みなと君と妖精
いえーい、やってきました、念願の女子部屋です。
現在、俺は『ミナ』と書かれているドアプレートの前にいます。おそらく、みなとちゃんのお部屋でしょう。
それでは早速開けてみましょうか。
「オープン・ザ・ドアー!!」
バンとドアを開けると、そこには可愛いぬいぐるみも可愛い小物も……なかった。
代わりにあるのは、たくさんの仏像のフィギュアが飾ってある棚と、グチャグチャになった写真が貼ってあるサンドバックだ。
なんともまあ……怪しげなお部屋である。
あーーっ、カワイイ要素がなく、潤いが足りない。カワイイが枯竭している。もっと、カワイイが欲しいぜ。
でもって、俺がゴロンゴロンしようとしたベットには、凶悪な目付きをした宇宙人のでかいぬいぐるみが置かれていた。
これはカワイイではありませんね。全く可愛くありませんので。
バタンと、ドアを勢いよく閉める。
はぁはぁはぁはぁはぁ――――俺、もしかして、疲れているのかな。今日一日、色んなことがあったもんな。だから、こんな変な幻覚を見てしまうのだろう。
ちらりとドアプレートを確認する。
何度見ても『ミナ』と書かれている。うーむ、この部屋で合ってるはずなんだけどな。
もう一度ドアを開く。今度は、恐る恐る、ゆっくり、と。
そして、同じ光景が現れたので閉める。ナンテコッタ、幻覚じゃなかったぜ。
嗚呼、みなとちゃんの意外な一面を見てしまった。女の子って、女の子って、グスン。俺の好きなあの子も、このようなワイルドなお部屋なのだろうか。
悲しみのあまり廊下に転がってると、背中をツンツンとつつかれた。うぅ、もう俺のことは、三分くらいほっといてくれ。
「姉貴の部屋の前で何してんだ。ミーナじゃなくて、えーと、ミナミナ? だっけ、名前――」
俺はカッと目を開き、起き上がる。
あ、姉貴だと、なんとここは、みなとちゃんのお姉さまのお部屋か。
ならば、まだ希望はある。俺の転がるベットは、ここではないってことだろう、少年よ。
「ん? あれいなくなった?」
周りを見渡すと誰もいなかった。
なんと! では俺はついに何かしらの能力を手に入れてしまったのか。ということは、今の声もスーパー神様のお告げであろう。すごいな俺、かっこいいな俺。
「ここにいるっつーの、失礼な奴だな!」
心の中で自画自賛していると、何かに脛をつつかれる。
足元に視線をやると、蜻蛉のような羽で飛ぶ、飴色の髪色の持つハムスターぐらいの小さな少年がいた。
「おいおいおい、うら若き美少女の下着を見てないだろうな、エッチな妖精君」
「んなもん、わざわざ見るかバーカ。毎日、見飽きてるんだよ、こっちは」
な、なんだって?! こいつ毎日そんな良い思いしてんのか。俺の中でなりたい職業ベストスリーに妖精がランクインしてしまうぜ。
ウヒョー、まったくけしからん。俺も主人公やめて妖精になりたいぜ。妖精ってどうやってなるんだ? やっぱり、妖精としてオギャーと生まれないとだめなのか。
「なんだよ、サポート妖精っていいじゃん、いいじゃん」
「はあ? どこがだ。まあいい、その話は後だ。ミーナの部屋はこっち、着いて来い」
妖精はビューンと飛んで、隣の部屋に入っていく。
俺も妖精の後に続き、部屋に入る。
それにしても、ドアプレートには『ナト』って書いてあるんだけど、本当にみなとちゃんのお部屋なのか?
まあ、入ってみればわかるか。それでは、お邪魔しまーす!
