107 「わたしの戦いは、終わりました」
黒の剣士は、バフォメットの心臓から剣を引き抜く。
血がしぶき、バフォメットは消滅した。
エリカは、地面に倒れ伏したクレールの前に立つ。
クレールは水の中へと沈んでゆくオフィーリアのように、蒼白となっている。
「なぜ、途中から戦うのをやめた?」
エリカの問いに、クレールは寂しげな笑みを浮かべ、答える。
「フェリシアンが死んだから。わたしの戦いは、終わりました」
エリカは頷く。
大アルカナ同士は繋がっているので、黄金の騎士が消滅したのは判っている。
「多分、リズも」
そう言って、クレールは息絶えた。
エリカは、眉を曇らせる。
赤の女王の消滅は、感じていないのだが。
問いただすにも、クレールは帰らぬひととなっている。
エリカは、沸き上がってくる疑問を振り払うように、黒の剣士が持つ剣を天空に掲げた。
「見よ、アマクサの民よ。お前たちの主である、アマクサシロウは我が剣により葬られた」
エリカは、挑むような瞳で、王宮を見上げる。
「どうする、フォン・ヴェックに従うか、まだ、ローゼンフェルトにつくか」
城門から、兵士たちが姿を現す。
皆、刀は鞘へ納めたままだ。
その目にも、戦意は既に無い。
兵士たちは、エリカの前に揃って膝を付いた。
「あなたに従おう、エリカ様」
先頭で頭を垂れている兵士が、語る。
「我々は、ローゼンフェルトに従う意思はない。あれはただの軍人だ。王ではない。やつらはこの国を戦争に巻き込むつもりだ」
エリカは、頷く。
「約束しよう。フォン・ヴェックは決してそなたたちを、戦に巻き込むことはしない」
そして、エリカは橋を渡り、城門へと向かう。
日出男たちが、後に続いた。