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014 「強いというのは、どういうことでしょうか」

『強いというのは、どういうことでしょうか』

あなたは、携帯電話にそう打ち込むとアリスに渡す。

雑居ビルの5階。

窓から差し込む西日が、部屋を紅く染め上げている。

かつてはオフィスであったのかもしれないその部屋は、床も壁も剥き出しのコンクリートでとても殺風景だ。

その床にマットレスをひいて、トレーニングができるようにしてある。

ごく簡素な総合格闘技のジム。

申し訳程度に筋トレの器具や、サンドバッグも置かれている。

そこであなたはアリスから、護身術を習っていた。

あなたから携帯電話を受け取ったアリスは、片方の眉を器用にあげる。

アリスはゆっくりと丁寧な発音で、あなたに語りかけた。

「妹のリズのことを、考えているの?」

感情を感じさせない落ち着いた声。でも冷たさのない聞いていて心地よい声だ。

あなたは、ひとの話を聞き取るのが苦手だ。特に感情的になっているひとの言葉は、殆ど理解できない。

そもそも、あなたはひとの感情というものを理解できなかった。

気持ちをぶつけてくるひとに出会うと、あなたは対処できず、パニックをおこす。

また、あなたは喋ることが苦手だ。

だからいつも、携帯電話を使って会話する。

あなたは、携帯にもう一度文章を打ち込む。

『わたしが強ければ、リズは死ななかったかもしれません』

その文章を受け取ったアリスは、少し瞳を曇らせる。

「リズは自殺したと思っているのね」

あなたは頷く。

もちろんあなたは警察がリズ、つまりわたしの死を心臓麻痺によるものとして片付けたことを知っている。事件性はないものと判断され、殆ど捜査は行われていない。

あなたは携帯に文章を打ち込む。

『先生は、どう思ってますか』

アリスは首を振って答える。

「自殺ともいえるし、そうでないともいえる。でもリサ。あなたのこととは、関係ないこと」

不可思議な言葉に、あなたは当惑する。あなたは、携帯に文章をうつ。

『リズはわたしを守るのに疲れたのだと、思います』

アリスは少し笑みをみせた。

「わたしの言うことを信じてほしいのだけれど。リズが自殺したのだとすれば、そんな理由ではないことは間違いない」

あなたは、アリスの不思議な笑みを見つめる。

『ではなぜリズは死を選んだのですか』

「彼女の中の愛を守るため。愛をだれにも汚されたくなかったから。だから死を選んだ」


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