妖精君に部屋名を尋ねてみると、さっきのお部屋はみなとちゃんのお姉さまである南さんのお部屋らしい。
なので、『ミナ』とドアプレートには表記されていたみたいだ。
何でも、お姉さまと区別するために、みなとちゃんのドアプレートには『ナト』と表記されているらしい。
正直な話、なぜ漢字表記ではないのだろう。侵入者防止対策か? 紛らわしいぜ、コンチクショー。
まあ、結果的にみなとちゃんの部屋に来れたからいっか。
部屋を軽く見渡す。
みなとちゃんのお部屋は思っていたよりもシンプルな部屋だった。壁紙も家具類も白で統一しており、清潔感がある広々なお部屋だ。ぬいぐるみも可愛らしい小物も置いておらず、なんだか大人っぽいお部屋。少しどきどきするなぁ。
そして、俺は目的のベットを発見。もちろん、変な宇宙人はいません。それだけのことなのに、どうしてこんなに素晴らしく思うのだろう。
うはー、早速するぞ、ゴロンゴロン。堪能するぞ、ゴロンゴロン。はあはあはあはあ、これが女子の香り、芳しい香り、きちんと堪能しとこう。何があるかわからないからな、いつでも思い出せるように脳に記憶しとこう。
……数分経って気付いたのだが、制服を脱いでから転がれば良かったなぁ。皺になってないか、心配だ。
「落ち着いたか、変態」
転がるのをやめた俺を、ゴミを見るような目で妖精は射る。視線が痛い。
まったく失礼だな。俺はまだベットで転がる行為しかしてないのに。それだけで変態なんて決め付けるのは、少し早いんじゃないか? 時期早々だぜ。
「何を言う、俺は変態ではない」
「おい、口調が男になってるぞ、変態。もっとミーナらしくしろ、変態」
「だから誰が変態だ。ってなんでお前、私がみなとちゃんじゃないって知ってんだ? まだ話してないはずだけど……」
「お前んとこのサポート妖精から事情は聞いてんだよ、妖精通信でな。はぁー、カレンだっけ? 主人がアホで変態だとサポートが大変そうだな、同情するよ」
今度は憐れんだ目で俺を見る。
前前前回のデータだと学年一位をとったことある実力者なのに、この仕打ち。しくしく、なんでこんなにアホ扱いなんだ、俺。
「ふっふっふっ、このお、私にそんなことしていいのかな? 妖精君」
アホアホ言われた男の反抗心見せてやるよ。しょぼいもんだけどな。
「あ? 僕に何かしようってことか? やめとけ、無駄な行為だ」
「はっはっはっ、これでもそんなことが言えるかな? 今の君のご主人はこの私なのだよ、妖精君」
俺は学習机の上に置いてある小さな衣装箪笥を見せる。この衣装箪笥には、今までに集めたサポート妖精の服が全て揃っているのだ。
主人公は自由に妖精のコスチュームを変えられる。
そう、よーするに恥ずかしい衣装、またはマヌケな衣装にチェンジすることが可能ってことだ。
「………………」
衣装箪笥の服をガサゴソと漁ったが、特に恥ずかしい衣装はなし。
あれ、おかしいな、俺んとこはいっぱい買い揃えてたんだけど。みなとちゃんって、変な衣装は集めない派?
因みに衣装箪笥には、王子様衣装(カボチャパンツ&白タイツ装備)や動物の着ぐるみ、ピーターパンが着ているようなファンシーな服など、日常生活でおそらく着ないであろう服が多く詰められていた。
随分とツンケンしている癖に可愛い趣味してんな。まあ、こいつ似合うしな。今もネコのような耳がついたパーカーに半ズボンルックでいるし、余程好きなんだろう。
「……お前なんつーか可愛い服のセンスしてんな」
「僕の趣味な訳あるか! これ全部ミーナが選んだ服だ」
「えー、ホントかよ? うちのカレンは自分で好きなの買って着ているぜ。別に服の趣味なんて人それぞれなんだから馬鹿にしたりしないぜ」
「本当だ!! 僕は毎日ミーナの選んだ服しか着てない。今、着ているのもそうだっ」
思わず二人とも無言になった。
「……コホン、なんというかアホで君のような気を使わない主人っていうのも、円滑に物語を進められて素晴らしいと思うよ」
「はいはい、下心ある褒め言葉ありが、つか褒められてない気がする。はあ、お前の服なんてこっちはそんなに気にしないから、好きなのを着ろよ」
「そうか、そうか! では、僕は服を買いに行って来るよ。そうそう、僕の名前はアイスだ。ミナミナ、これからはよろしくなー」
ミーセの粉を体に振りまいて、アイスは妖精店に向かった。
妖精店には他にも便利な装備やアイテムが売っているので、よく妖精をお使いに行かせてたな。
ここは、みなとちゃんも同じシステムなんだな。きちんと覚えておこう。
妖精店は月に一回しか人間は買い物に行けないから、お土産に何か良いもん買ってくるのを期待するぜ、アイス君。
まさか、服だけ買って帰るとか流石にしないよな。
さて、俺もそろそろ私服に着替えてないと……
しまった、どどど、どれ着ればいいんだ。
勝手にクローゼットとか漁っていいのか?
箪笥の中の下着コーナーにも手を出して大丈夫なのか?
いや駄目だろう。俺が現在みなとちゃんだとしても。アウトだろう。
くっそー、アイスめ! 肝心な時にいないなんて、サポート妖精の風上にも置けないな。
「そうだ、こんなときこそ、みなとちゃんに電話して聞いてみればいいんだ!!」
みなとちゃん、ヘルプミー。俺は何を着ればいいですか?
ミーセの粉:短時間で指定の妖精店に転移することができる妖精専用アイテム。もちろん人間は使用不可。