105 「本を読むように」
あなたは。
影の状態で、わたしの元へ駆けつけてくれた。
けれども、あなたの目の前でわたしの心臓が、短剣で貫かれる。
あなたは。
為す術もなく、わたしの身体が浜辺へと崩れ落ちるのを見た。
あなたは、夢中でわたしの傍らに、ひざまづく。
あなたは、パーミット・オブ・グレイのアビリティーを使い、わたしの失われていこうとしている意識を追う。
パーミット・オブ・グレイは、わたしの意識の残照を捕らえる。
その検索の糸が網となり、失われていく意識を包み込んでいった。
あなたは。
本を読むように。
わたしの思考を、わたしの記憶を自分の中へと、取り込んでいった。
それは多分、土曜日の本へとひとを取り込んでゆくのと、同じようなことだろう。
わたしは、あなたの中へと、書き込まれてゆく。
そして、わたしは、あなたとひとつとなっていった。
わたしの記憶の最後の一滴まで、あなたの中へ取り込まれたとき、あなたは影の中から歩みでる。
あなたが、黄金の騎士の前へと立ったときに、わたしもあなたの中で目覚めた。
あなたとわたし、その傍らには、深紅のドレスを纏った赤の女王が並んで立つ。
フェリシアンは、息をのんだ。
「まさか、そんな」
赤の女王が持つ鋏がふるわれ、黄金の騎士の胴が両断される。
ゆっくりと、金色に輝く上半身が地面へと沈んでいった。
あたかも。
金色の夕陽が、大地の果てへと沈んでいくように。
フェリシアンは、糸の切れた操り人形のように、膝をつき。
呆然と呟く。
「なぜ、死んで尚、赤の女王を操れる」
フェリシアンは、そのまま浜辺へ沈み大地に横たわった。
あなたは、そしてわたしは、それを見届ける。
けれど、それが限界だった。
ひとりの身体で、二つの守護生命体を操るのは、無理がある。
意識が暗くなるのを感じ、あなたは、そしてわたしはこの場に膝をついた。
わたしが倒れそうになった時、その声が聞こえる。
「やっと見つけたぞ、別宮理沙」
わたしは、必死で意識を保つ。
わたしの目に飛び込んできたのは、金髪の美貌。
ラインハルト・ハイドリッヒだ。