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028 「わたし、宇宙へ行きたいの」

つきかげはスーツケースをテーブルに置いた。

それを開けると。

中にあったのはブーツだった。どちらかといえば無骨な感じで、軍人が履くような革のブーツ。

つきかげは、そのブーツを取り出す。


「これを履いていただけますか」


どうゆう変態だ、と思わなくもなかったがまあ、ブーツを履くぐらいならお安い御用だ。

わたしは制服姿だったので、珍妙な姿になったがレストランの個室だから誰に見られるでもなくまあいいかと思う。

ふと、つきかげを見ると。

とても奇妙な表情をしていた。

敬謙な信仰者が祈りを捧げるときのように。

彼は膝まずくと、呟きはじめる。

「わたしはあなたと別れて、あなたから遠くはなれてしまった。それだけではなく、今ではあなたの敵に協力している。でも。こうして再びあなたに会う恩寵をたまわるとは」

わたしは、急に怖くなった。

この男はわたしを見ながら、ほかの誰かを見ている。


「ねえ、どういうこと。一体」

「子供はしらんでいい」


わたしはその言葉に、ぶちきれた。

ブーツを履いた中段廻し蹴りが、きれいにつきかげの頬に決まる。

ぶひっ、と惨めな悲鳴をあげつきかげは床に転がった。口元が血で赤く染まっている。

わたしは、少しだけ罪悪感にとらわれた。


「悪かったよ」

「いや。こちらも悪かった」


ハンカチで血を拭いながら、つきかげはいった。


「ま、少し説明しとこう。わたしは、アルフレート・フォン・ローゼンベルクに協力していた。彼は本来彼の敵である連中の犬となっていた。そしてわたしもまた」

「いや、いいです。あんたの妄想は聞きたくない」

わたしは床に座ったつきかげを見下ろす。

「これでわたしの望みをかなえてくれるんでしょ」

「ああ。望みをいってくれ」


「わたしはねえ、死のうと思うの」


「殺してほしいということ?」

「じゃなくてね、どうせ死ぬなら宇宙で死のうと思っていて」


わたしは、にっこりつきかげに微笑みかける。


「わたし、宇宙へ行きたいの」


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