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121 「それは、信じたくないこと」

でもそれは、現実に身体が浮き上がったわけではない。

それは、いわゆる幽体離脱といわれるものに、よく似ていた。

わたしたちの視点だけが、宙空へと浮き上がっている。

わたしは、自分の背中を、見下ろすことができた。

思わずその肩を叩いてみたくなるけれど、でも視点だけの存在になっているから、多分それはできない。

わたしは、あなたも同じように、宙に漂っている気配を感じた。


いつの間にか、わたしたちは漆黒の宇宙空間のような場所へと、浮上している。

でもそこが本当の宇宙ではない証拠に、星は一切見ることが出来なかった。

ただわたしたちの目の前には、世界がいる。

水晶で出来上がったその守護生命体は、自身の内部で虹色の焔を燃え上がらせながら、白銀の輝きを放っていた。

わたしたちは、世界の意識を感じとることができる。

そいつは、動こうとしていた。

空間を、ではなく、時間をだ。

世界は、まさにそのために造られた存在であるということが、わたしには判る。


そして、巨大なジャンボジェットが離陸するように、世界はわたしたちの時間面から遊離しようとしていた。

いきなり、それは起こる。

まさに、巨大な飛行機が飛び立つように、わたしたちの存在する時間面から、離れていく。

それは、わたしには、空間を移動するような力として、感じられた。


景色が漆黒の宇宙空間を、流れていく。

それは、記憶の断片を映像化して、カレイドスコープの中へと放り込んだようだ。

わたしたちの、記憶。

つい先程の、海岸での戦闘や、夜の山を馬に乗って越えたこと。

月影に晒された学校の図書館や、学校での様々なできごと。

沙羅と、あなたと一緒に過ごした、子供のころの日々。

わたしは、だんだんと世界が、どこに向かおうとしているのか、判ってきた。


それは、信じたくないことなのだけれど。

わたしの疑いは、どんどん、確信に近づいてくる。

わたしは、こころの中で、道化を罵りたおしたけれども、パイロンふうに言えば、騙されるわたしたちが悪いということだろう。


もう、疑いようがない。

世界が目指しているのは、あの日だった。


そう、あの日。

まだ、わたしたちが何も知らない子供で、いつも公園で遊んでいた、あの日。

あの日もわたしたちは、沈みゆく太陽を眺めていた。

西のそらは金色に燃え上がり、天の高みは深く濃い青に沈んでいく。

わたしたちは、その自然が奏でる色のシンフォニーを見ていた。

はずだ。

はずだった。


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