フライ・・・続編
昼休みたまに一人になると更新しようとする私。
リハビリは順調なのか?
都は、いや今呼ばれる名はミ〜ヤだから、自分でもミ〜ヤと言うべきなのか、とても困っていた。
あまり保護者にさえ感情を見せない自分をここまで追い詰めるとは恐るべき相手だと思う。
この屋敷から一歩も保護者同伴以外は出る事を許されない自分だ。
まあ出たいとは思わないしそれは別にいい。
この屋敷に出入りできるのは、あの二人が認めたわずかな人間で、使用人にいたっては、全て洗脳ずみの私と組織のトップである二人の狂信者しかいない。
彼等は簡単に私達の為に命を投げ出す。
助けてもらった命だからと。
本当に私の保護者たちはやる事がえげつない。
オークションにかけられた者達や様々な事情で追い詰められた人間の中で、こいつは使えると思う人間を見つけると更にひどくその人間を死なない程度に追い詰める。
中にはそのまま死んでしまう者もいるらしいが彼等は「アリの中にも毛色の変わった変種も出るもんだ」と片手間にせっせと変種作りにいそしみ、更にその変種を闘わせると言う彼等の言う「建設的共食い」をさせ、感情さえ忘れ狂う寸前の人間に優しく手を差し延べる。
気の毒なのは使い捨てにされる共食いをさせる役目をおう人間だ。
自分は新しい組織をまかされたんだと張り切ってその仕事をになう。
「使えない奴らを好きにしろ」と直々にボスに言われ、まあ、そのボスもまたその上のボスに言われと、まるで伝言ゲームのような世界だけど、彼等は何に踊らされているかわからないうちに、私の保護者による「アリの救済」という名目で残酷に潰される。
まるで本当のアリを簡単に踏み潰すように。
実質の最高権力者を知らないまま。
こうして救われた変種の強いアリ達は絶対の忠誠を誓う。
共食いをさせる組織を毎回替えるのは「張り切って新しい権力に酔うバカは俺達でさえ考えつかない酷い方法を編み出すから」だそうだ。
毎年ごとに行われるそれに「いつか潰す組織がなくなっちゃうよ」と言う私に、「本当にお前はかわいいね。 あいつらは本当にウヨウヨいるから大丈夫。潰しても潰してもわいてくる。
この素晴らしい世界がある限りアリも使い捨てにも困る事はないからね」そう言って笑った。
そうして、強い狂信的なアリの軍隊が着々と増やされ、その中でも一部のより強いアリがこの屋敷に使用人として働き住み着いている。
私の生活は基本、保護者のどちらかが屋敷に残り私の世話をするのだけれど、本当にどうしようもない忙しい時は使用人の彼等に任せられる。
で、現在も二人の保護者は揃っていない。
どこぞの国が裏切ったとかで、うん、大きくなったよね。
悪さも国単位だよ、あの逃げ続けた日々、震えて泣いていた二人がまさかこうなるとは思いもしなかった。
私はいつものように自室に篭り色とりどりの飴でいっぱいの瓶を眺めていた。
本当に私は毎日瓶を眺めていられればハッピーだ。
本当に手がかからないと思う。
あの桜の飴は、たった一つだけの飴は丁寧にレジンでコーティングされ、今私の胸元で肌身離さず身につけるペンダントとなった。
二人とやっと最初の小さなマンションに住みはじめた時にいつもポケットに大事に入れていた飴は、あの時、桜が消えた場所に落ちていた飴は、とうとう舐めないまま大事に握り締めたままだった飴は私がその後握り締めすぎたせいで溶けてしまっていた。
気がついた時は形がいびつになり包み紙と飴がグチャグチャになって固まっていた。
感情をほとんど出さない私がそれをそっと保存し出しては悲しそうに眺めるので、二人も気にしてくれていた。
そんな二人がレジン樹脂という存在を調べて私にその材料をくれた。
私は息を止めて、そっとそっと、本当にそっと桜の飴を少しずつコーティングした。
二人ははじめその道のプロの人に頼むつもりだったらしいが何の文句一つも言った事のない私が「絶対誰にも桜の大切な飴は渡さない!私から取り上げるなら私が死んだ時だ」
そう狂ったように二人を睨みつけ叫んだ。
私は桜と二人連れていかれたあの家でも、自分の体が切られるあの時でも彼等二人に、ましてやその仲間の人たちにも何か恨みごとを言った事はなかった。
もちろん卓にぃが連れていかれた時と桜が連れていかれた時は絶叫したけど。
あの桜の時は内臓を初めてとられたばかりでどんなに体を動かして桜を取り戻したくても目で追いかけるだけしかできなかったし返せ!と叫ぶ声さえ出なかった。
この大事な私の家族の場合はノ~カウントだと思う。
だから二人はそれに驚いて睨む私にひたすら謝り、結局材料を買ってきてくれて私がその作業を行う事になった。
大きい図体の二人が黒と銀の髪をそれぞれタオルに包み埃一つ入らないように一緒に小さな部屋を掃除して神聖な儀式のように私と一緒に息を止めて私の作業を見ていたのを思い出す。
で、何で今そんな事を思い出しているかというと私の部屋にふてぶてしいカラスがなぜか現在進行系でいるから。
なにげに天気も気候もいいので、たまには窓をあけて新鮮な空気を吸おうとしたんだ。
あの過保護を通り越していっちゃってる感がある保護者の二人が揃っていないなんて早々ないし、あまりにも気持ち良さそうな天気に、つい、本当につい真っ当な事をしてしまった。
たまには新鮮な空気でも味わってみようかと思った私が悪いのか?
