表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/132

114 「フール・オブ・エボニーアイヴォリー」

「一旦は、我々はそれに成功する。まあ、ロスチャイルドも、第二次世界体戦後は色々忙しかったようで、それどころじゃあなかったのかもしれない」

わたしは、手をあげる。

「先生、わからないところがあります」

パイロンは、教師のように慇懃な顔で、答える。

「何かね、リズ」

「我々って、誰のことよ」

「もちろん、この僕と」

パイロンは、道化を見る。

「そこの道化さ」

道化は、白と黒に塗り分けられた顔を、大仰な笑みに埋め一礼してみせる。

「まあ、そのころはまだ道化ではなく、ルードヴィッヒ・フォン・ヴェックと名乗っていたがね。僕が頼んだのだよ。彼が道化になるように」

わたしは、目を丸くする。

「なんだって、そんなことを」

パイロンは肩を竦める。

「ロスチャイルドの追求は、次第に厳しくなっていった。ソビエトが崩壊した後には、それを躱しつづけるのが不可能になっていた。だから我々は、断片的に土曜日の本の情報を開示することにしたんだ。だがそうすると、土曜日の本の秘密を知りつくしているルードヴィッヒの身が、危険になる。だから、狂って全てを忘れてしまったということにしたんだよ」

なんとまあ。

「演技だったの、道化のふるまいは!」

わたしの驚いた声に、道化は首を振る。

「そうじゃあ、ないよ」

エリカも、頷く。

「彼のやったのは、もっとろくでもないこと」

ええと。

よく、判んないけど。

「見せてやりなよ、ティル・オイレンシュピーゲル」

パイロンの言葉に、道化は頷く。

彼は、一枚のカードを取り出す。

彼自身とそっくりな道化が描かれた、カード。

道化は、歌うようにいった。

「これは、大アルカナの一枚。フール・オブ・エボニーアイヴォリー」

見たけど、意味判んない。

エリカが、うんざりしたような顔でわたしに言う。

「こいつのアビリティーは、とても危険なの」

「へえ、どんなの?」

わたしの問いに、嫌悪に顔を歪めたエリカが説明する。

「これはね、ひとを幸福にするの」

ふうん、べつにいいんじゃあないの。

ちょっと、きょとんとした顔にわたしはなる。

沙羅は、ひどく蒼ざめていた。

彼女は、意味を理解したらしい。

誰も語りたがらないのを見てとったパイロンが、説明する。

「これのアビリティーは、感情を固定してしまう。幸福という状態でね。たとえどんなに哀しいことがあろうとも、それが許されない。何があろうとも。笑い続けねばならなくなる。ある意味、ひととして、死ぬようなものだね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