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124 「みっともないから泣いてんじゃあないよ」
気がつくと、傍らに黒の剣士がいた。
一緒にこの時空間へ飛ばされたはずの、エリカが召喚したのだろう。
でもだめだ。
黒の剣士に、出来ることなどない。
世界に辿り着く前に、光の矢に切り刻まれ、相討ちすらできないと思う。
黒の剣士は、剣を虚空に掲げた。
刀身が、闇色に輝く。
空間に亀裂ができ、中に封印されていた魂が解放される。
そこに、現れたのは。
わたしだった。
わたし、つまり春妃だ。
彼女は、夏の空みたいに青いワンピースを着て、ナチの軍用ブーツをはいており。
どこか邪悪な、笑みを浮かべる。
「みっともないから泣いてんじゃあないよ、わたし」
春妃は、薄く笑いながら、わたしを見ている。
わたしは、あんぐりと口を開け、大きく目をひらく。
ようやく、わたしは理解した。
わたしは、つまり春妃は、黒の剣士の使い手だったのだろう。
そして、自らの命を絶つときに、黒の剣士が振るう剣を使ったのだ。
春妃の心臓を貫いたであろうその剣は、アビリティーを発動して春妃の、わたしの魂を封印した。
なるほど、エリカが黒の剣士をわたしに使わそうとしなかったわけだわ。