔をあげている。
>まったく。
ヴァンパイア王は呟く。
>ただのネタだと思っていたよ。
王は真っ黒に焼け焦げ煙りをあげる口で言った。
>黒のプレイヤーキラーだね、あんた。
>わたしを、知っているの?
>2ちゃんねるでスレが立ちまくってるよ。
わたしは、溜息をつく。
そして、ヴァンパイア王を見下ろした。剣を構えて。
>おいおいおい、まて、やめろよ。
>さようなら
>そんなこと、いうなって。消滅の剣だろそれ。
>そうよ。
>ログも残さず消滅なんてうそだよな。
>もちろん
わたしは、微笑む。
>ほんとうよ。
>まて、まて。おれがここまで来るのにどれだけ
わたしは漆黒の剣を突き刺した。
ヴァンパイアの王は、文字どおり消滅する。
過去に遡って。
モーンダンジョンに存在した全ての記録を、抹消される。
残るのは初期化されたアカウントだけ。
わたしは先に進む。
より、ダンジョンの深部。
魔導師マグナスの領域へ。