025 「深夜にふと目覚める」
わたしとあなたは、いつも同じベッドで眠る。
あなたは、眠ることが下手だ。
眠るまで時間がかかるし、眠ってもすぐ目覚めてしまう。
でも、わたしが手を握っていればあなたは安心して眠ることができる。
その夜もわたしたちは、ひとつのベッドのなかで溶け合うように眠っていた。
窓からは輝く月の光がさしこみ。
わたしは。
深夜にふと目覚める。
あなたがわたしを、覗き込んでいた。
あなたは、髪の毛を短くしておりわたしよりも痩せて精悍な顔をしている。
だから見た目は少年のよう。
でもそのときのあなたは。少年、いえ男性そのものに見えた。
あなたの貫くような眼差し、少しひそめられた眉はまるきり男のひとのものだ。わたしは微かに戦慄した。
わたしは、とてもとても長い間捜していたひとに巡り会えたような気がする。
ずっと。
ずっと捜していたひと。
でも。あなたなのに。不思議だね。
「はるひボクダ、あきみずダヨ。ワカルカイ」
あなたは、いつもより苦労して言葉を発する。
「キミハ、オナジアヤマチヲオカソウトシテイル。1935ネンノアメリカデオカシタアヤマチ」
わたしの目から涙が零れ落ちる。
わたしの心は壊れたかのように、熱い想いに満たされてゆく。
判らない。
あなたがなにを言っているのか。
でも。
わたしが暗い欲望に飲み込まれないよう、警告していることは理解できた。
唐突に。
あなたはベッドの中に、崩れ落ちる。
そしてあなたは、何事もなかったように寝息をたて始めた。
わたしは、その夜のことを翌朝あなたに聞いてみる。
あなたは、なにも覚えてはいなかった。
そしてその日の昼間。わたしは学校で骨折した。