恋の行方
あの後の記憶は余りはっきりしていない。
ぼんやりしすぎて、サヤカちゃんに家まで送って貰ったぐらいなので、よっぽどだったのだろう。
「鈴ちゃん、今日は部活休みだったよね?」
「……うん」
「いいかな?」
「……うん」
「鈴ちゃん、今日は何故だか、上の空だね?どうかした?」
私が答えられずに黙り込むと、猫くんは悲しそうに笑った。
「お休み」
結局、授業中も上の空で、真面目に受けられなかった。
気がつけば放課後になっており、クラスメート達は居なくなっていた。
サヤカちゃんと挨拶を交わしたような気がしたが、ちゃんと返せたか覚えていなかった。
気づかない内に、猫くんの頭を撫でる手も止まっていた。
「鈴ちゃん、大事な話、してもいいかな?」
猫くんが閉じていた目を開き、いつになく真剣な瞳で此方を見つめてきた。
あの先輩はだれ?
彼女なの?
私はもう要らない?
大事な話ってもしかして、もう止めようってこと?
ぶつけたい質問はいくつもあった。
でも、一つも聞けなかった。
私には、その質問を問いただして、答えを得る権利がなかったから。
……だから、頷くしかなかった。
けれども、猫くんの話は私の予想を遥かに上回るものだった。
「鈴ちゃん、真面目に答えて。間違ってたらごめん。
……俺のこと、好き?」
猫くん……亜輝くんのことが、好き?
そっか、私は……亜輝くんの髪の毛じゃなくて、亜輝くん自身に恋してたんだ。今更、わかった。
答えようと口を開き掛けた私の口を、慌てた様子の亜輝くんが塞いだ。
「ごめん。やっぱり、さっきのは無し。
……俺は、鈴ちゃんのことが好きなんだ。俺のこと、好きになって」
あぁ、この恋は叶うんだ。
やっと、叶った……私の恋。
「私も、亜輝くんのことが好き、です」
言った瞬間に、目を閉じた亜輝くんの顔が近づいてきた。
教室の片隅、私の恋が叶った瞬間……
私はこの日を、十年以上たった今でも忘れていない。




