026 「へんなやつと出会ってしまう」
彼女達は、もしかするといくらいじめてもわたしが平然としているように見えるため、なにか焦ったのかもしれない。
それとも、単にわたしが寝不足であったため転んだだけという可能性もある。昨日の夜に起こった出来事は、わたしの心奥深いところを揺さぶったので満足に眠ることが出来なかった。
なんにしても。
わたしが階段を降りようとしたときに。
誰かに背中を押された気がした。
わたしは足をもつらせて転んでしまい、階段から派手に落ちる。
わたしは、それで利き腕の小指を骨折した。
まあ落ちかたの派手さからいけば、むしろその程度で済んで運がよかったといえる。
また、それは。
色んな意味でわたしにとっては、恩寵となることだった。
なにせ、学校を休む口実ができたので。
利き腕を骨折したのでノートがとれないから、しばらく学校を休むと宣言しわたしは引きこもった。
まあ、学校から離れて頭を冷やすことができたというのは、暗い欲望に飲み込まれる一歩手前にいたわたしにとって、善いことではある。むろん、ただの時間かせぎにすぎないのだろうが。
そうはいってもあなたのことは心配だったので、わたしはネットを通じていじめグループを監視した。
彼女らが集まる掲示板を。
彼女ら自身のブログを。
彼女らの出入りする出会い系サイトを。
わたしは、いつのまにかその出会い系サイトを見るのが面白くなっていた。
そこは、無法地帯のように見えて実はとても秩序だっている。
なにせ皆、目的が明確であり。
やることはシンプルだから。
わたしは子供のころ観察していた蟻の巣穴を、思い出す。
わたしは、なんだか馬鹿馬鹿しいほどシンプルなその場所を見ていると、自分の殺伐とした欲望が滑稽なもののように思えてきた。
しかし。
わたしはそこで、へんなやつと出会ってしまう。
わたしは、奇妙な書き込みをみつける。
淡雪の中にたちたる 三千大千世界
またその中に 沫雪ぞ降る
つきかげという登録名のオヤジの書き込みだった。
出会うための条件とか自分のスペックとかを書き込む掲示板に、書くような内容じゃあない。なに考えてんだか、さっぱり判らなかった。
なんだかわたしは、無意味にむかつく。
わたしは、そのつきかげにメールを送ってしまった。
『へんなやつ、どっかいけ』
するとご丁寧な返事が返ってきた。
『わたしのどこが変であるか、具体的にご教示いただければ幸です』
それからつきかげとのやりとりが、はじまってしまったのだ。




