おまけ話三
〈Golden Week……のちょっとした良いコト〉
他の高校については知らないが、過恋学園においてはゴールデンウィーク前に大量の課題が出される。
まったく、うちの学校ときたら、高校生のことを、連休を怠惰に過ごす暇人だと思っているの?
本当に、そのような考えでいるのなら心外よ。
自室のベッドに寄り掛かりながら、テーブルの上の小箱に入っていた最後のチョコレート菓子を摘む。
「連絡がつかない。湊、家に居ないの?」
連休前に、出された課題を一緒に片付ける約束をしたので、早速電話とメールをして今日誘ってみたのだけど、残念なことに両方とも梨の礫の状態。
「……だとしたら、珍しい。大型連休は何処も混むから絶対に単独行動しないと思ったけど、もしかして、方針を変えたの?」
気になる。直接湊の自宅を訪ねてみよう。
大まかな本日の予定を立てた後、掌に置いていたハート型のチョコレートを口に放り込む――甘くてとろけるレアの味を舌の上で転がし、じっくりと堪能する。
――わたしって好きになった物は、最後までとっておくタイプだったのよね、実は。
ゆっくり味わっていたチョコレートが溶けて消えた。
さて、身支度を整えたら、出発しましょうか。
「……はぁ、玄関の呼び鈴を鳴らしてみたけど、これは確実に居ないようね」
課題を幾つか持ってきたのだけど、無駄になって残念だわ。
鞄が少し重いのは煩わしいけど、用もないので、さっさと帰宅しましょうか――
「あれ? 蛍、湊に用事?」
「純っ!? な、何でこんな所にいるのよ……」
湊の家を出て数分後、道端で純にバッタリ出会った。
偶然。そんな訳ないじゃない。これは必然で運命よ!
「起きたら何故かこの時間帯でさ、久々に寝過ごしたね」
「ふーん、無駄に惰眠を貪っていたってこと。それで、此処にいる理由は何?」
純に内心の動揺を見せないように、注意深く受け答えをする。
外出用の可愛いワンピースを着てきて良かった。
だらしなくてみっともない姿は、純に見せられないもの。
「理由なんて、連休中に一人で寂しくご飯を食べるのもつまらないから、暇そうな誰かを誘いに来ただけだよ」
「あら、そうなの。な、なら、湊はお留守のようだし、わたしが一緒に行ってあげる。丁度小腹が空いてきたことだし。ね!」
わたしと出会わなければ、純は友人の壬生と食事をしていたのかもしれないわね。
でも、御生憎様、純はわたしを選んで、わたしと二人っきりで楽しく食事をするの。誘われても絶対にわたしが妨害するから、連絡が来てもちゃんと断りなさいよ、壬生。
「蛍がいいなら、行こっか。店は俺が選んでもいい?」
「任せるわ」
やったわ、邪魔者なし。今日の恋愛運は最高ね。
うふふ、一万分の一の確率で、お菓子に入っているハート型のレアチョコレートを、出掛ける前に食べたのが効いたのかもね。
〈春の大型連休を満喫中……カモしれない〉
はぁ、結局トクの誘いを断れきれなくて、別荘まで付いてきてしまった。
はぁ、連休中は、まったり静かに家の中で過ごしたかったのだが、こうなってしまっては仕方がない。諦めるとするか。
「ユウ、ゴールデンウィークの期間中なのに、随分とご機嫌斜めのようだな……全くけしからん。溜め息なんぞ付いてないで、古賀一族の子ども会をもっと楽しめ」
「私を無理矢理この場所へ連れて来て、その言い種とは、いい度胸してますね、トク」
絶対に巻き込んだ方のする態度ではない。
「そうは言っても、そんな無愛想な顔をされたら、我が一族の子たちが困惑してしまうだろう? 普段は、しない注意もしたくなるさ」
「……そうですね、小さい子どもたちに罪はありませんから、私の態度は早急に改めるとしましょうか」
私が気に入らないのは、トク唯一人だけなので、他人を巻き込む行為は宜しくない行為だ。
はぁ、私としたことが、少々子どもっぽい態度をしてしまったようだ。
子どもたちのお昼寝の時間の前に、トクが絵本の読み聞かせをしている。
一見すると、心暖まる行為なのだが……
「トク、どうして読み聞かせている絵本に出てくる共通の登場人物が、全て山姥なんですか? 山姥はそこまで推すほど、人気も需要もないと思うのですが」
