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mermaid story

作者: m.m

この物語は、人魚の少年への恋心を描いています。


これは、深い深い海の底の物語。

人魚は、1人だった。

真っ暗闇の海底。なにも、見えない。

人魚は泳ぎ続けた。

それはなぜか。

人魚は信じていたから。

どんなに暗い所でも

一人ぼっちでも

泳いで泳いでその先にあるものは

きっと、幸せだってことを。


目の前に、一筋の光が差し込んだ。

かすかな、地上からの月の光。

「光の射し込んでいる場所は、どんなところなの?」

人魚は、光の射し込むところにむかって、泳いだ。






夜空には光り輝く一等星。

まん丸いお月様。

人間の世界であった。

「素敵なところ…」

人魚は岩場に腰掛けて、満天の星が散りばめられたら夜空を見上げていた。





どれくらい夜空を眺めていたことだろうか。

しばらくして、浜の方から笛の音色が聞こえた。

美しい音色だった。

思わず心が弾んでしまう楽しい音色。

「だれ?」

浜の方にゆっくり泳いでみる。

そこには笛を楽しそうに吹く少年の姿。

「素敵な音色。」

人魚は少年に声をかけた。

少年は驚いた顔で人魚を見ている。

上半身は人間の体で、下半身は魚体である生き物が突然じぶんに話しかけられたら、驚くのが当然だ。

「ありがとう。もしかして君は、人魚なのかい?」

少年は人魚に問いかける。

「ええ、そうよ。驚かせてしまってごめんなさい。あなたはどうしてここにいるの?」

「僕には帰る家がないのです。」

先ほどまでの楽しそうに笛を吹く少年とは思えないほど暗い表情をしていた。

人魚は黙ったままだった。

「僕の両親は、僕を捨ててどこかに行ってしまいました。」

人魚は口を開いた。

「あなたは、独りぼっち?」

「僕は、独りぼっちです。」

人魚はしばらく黙って、また口を開いた。

「私、あなたの笛の音色が大好き。これからも毎日、ここに聞きに来ていいですか?」

少年は素直に嬉しかった。

「また、笛を吹きに、あなたに会いに、ここにきます。」

「ありがとう。」





2人はその夜から毎晩、笛を楽しんだり、いろんな話をした。

「人魚さんは、どんなところに住んでいるのですか?」

少年がふいにたずねる。

「私は、深い深い海の底でひとりで暮らしています。」

「人魚さんも、独りぼっち?」

「そう、私も独りぼっちなのです。」

「それじゃあ、僕とおんなじだ。」

「いいえ、あなたは1人ではないですよ。」

人魚はにっこり笑って、少年の手を取った。

海水で濡れた人魚の手は、冷たかった。

「あなたに、これを差し上げます。」

人魚が手にしていたのは透き通るほどの美しい真珠だった。

「わたしがいただいて良いのですか?」

「はい、これは2人の絆の証です。これで、独りぼっちではありません。」

少年にとって、その言葉はあたたかかった。

なんとも嬉しそうにそっと微笑む少年を見て、人魚もまた、にっこり笑った。







ある夜、人魚は少年を待っていた。

今日はどんな話をしようか。

少年は今日も笑ってくれるか。

そんなことを考えて、ただただ待っていた。

しかし、少年は一向に現れない。

その次の日の夜も、また次の日の夜も

少年は姿を現さなかった。





次の日、海面から顔を出してみると

そこには見たこともない風景が。

空は真っ赤で、生臭い匂いと鉛の匂いが、空気中に混じっていた。

戦争だ。陸で、戦争が起こっている。

「どうか神さま、あの子が無事でいますように…」

人魚は暗い海の中から毎日願った。



それから人魚は何年少年を待ったことだろう。

どれだけ待っても、少年は来ない。

「神様は意地悪だわ。どうして、どうしてあれだけ真っ赤に染まっていた空はもうこんなに青く澄み渡っているのに、あの子は帰ってこないの?私には分からない。こんな世界、大きらい。神さまなんて、もう信じない。」

人魚は海に戻っていった。

また、深い深い海の底に。






20年後

1人の男がまだ小さい子供の手をひいて、海岸にやってきた。

「パパ、ここどこ?」

「ここはね、パパが一番最初に恋した人と出会った場所だよ。ママには内緒だぞ?」

その男の手の中には、美しい真珠が一粒。

男は小さなバッグから笛を出し、海に向かって音色を奏でた。

「長い間、お待たせしてごめんなさい。私は今、この地に帰ってきました。あなたは、お元気でしょうか?私はこの長い戦争が終わり、しばらくして結婚しました。家族が出来たんです。もう、1人ではありません。あなたにもらった真珠のおかげです。ありがとう。」

男は海の彼方に向かって持っていた笛を思いっきり投げた。いつか、潮の流れにのって、笛が人魚のところに届いたら。そう思って。





真っ暗闇。

人魚は、泳いでいる。

目の前が真っ暗で、どこに向かっているか分からない。

それでも、ひたすら泳ぎ続けている。

潮の流れに髪をなびかせながら。


すると、潮の流れに乗ってきた何かが、人魚の腕に当たった。人魚はそれを拾い上げた。

「なにかしら?」

よく見ると、それは何とも思い出深いモノだった。

手に取った感触も、覚えがある。

「必ずまた、私はあなたに恋をする。あなたの永遠の幸せを祈っていますよ。」

人魚はまた、泳ぎ始めた。

そう、どれだけあたりが暗くても、目の前が真っ暗でも、必ずまた一筋の光が射し込むと信じて、人魚は泳ぎ続ける。

いつかきっと、また少年に巡り会えるこを信じて。

これは、架空の話で、実際には存在しません。

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