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020 「わたし自身が愛を見失いそうになったときのこと」

本当に堪え難かったのは。

わたし自身が愛を見失いそうになったときのこと。


あなたは、小学生から中学生まではうまくやってこれた。

まああなたは、普通の児童からは隔離されていたし、学校の先生もあなたを理解できていなかったから。

特に中学では、養護学級の担当教師があなたのことをきちんと把握し守ってくれていた。

彼は、定年退職を目前にひかえた老教師だ。

そして、彼は自分の経験のなかで学んだものがあなたには全く役にたたないことを理解していた。

わたしは何度か彼と話をしたことがある。

彼はあなたが、全く想像もつかないやり方で、なにか得体のしれないものに破壊されたということを、朧げながら理解してくれた。

彼は何度もあなたの担任の教師と対立している。

学校の教師は、基本的に彼らの生徒に対してはあまり興味を持っていない。

彼らに興味があるのは、彼らのこなすべき教育カリキュラムと、学校行事、それと彼らに対する教育委員会やPTAの評価である。

そしてそれらに対して生徒をどのように利用するか。

それをずっと考えている。

中学3年のとき、あなたの担任の教師はまだ3年目の若い女性だった。

彼女はアスペルガーやLD、発達障害について豊富な知識をもち相当に頭がよくしかも野心的だ。

彼女は、あなたをうまく使い自分の評価をあげることができると考えていた。

もちろん、彼女はそんな考えを表にだすほど愚かではない。

あくまでも、真摯に自分の生徒を案じる教師を演じていた。

ただ、老教師には全てが手にとるように判っていたようだ。

あるいは、自分がたどってきた道を見ていたのかもしれない。

彼女が言う普通の生徒と同じようにという言葉に、老教師はよくぶちきれた。

(いったいどこに、あんたのいう普通の生徒がいるんだね)

彼は必ずこう言って会話を打ち切る。

(あんたは、僕のやりかたに口出すまえに、学ぶことがたくさんあるようだね)

こうして、彼女のあなたを普通の生徒と同じように学校行事に参加させるという野望は崩れ去る。

でも、あなたの守りはあっけなく消え去ることになった。

3年の三学期がはじまってまもなく、老教師は病に倒れリタイアすることになる。

かくしてあなたの担任の野望が復活した。実に厄介な形で。

彼女はわたしたちのお母さんを学校に呼び出すと、説得をはじめる。

あなたが、高い知性をもっていること。

普通高校の受験なら、たやすくクリアできること。

高校側の支援がえられれば、学校生活も可能である。

わたしたちのお母さんは、大学教授で頭はよくわたしたちのことを愛してくれていたが、大きな欠点があった。

いい加減で適当だということ。

お母さんは確固たるポリシーをもっていない。自分の研究以外には。

だから理論整然と説得されると、反論できない。


こうして、わたしとあなたは同じ高校へ通うことになった。

まあそれが、諸悪の根源とまでは言わないけれど。

うんざりさせてくれる現実の幕開けだったことは、間違いない。


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