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024 「悪意は伝染する」

わたしは。

ようするに肥溜めに落ちても、糞まみれにはならずに済むと思っていたようなものだ。

でも大天使ミカエルだって肥溜めに落ちてしまえば、うんこまみれなんだよね。ましてや、わたしなんか。


彼女らのいじめはごくつまらないものだった。

わたしの持ち物、特に大切にしていた本や小物はことごとく壊されて汚される。

油断すると制服も、汚されて破られてしまう。

誰もわたしには、話し掛けなくなった。おまけに、どうでもいい噂がたてられわたしはとんでもない不良ということになる。

まあ、個々のことはたいしたことない。

ようするに、わたしが付き合わなければならなかったのは、ひとの悪意だ。

わたしは四六時中、こう囁きかけられていたようなものだった。


おまえなんか死ねばいい。

おまえなんか死ねばいい。

おまえなんか死ねばいい。

おまえなんか死ねばいい。


ま、それで? てところもあるんだけど。

悪意は伝染する。

間違いなく。

マザーテレサみたいなひとならともかくね。わたしみたいなのがそんな悪意とつきあわされたら。

わたしは、夢を見るようになった。

わたしは、いじめグループの少女たちを夢の中で殺す。そしてその心臓を抉りとる。

わたしは、その心臓を銀の盆にのせてあなたに捧げた。あなたを傷つけたものたちへの復讐を、あなたへ捧げたのだ。

これはやっかいなことに。

とても甘美な陶酔をもたらす夢だった。

わたしは思い違いをしていたようだ。いじめに耐えるのは、不快さに耐えるのではなく自分の中に目覚めた悪意がもたらす、あたかも官能的な欲望にも似た誘惑に耐えつづけることだった。

わたしは、欲望に身をまかせ復讐の刃を振るってもいいと思うこともある。

でもそれは。

間違いなく、わたしの愛が死ぬことを意味する。

悪意によって、愛が汚されてしまうことを意味した。


わたしはただひたすら。

耐えるしかなっかた。

狡猾で甘美な、わたしの内なる悪意がもたらす誘惑に。


そして。

その夜に、あれが起こった。


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