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015 「あれは幽霊だったのかもしれない」

あなたは、心の混乱を瞳に現す。そして、携帯に文章を打ち込む。

『先生は、なぜそんなことをご存知なんですか』

アリスは、ゆっくり穏やかな口調で話す。

「すまない。理由は説明できないのだけれど。でも本当のことだ。信じてほしい」

あなたは、アリスの真摯な思いを感じ頷く。

アリスは笑みをみせた。

「そうだ、強いとはどういうことか、という話だったね。例えばもし勝つことを求め、あるいは生き延びることを求め戦うものがいたとしたら、それは弱さの現れだといえる」

アリスは長い言葉があなたに受け入れられたのを、確かめるようにあなたを見つめる。あなたは理解できた証として頷いた。

アリスは言葉をつらねる。

「ここにはない何かを求めるのは、目の前の現実から逃れようとすることだ。ただ目の前の出来事に向かい合い、純粋にただその出来事を解くためのマシニックなシステムになること。それが強いということだとわたしは思う」

あなたは、アリスの言葉が理解できたような気持ちになる。

あなたは、アリスに格闘技を習うまでは自分の手足を持て余していた。それは、個別に意思をもった別の生き物が自分の身体に取り付けられたようなものだ。

あなたは時々無意味に手を振ったりしていた。

そうすることによって、それが自分に属したものであることを感じる。

でも、格闘技を習うと。

手足は、マシニックなシステムに組み込まれ動き出す。

それは得体のしれない異質な生き物ではなく、あなたと共に動作する一連の運動体となる。

それが、強いということなのかと思う。


突然。

あなたの携帯電話が鳴った。

エリック・サティのジムノペディア。

あなたの選んだ着信音。


あなたは電話にでる。

あなたの数少ない友人のひとり、佳子だった。

小学生、中学生、高校とずっと同級生であなたの生きる上での困難さを理解した上であなたと友人でいる貴重な子だ。

佳子はあなたのために、ゆっくりかたる。


「ごめんね、電話して。里沙。あなたが話すのが苦手なことは、知ってるんだけどメールでは上手く伝えられそうになくて」

佳子は戸惑いがちに、言葉を続ける。


「わたしね、理図を見たの。学校の旧図書館で。あれは幽霊だったのかもしれない」

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