108 「どう説明していいのか、判りません」
「理沙、あなた」
沙羅は、驚愕で目を見開く。
「しゃべることが、できるの!?」
ああそうか、とわたしは思う。
「えっと、わたし見た目は理沙なんだけど、中身は理図なんで」
沙羅は、さらに驚きを積み重ねる。
「理図は、そこで死んでるのではないの?」
わたしは、言葉につまる。
「えっと、そこで死んでるのは理図ですが、中身は理沙の中にいるんだけど」
「じゃあ、理沙が死んでしまったということ?」
「いやいや」
わたしは、くらくらしてくる。
自分で言っていながら、状況が不条理すぎだ。
「理沙は、状況についていけなくて、奥に引っ込んでます」
「奥ってどこよ」
そんな質問するなよと思いつつ、わたしは答える。
「えっと、胸の奥とでもいいましょうか」
沙羅は、首をふる。
「申し訳ないけど、さっぱり言ってることが、判らない」
「申し訳ないけど、どう説明していいのか、判りません」
アリスが、口をはさんだ。
「ようするに、だ」
アリスの言葉は落ち着いており、聞いているとなぜか安心する。
「理沙の身体に、理図と理沙の二人ぶんの魂が宿っているということなのだろう」
わたしはその言葉に、ぶんぶんと何度も頷く。
ようやく納得したのか、沙羅がわたしのそばに来て、わたしを抱きしめる。
「二人とも、ここにいるのね」
わたしと、あなた。
ふたりで、その問いに答える。
「わたしたちは、ここにいます」
「よかった」
沙羅は、ぎゅっと抱いた腕に、力を込める。
その身体から伝わる熱が、わたしのこころを溶かしていくような気がした。
アリスが、後ろから声をかける。
「沙羅、それに理図、申し訳ないが、あまり今は落ち着いていられる状況ではないと思う」
沙羅とわたしは、並んでアリスを見る。
「兎に角、はやくここを離れたほうがいい。移動しながら、状況を話してくれ。できれば手短に。それと」
アリスは、鋭い瞳でわたしを見た。
「この本から、外の世界へ帰る意思があると思っていていいんだね?」
わたしは、頷く。
アリスは、少し微笑む。
「では、我々の目的は、無事に本の外へ帰ることだね」
わたしたちはもう一度、深くしっかりと頷いた。




