123 「絶望の叫び」
赤の女王は、巨大な鋏を背中から取りだし構える。
無限の硬度を持つ、空間断層の盾が出現した。
おそらく、物理的な攻撃であれば無敵なんだろうけれど。
あの、世界が放つ、光の矢はどうなんだろう。
空間断層で、防げるのだろうか。
だめなら、身体を盾にするしかないけれど。
それでも、一体どの程度防げるか、しれたものではない。
赤の女王の背後には、幼い日のわたしたちがいる。
全てを理解し、水晶の城が七色に燃え盛る様を、恐怖とともに見つめるあなたと。
そのとなりで、何も理解せず不安げにあなたを見るわたし。
全てが、記憶の中のあの日に起きたこと、そのままだ。
そして、水晶の城は、きらきらとした銀色の火花を散らしはじめる。
わたしは、祈るような思いで、赤の女王を見た。
それは、突然のようにはじまる。
白銀の焔が吹き上がるように、光の矢が放出されはじめた。
どこか遠い空で爆発した星の破片が、地上に向かって降り注ぐように。
世界は、わたしたちに向かって、無数の光の矢を放った。
それは、光の洪水のようにすら、見える。
不可視の、空間断層でできた盾にその光の矢が突き刺さり、壁へ硝子細工をぶつけたように炸裂してゆく。
赤の女王がかざす鋏の前は、新星が誕生したような、目映い光に覆い尽くされる。
空間断層の盾は、光の矢を防いでいた。
けれど、それが炸裂し破片となったものまで防ぐことはできない。
白銀に輝く光の破片が、吹雪に舞う雪片のようにあたりを飛び交う。
赤の女王の身体はその破片に切り裂かれ、傷ついてゆく。
そして、その破片は、幼いあなたのところまでとどいていた。
わたしは、絶望の叫びをあげる。