011 「守護生命体」
カードに封印された守護生命体。
彼らは初代フォン・ヴェックであるウルリッヒが造り出した人工生命体であり、フォン・ヴェックの一族を守るために存在している。
黒の剣士。
漆黒の長剣を手に提げ、革の鎧に身を包んでいる。
鎧に覆われていない手足と頭部には、闇色の包帯が巻かれていた。
包帯の隙間から金色の瞳と、傷痕のように赤く裂けた口が見える。
守護生命体は、自らの意思をもたない。
彼らの意識は、わたしたちの意識に繋がっている。
だから、黒の剣士の瞳に映るものはわたしにも見ることができた。
そして、彼らの手足の感覚もわたしに繋がっている。
黒の剣士の胸には、傷痕が残っていた。
空で嘲笑う赤い三日月のような。
それはわたしに死をもたらした傷。
フェリシアンの操る金の乗り手に刺し貫かれた。
その痛みが未だに残り、わたしに伝えられている。
狼が呟くように言った。
「同じことの繰り返しだよ、フォン・ヴェックの娘」
「判ってないね」
黒の剣士の姿が一瞬消える。
金属音が響き、わたしたちを包囲していた兵士の構える銃が砕かれた。
狼が叫ぶ。
「フェリシアン・シャルル!」
わたしの頭上に、巨大な獣が出現する。
日出男がわたしを抱き抱えて後ろへ跳び、獣に踏み殺されるのを防いだ。
フェリシアンの操る金の乗り手。
巨大な獣が曳く戦車には、金色の鎧を纏った騎士が立つ。
獣は猛禽の頭と翼を持ち、獅子の身体を持つ獣グリフィン。そのグリフィンの嘴がわたしに襲い掛かる。
日出男が軍刀でその嘴を弾く。獣は怒りの叫びをあげた。
黄金の騎士は手にした鞭をふりあげる。
短剣がその先端についた鞭。
かつてわたしの剣士を貫いた剣を付けたその鞭を、振り下ろす。
空気と音を引き裂きながら剣は、わたしの胸めがけて飛来する。
わたしの目の前に再び出現した黒の剣士が、その剣を弾いた。
狼が呟く。
「クレール・ド・カリオストロ。終わらせるぞ」
「判っています」
クレールはカードを手に叫ぶ。
「古の契約に基づき汝を召喚する。キング・オブ・エメラルド」
緑の王。
そして森の王であるバフォメット。
半獣半神の守護生命体が姿を現す。