113 「悪魔と契約してしまったような気分」
エリカは鼻で笑った。
「リズ、あんたって、わたしに招かれてこの世界へ迷い込んだ、ただの女子高生じゃあなかったの」
わたしは頷く。
「まあ、そう言ってもいいのだけれどね」
わたしは、パイロンを指差した。
「多分、パイロンが、説明してくれるよ」
パイロンは、営業スマイルを浮かべたまま、頷く。
「ふむ、君が春妃だというのなら、その意味において正しいよ」
エリカは、パイロンを見る。
「あなたは、全て春妃のせいだというの」
パイロンは、ぐいっと顔をつきだして、強く光る目でエリカを見る。
「流竄院秋水が死んだあと、春妃がしでかした一連の出来事。全てはその後始末のためだと言えば、理解できるかな」
エリカは納得したようには見えなかったけれど、沈黙した。変わりに、わたしがパイロンに尋ねる。
「そこのところ、もう少し詳しく説明してもらってもいいかな」
パイロンは契約がとれた営業のように、にんまりと微笑んだ。
「ああ、いいよ。君がかつて何をしでかしたか、教えてあげる。リズ」
わたしは笑みを浮かべるパイロンを見ながら、少し悪魔と契約してしまったような気分になるが、パイロンに笑みを返した。
パイロンは、満足げに頷いて話を続ける。
「春妃の兄、秋水はニューヨークでジャーナリストをしていた。彼は、ずっとロスチャイルドを追っていた。秋水は何かをつかみ、公表しようとしたんだが果たせず不慮の事故で死ぬことになる。春妃はそれを事故だとは、思わなかった。だから彼女は復讐のためにロスチャイルドに近づき、その内部へと入り込む。彼女はロスチャイルドに入り込むため、土曜日の本を利用した」
パイロンは、わたしの目を見る。
「少し退屈な話になるかもしれないけれど、いいかな」
いやいや、まだ欠伸とかしてないし。
「もちろん」
パイロンは頷く。
「結局春妃は復讐を果たす前に自殺するのだけれど、土曜日の本の秘密は、ロスチャイルドの知るところとなってしまったんだ。我々それを闇に葬るため、奔走した」
パイロンは、少し哀しげな目をして話を続ける。