111 「ストーリーテラー」
わたしは、あなたにエリカの行き先を、探してもらう。
あなたは、パーミット・オブ・グレイのアビリティーを使用して、島のなかを検索する。
そして、わたしたちは王宮を見いだした。
わたしたちは、沙羅に支えられ、アリスの車まで歩く。
移動しながら、わたしたちと沙羅は色々な話をする。
どうも、エリカは、わたしたちと姉妹らしい。
さらに、わたしたちのお父さんはどうもあの、ティル・オイレンシュピーゲルと名乗る道化のようだ。
それは、認めたくないことなのだけどね。
話をしている間に、わたしたちは車につく。
王宮は、車を使えばそう遠くない距離にあった。
アリスは少々強引に森をこじ開けて、車を走らせる。
わたしたちは、白鳥を思わせる、美しい王宮の前についた。
車から降りたわたしたちを出迎えたのは、道化である。
城から堀を越えてこちら側へと架けられたその橋の、ほぼ中央に道化は立っていた。
まるで、夢の中から現れ出でたような、奇妙な姿。
白と黒の市松模様でチェス盤のように塗り分けられた衣装。
顔もまた、同じように白と黒のペイントで、塗り分けており。
帽子につけた鈴が、風に揺らされて。
チリリ、チリリと音がする。
回りの空間ごと、幻覚の世界に変えるのではと思えてしまうその道化を、わたしたちは知っていた。
ティル・オイレンシュピーゲルと、名乗るふざけたおとこ。
沙羅が、道化に言葉をかける。
「あなた、梟鏡なのでしょう?」
道化は、優雅に一礼をしてみせた。
「僕のことは、ティル・オイレンシュピーゲルと呼んでくれないか」
沙羅が何か言おうとするのを、わたしは手を掴んでとめる。
「ティル・オイレンシュピーゲルと呼んであげてもいいけれど、あなたがローゼンフェルトに味方してるのであれば、あなたは敵ということになる」
わたしは、なんとか赤の女王を呼び出すことに、成功した。
咲き誇る薔薇のように美しい、深紅のドレスに身を包んだ、無敵の守護生命体。
赤の女王は、その大きな鋏を、道化に向ける。
道化は、びっくりした顔をした。
「おいおい、僕は道化だよ」
「そして、この本の、ストーリーテラーのつもりなんでしょう?」
わたしの言葉に、道化は少し、苦笑する。
「登場人物がひとりたりとも、僕の思い通りに動かないけどね」
「なるほど、あなたは道化だわ」
わたしと、道化はそろって笑い声をあげた。
沙羅とアリスは、少しあきれたようにわたしたちを、見ている。
道化は、優雅な物腰で城門へ誘った。
「中では、もう決着がついたころだ。さあ、皆。道化の演じる最後の出し物を、特等席で見せてあげよう」




