表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/132

101 「あっけない」

ポーンは炎と爆煙に包まれ、動きを止めた。

ポーンは立ち上がった、地獄の松明と化している。

焼け焦げた空気が、わたしの顔を撫でていった。

一体誰が、ポーンを撃ったのだろうと、疑問に思いながらわたしは、身をおこすが。

そのわたしの目に飛び込んできたのは、金色の輝きである。

わたしの目の前にいるのは、黄金色の戦車に乗った金色の騎士とひとりの優男、フェリシアン・シャルルであった。

わたしはふらつく足で身を支え、フェリシアンに目を向ける。

フェリシアンは嫌味なほどやさしげな瞳で、わたしを見返す。

赤の女王とわたしの間に、戦車は着地していた。

わたしの傍らでグリフィンが、炎のような吐息をついている。

わたしは、完全に追い詰められていた。

夜明けの太陽がごとく輝いている戦車を前に、わたしは為すすべもなく立ちすくんでいる。

フェリシアンが、微笑みながらわたしに言った。


「これがチェスなら、詰んでいると思わないか」


どこかで聞いたような台詞だ。

わたしは、口を歪めて答える。


「命乞いをしたら、助けるとでもいうの?」


フェリシアンは、優しげな笑みを浮かべたまま、頷いてみせる。


「大アルカナを我々に渡して降伏すれば、命はとらない」


わたしは、声をあげて笑う。

フェリシアンの背後で赤の女王が、鋏を振るった。

しかし、風を巻きおこして黄金の戦車は消失し、鋏は何もない空間を切り裂いただけだ。

背中から黄金の輝きを受け、思わず振り向くと。

わたしの胸に、何かが突き刺さる。

鞭の先についた短剣が、正確にわたしの胸に突き刺さっていた。

風が、わたしの身体を包む。

黄金の戦車がおこした風が、遅れてわたしに届いた。

けれど、わたしにはもう何かを感じることもできず、呆然と自分の胸にささった短剣を、遠い景色を見るように見ている。

痛みや恐怖や絶望を感じる間も、無い。

わたしは闇夜に輝く月のような黄金騎士にむきあいつつ、暗黒が意識を飲み込むのを感じる。

闇は燎原の炎がごとく、速やかにわたしの意識を飲み込んでゆく。

かろうじて、頭の片隅でこう思った。


(あっけない)


わたしは、死んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