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128 「酷い話」

「どういうことよ」

わたしは、エリカを睨み付ける。

エリカは、少し疲れた顔で、肩を竦めた。

「わたしの方があなたより大アルカナというものについて、よく知っている。だから、あのワールド・オブ・クリスタルレインボウについても、あなたよりもっとよく判っている」

エリカの口調は、疲れているというよりは、うんざりしたものになっていく。

「あれは、本来召喚したひとをサクリファイスとして、死んだひとを甦らせるもの。だから、道化は自分自身をサクリファイスとして春妃を甦らそうとしたのよ」

「でも」

わたしが言葉を発しようとするのを、首を振ってとめる。

「世界は、道化はひとではないと認識したの。だからサクリファイスにリサが選ばれてしまった。これは、事故なのよ。そうでしょう、ティル・オイレンシュピーゲル」

道化は、大の字になり笑い続けている。

白黒に塗り分けられた、壊れた機械のようだ。

「酷い話だ」

それでも、道化は楽しげに言った。

「僕は死ぬために、ここまで積み上げてきたというのに」

自分自身に、哀しむことすら禁じてしまったそのおとこは、泣くように笑い続ける。

「こうしてまだ生きてるとは、こんな酷いはなしが他にあるかな」

「全くあなたは」

エリカは、うんざりした目で道化を見る。

「本当に、道化そのものね。しかも腹が立つことに」

エリカは、投げやりにいい放つ。

「わたしは彼の娘であり、生まれ変わりなのよね」

うーん。

確かに、これはかなり酷い話ではある。

けれどまあ。

結局のところ、これでよかったのではないかと思ったりもする。

全ての因果の輪が閉じて、全てこうなるように定まっていたのだという気持ちになっていた。

道化は。

自分が犠牲になって、春妃が蘇り秋水とふたり幸せに暮らせるのを夢見たのかもしれないけど。

冗談じゃあない、そんなお伽噺の結末みたいに、上手くいくわけないんだから。


今、こうしてわたしとあなたが、ひとつになって。

溶けあってゆくという、この結末こそがあるべき姿で。

わたしは、それをあらためて納得していた。

そういう意味では、道化のやったことにも意味があったんだと思う。

まあ、これでいいんじゃあないの、と思った。


「でも、まあ、これでいいんじゃあないの」


エリカは、失笑する。


「何、その上から目線」


これには流石に道化もあきれたのか、もう一度繰り返した。


「酷い話だ」


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