017 「あなたは、わたしの幽霊に会いにゆく」
あなたは、わたしの幽霊に会いにゆく。
そのときも、あなたは怖れてはいなかった。
もちろん、なにも怖れる必要などない。
あなたは、グールドのモーツァルトに駆動されるマシニックなシステムになったのだから。
あなたは、歩きながら携帯電話を操作する。
あなたは、携帯を使って思考しているといってもいい。
なぜなら、そこにはあなたのすべてが入っているのだから。
あなたが携帯を使用して会話した記録。
そしてあなたの行動の記録。
また、あなたが未来に行動する予定も分刻みで書き込まれている。あなたは予定が埋まっているととても安心した。
あなたにとって恐ろしいのは、予定の決まってない時間。
自由時間ほど、あなたにとって堪え難いものはない。だからあなたは全てを予定で埋め尽くす。
あなたはスケジュール帳を開き、学校へ行く予定を書き込む。わたしの幽霊にあう時間も記入する。
そして、帰宅する時間も変更して就寝するまでの時間をずらせてゆく。
あなたは、そのスケジュールが有るから途方にくれることもなく、不安に襲われることもなく歩いていくことができる。
学校の裏手にある森。
その森奥深くについたとき、日は西へ傾き空を赤く染め上げていた。
天頂は濃い藍色に沈み、燃え上がる赤は青と混ざり合いながら暗い森の上で輝く。
そしてあなたは、隠者の幻影のような旧図書館へとついた。
あなたは、静かに眠る過去の英知がつくりあげた迷宮へと足を踏み入れる。
あなたは。
そして、扉を見つける。
わたしと同じように階段を昇ってゆき。
そこに、本があった。
空を深紅に染める夕日が、本の表紙に金色の文字を浮かび上がらせる。
「book of saturday」
あなたは、その本があなたをまっていたのだと思う。
そしてあなたは、ページをひらいた。