100 「わたしは、死を覚悟する」
わたしは、背後に金色の光が射すのを感じる。
わたしの顔から、血の気がひく。
慌てて振り向いたわたしの全身を、風がつつむ。
ポーンが出現したことにより、押し退けられた空気が、暴風となってわたしを襲う。
わたしの身体が吹き飛ばされそうになるのを、赤の女王が抱き止めた。
なんとか地面に繋ぎ止められたわたしの前に、ポーンの持つ重機関銃の銃口が向けられる。
赤の女王はわたしを置いて鋏をかまえるが、空間断層の盾を作り上げるには時間が足りない。
わたしは、赤の女王の腰にしがみつく。
赤の女王が跳躍し、さっきまでわたしたちのいた場所に、銃弾が着弾して土煙をあげる。
空カートリッジがばらばらと、地面におちてゆく。
わたしたちは、宙を跳んだ。
ポーンが鋏の間合いに入り、赤の女王が空間を切り裂く。
切断されたポーンの首が、地面へ落ちた。
それと同時に、爆音が背後でおきる。
TOWだ。
ごく、至近距離でミサイルが発射されたため、もう目の前に来ている。
閉鎖空間に封じるのは、間に合わない。
空間断層のブレードを二つ放つのと同時に、わたしと赤の女王の前に盾を作り出す。
ミサイルを誘導するワイヤーが、空間断層のブレードに切断され、標的を見失ったミサイルが地面に落ち爆発する。
赤の女王にしがみついていたわたしは、爆風で跳ね飛ばされた。
不可視の手で投げ飛ばされたように、宙を飛ぶ。
盾に守られていたので、直撃からは免れたけれど、わたしと赤の女王は地面を幾度かバウンドしながら転がる。
幾度か意識が遠のきながらも、ミサイルを撃ったポーンの首が空間断層のブレードに切り落とされたのは確認した。
砂まみれとなり、地面に転がったわたしは何か巨大なものの影にはいる。
見上げると、そこに聳え立つ大樹のように、ポーンが立っていた。
揺らぐ意識の中で、銃口がわたしに向けられるのを見る。
赤の女王は、2メートル先に倒れていた。
打つ手がない。
わたしは、死を覚悟する。
見上げるわたしの目に、泣きたいほど青い空が飛び込んできた。
その時。
青い空を引き裂いて飛来する、ロケット弾を見た。
それは、ポーンの頭に命中し、炸裂する。