このカラスの事は知っている。
よく庭にある木の枝に止まってる。
他のカラスを追い払い、いつも堂々と枝に止まってる一際大きいそのカラスをいつの間にか見るようになっていたから。
だけどまさか開けた瞬間部屋に乱入してくるなんて思わなかった。
普通思わないよね?
それともこれが普通なのか?
学校と名がつくものに一度もいった事がない私には判断がつかない。
一瞬何がおきたのかわからなかった。
ただ呆然としていた。
やつはすぐさま桜の瓶の飴たちに突進してその上に着地し嘴でそれをつつきはじめた。
瓶の口はしっかり封をしてある。
けれど私はそれを守ろうと負けずにカラスに突進した。
すぐに瓶から飛び立ち部屋を飛び回るカラスは私を馬鹿にしたかのようにくるくるとせわしなく部屋の中を飛び回る。
やつを見ながら必死で追いかけ回す私はいつの間にか胸元に大切に隠されているはずの飴のペンダントが服の外にとび出ているのに気がつかなかった。
これは私の勘を褒めるべきだと思うが、確かに私はやつのまっ黒な目が私を見てキラリンと光ったのを見た。
もはやカラスとは侮れない。
やつが急に私に向かって飛んできた時、私は無意識に手でペンダントを握り締めていた。
どっかで昔聞いた事がある。
夢のような遠い昔。
機械がガチンガチンとなるすごくうるさい音と独特な機械油の臭い。
作業場で働く男の人や女の人の機械の音に負けないように会話する大きな声。
小さな庭の隅でキラキラした金属のくずを空き箱に入れて眺めては触って遊ぶ幼い私に綺麗な金属くずが出ると作業の手を休めてわざわざ持ってきてくれる人がいた。
「都、ほら。俺が持ってくるの以外は勝手に拾っちゃダメだからな。手を切るからな、痛いぞ。お前にケガさせたらひどく心配し怒るやつがいるんだからな。まったく卓も恵子もお前に甘い、もう少し父親を敬えっていうんだ。まぁそれも仕方ねぇか~。もう少ししたら、あぁ、もう少ししたら何とか工場も立て直せる」
「働くしか能がねぇからな俺は。来月か再来月か、そのくらいには金ができる。そん時は遊園地に連れていってもらえ。だから兄ちゃんたちが帰るまで婆ちゃんの言う事聞いてお利口に待ってろ」
「俺の事は言うんじゃねーぞ。今度綺麗な色の持ってきてやる。拾ったって言うんだぞ」
そう言って私にまた新しいピカピカの金属のくずをくれるんだ。
油の臭いが染み付いた作業着の上に首から下げたタオルをとると、タオルを裏返しにしてなるべく綺麗な所で私の汗をふいてくれたりもする。
兄ちゃんたちが帰ってくる少し前まで時々そうやって宝物みたいな綺麗な金属のくずをくれる人。
兄ちゃんか姉ちゃんがくると全然近寄ってこない人。
あるとき庭においておいた空き箱に入っていた特にお気に入りのクルクルと渦巻く細いリボンのような形のものがなくなっていた。
なげく私に卓にぃはティッシュの紙で不器用に細長いリボンを作ってくれた。
ああ、その時に聞いたんだ。
「なぁ都、きっとカラスだ。俺聞いた事ある、昔父ちゃんに。カラスはピカピカ光るものが大好きで持っていっちまうって」
「きっと大事な家族にお土産に持っていくんだ。な、許してやれな。兄ちゃんがたくさんリボン作ってやるから」
その後遊びにいってた恵ねぇが本物のリボンを私にくれた。
恵ねぇが持ってる二本のリボンの片方をお揃いだって言って。
私は確かその時カラスが持っていったあのリボンじゃ固くて結べないからとても心配したっけ。
遠い遠い大事な記憶を思い出した私は身を屈めながら、ドレッサーまで駆け出した。
急いでドレッサーの引きだしを次々あけ目当てのものを取り出した。
あの保護者二人が私に買い与えてここに入れてあるピカピカの宝石たち。
その中で1番ピカピカで綺麗なやつを取り出す。
私の後ろでバタバタする気配のカラスに私はそれを投げ次にまた別のを投げる。
後ろも見ずに数回繰り返した。
そしてじっと私は屈み込み大事な飴のペンダントを守った。
やがて恐る恐る振り返るとやつはいなくなっていた。
1番ピカピカしてた大きなダイヤの指輪とともに。
私はあわてて窓をしめ無事な桜の飴の瓶たちを確かめほっとしながら胸のペンダントを確かめた。
それから私は二度と窓を開け放す事をしなかったのは言うまでもない。
それと狙撃も教わり、ライフルはいつでもオッケーだ。
うちの保護者が「お前に手を出すやつはいないさ。地獄以上が身内にさえ待ってる」
そう言ってドヤ顔するが私はそれに内心でヤレヤレと首を振る。
カラスの凄さを知らない二人に哀れみの視線を向けながら。