何冊か読み終わった後、子どもたちから離れた場所にトクを呼んで、私はこのような疑問を投げ掛ける。
眠る前に知る物語では決してないと私は認識しているのだが、何故この絵本をあいつは選択したのだろうか。
トクの考えが知りたい。
「チッチッチッチッー、ユウは全然理解していないな。ならば、特別に俺が教えてやろう。山姥という妖怪は、義務教育で習うだろう? だから俺は、おちびちゃんたちの事前学習の手助けを、ついでに今しているのだよ」
トクは人差し指を振りながら、私の疑問にそう答えた。
なるほど、トクの思考に同意は出来ないが、あいつの気持ちは理解した。
「山姥が義務教育の範疇というのには疑問に感じますが、まあいいでしょう。要するに、トクは寝かし付けと予習を同時にやりたかったということですね」
「いや、山姥の存在は義務教育で教わるだろう。海外だって、俺たちが知らないだけで、義務教育モンスターなる高位の存在がいるはずだ」
適当な感じで私が話を纏めたのに、またトクが異質な戯言をほざいて蒸し返している。
山姥は、そんなに話題に挙げられるほど、存在感が無いというのに。
「はぁ、義務教育モンスターですか、今の私の知識では理解が出来ないので、トクがそう考えているモンスターを具体例として出して欲しいですね」
「そうだな……これは多分の話だが、ゴブリンやオークが義務モンとして扱われていると、俺は目星をつけているな」
義務教育モンスターを可愛らしく略さないで欲しい。そんなに可愛いものではないだろう。
「それはなんと言うか、その、大変指摘しづらいのですが、義務教育の教材に使用するには、ちょっと性欲が強すぎませんか?」
彼のモンスターは、山姥よりも教育的に良くない存在だと認識されているはずなので、子どもの学習教材には使用される訳がないのだが……本当にトクはユニークなことを思い付くのだな。
「流石に、その強すぎる個性的な部分は、子ども向けにナーフされるに決っているだろう。だから、子どもにも親しまれるように、安心・安全の品種改良をされているのではないか?」
「性欲の弱体化ですか、他人事ながら種の繁殖をどうしているか心配になりますね」
そのような酷い目に合わすくらいなら、ドラゴンやユニコーンといった人気のありそうなモンスターを最初から採用した方が良いと思うのだが――彼らの考えは私程度では解き明かせられないようだ。
トクと私が義務教育モンスターについて、部屋の端っこで、こそこそ話し合っていると、数人の子どもが絵本を持って私たちの所へやって来た。
「ねぇ、ヤマンバって、みんな、ゆびをつけものにするの?」
そして、近付いてきたおやすみ前の子どもから、過激な質問をされる。
どう返せばいいのか。
答えに窮する。
横目でトクの顔を見る。
私よりも子どもたちと親しい関係性なのだから、望ましい返答が出来るのではないか。あいつに期待しよう。
「ははは、山姥が皆指を漬け物にする訳ではないぞ……って、もしかして、そのタイプの山姥が気に入ったのか。良い趣味しているな」
トクは笑顔で質問に答える。
「……べつにヤマンバなんてすきじゃない。ゆびをつけものにしてくるのも、すごくいやだ。どうせなら、かっこよくシンゾウをつけものにすればいいのに……っておもって、はなしかけただけだし」
し、心臓を漬け物に?! なかなか凄いことを思い付きますね。
なるほど、これがトクの一族の子どもか……大変興味深い。
「ヤマンバっておばあさんだから、つくるのはどうせたくわんなんでしょう? きばんでて、いもくさーいからいやっ! わたしをつけものにするなら、あかくてカワイイしばづけにしてほしいわ」
最初に質問した男の子に対して、一緒に居た女の子が口を尖らせながら、このように否定する。
「えー、ヤマンバのすきにさせてあげなよ、としなんだし」
更に、もう一人居た男の子が、今度は山姥を同情する。
……本当に子どもというのは、色んな考え方を持っている。
「ユウ、見ろ。これが事前学習の成果というものだ!」
子どもたちの言い合いに満足しているトクの顔は、キラキラと光輝いて、大変私を苛つかせる。
トクも子どもたちもお昼寝をして、記憶をリセットして私の心情をリフレッシュさせて欲しい。




