115 「ろくでもないこと」
「言っておくけれど」
道化は、笑みを浮かべたまま語る。
それは、とてもグロテスクにも見える笑みだった。
「僕は自分の意思で、道化となった。パイロンは嘘を言ってるよ」
誰も、何も言うことは出来なかった。
エリカは、怒ったような顔で睨み、沙羅は哀しみに飲まれた顔で見つめ、わたしは途方にくれた顔で眺めている。
道化は、口を閉ざすと皆をみまわし、いつもの仕草で一礼した。
帽子の鈴がチリリ、チリリと、音をたてる。
「話を続けようか」
パイロンは、何事も無かったかのように、再び笑みを浮かべて話しを再開する。
「王が道化となったため、偽王が必要となった。だから我々はローゼンフェルトを唆して、王位をうばわせたのさ。エリカ、君が大人になるまで彼が王を勤める予定だったのだが」
エリカは、嘲るように笑う。
「わたしは、おとなだよ」
「残念ながら」
パイロンは、肩を竦めた。
「そのようだね」
「言っておきますけど」
わたしの言葉に、パイロンが目を向ける。
「わたしは子供だから」
苦笑するパイロンに、わたしは問いかける。
「なんだかさあ、結局肝心なことを聞いてない気がするんだけど」
パイロンは、ため息をつく。
「なんだね」
「えっと、春妃はどんなろくでもないことをしたのよ」
パイロンは、少し残酷にも見える笑みを浮かべて、語った。
「君がやったのは、本に蓄積されている知識を利用して、原子爆弾を積んだ弾道ミサイルを作り上げることだった。それで、ニューヨークとロンドンとエルサレムを破壊しようとしたんだよ」
パイロンは、契約が完了し、魂を手に入れた悪魔のように笑う。
「ロスチャイルドに阻止され、未遂に終わったけれどね。もし成功していれば、数千万のひとが死んだろうな」
パイロンは、肩を竦めた。
「色々な事情を差し引いたとしても、君のやろうとしたことは、誉められることではないね」