131 「まあ、頑張んなさい」
わたしは、ドクター・ディーからその携帯電話を受けとる。
「最近の技術は、随分奇妙な方向に向かってるようだね」
そういうものなんだろうか。
まあ、なんというか、そう言われてもぴんとこない。
「それと、ひとつ忠告しておこう」
ドクター・ディーは、少し真面目な顔になる。
「へえ、何かな」
「パイロンは、ロスチャイルドと話をつけたようだが。実際のところ、全ての国家の諜報組織をロスチャイルドがコントロールしている訳でもない」
まあ、そうだろうね。
「新興国家によっては、彼らに距離をおいているものもいるだろう。そして、そうした国家の諜報組織が君たちに興味をもつかもしれない」
うーん。
そうなんだろうけれど。
「そうかもしんないけど、どうしようもないんじゃあないの」
「いや、そうした連中を避ける方法が、ひとつある」
へぇ。
「さすが、伊達に長生きしてないね、じいちゃん」
これには流石に苦笑しつつも、ドクターは話を続けた。
「ここであったことを、公表してしまえばいい。インターネットを使えばできるんだろう」
ええっと。
「そんなことして、大丈夫?」
「まあ、かまわんさ。そうすれば余程の馬鹿でないかぎり、君たちのことをモッキングバードだと思うだろう」
なるほど。
「そして、君たちの背後にいるパイロンへと接近することになる。後はパイロンがなんとかしてくれるさ。まあ、彼は余計な仕事が増えたと言って、怒るだろうけどね」
うん。
きっと、エリカが聞かされる愚痴が、倍になりそうな。
「まあ、それくらいのことは不問にするくらいの、貸しを彼へ君たちはしてると思うよ」
本当かね。
まあ、そういうことにしておく。
ドクターは、立ち上がり、手を差し出した。
わたしたちは、握手をかわす。
「さて、我々は物語の中へ、戻るとするよ。君たちは帰りなさい。現実へ」
わたしたちは、頷く。
そして、その途方もない時を越えて生きてきた老人は、優しく微笑んだ。
「まあ、頑張んなさい」




