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みなと君と相風家

 ナビのおかげでサクサクと進むことができた。いやー、本当ナビ様様ですなぁ。あとここを右に曲がれば、今日から俺のマイホーム改め拠点になる場所に着くみたいだ。

 はぁはぁ、同世代の女子部屋楽しみだぜ。きっと砂糖とスパイスとステキ物質が満載なんだろうなぁ、まったく。


 楽しい妄想をしながらルンルン気分で曲がると、相風家の前に腕組みをしながら、ドーンと仁王におう立ちしている人物がいた。

 ふ、不審者? 不審者なのですか? 

 ヤバいぜ、何か怒りのオーラみたいなのを振りまいている。



「お? これじゃあ、お家に、帰れ、ないぞー」


 電信柱の影でウンウン唸る俺。

 まったく、次から次へどうしてトラブルが起きるんだ。

 俺は一刻も早く帰ってみなとちゃんのベットで、ごろんごろんしたいだけなのに。



「つか、誰だよこいつ。くーっ、逆光でうまく顔が見えん、見えないぞ」


 目をこらしてみても、夕日がまぶしくて顔が見えない。

 かろうじて見える制服を観察すると、それはブレザー。ブレザー、ブレザーか。ふむ、過恋学園の生徒だろうか。あそこの高校は制服がブレザーだし、よく見ると制服が似ているし。

 

 過恋学園の男子生徒でみなとちゃんと親しい人物というと――ある人物の名前が浮上する。

 よくよく見ると、夕日に照らされている髪型にも見覚えがある。


 ――話しかけてみるか、そいつだとすると不審者ではないし。


 俺は隠れていた電信柱から出て、家に向かって堂々と歩く。

 そう堂々と。な、何も悪い事はしてません。何で怒っているのか意味不明です。

 要するに、無罪を主張するためのアピールをしている。


 俺に気が付いたのか、家の前の男はこちらにずかずかと近付いてくる。

 俺を見て、さらに怒りが増したのか、散歩中のワンちゃんがそいつを見てキャイーンと震えている。もろで見たのだろうワンコよ、ご愁傷様。

 そして、飼い主の子はポッと見惚れているようだ。女の子よ、ここは『ポッ』とではなく『ゾッ』とするのが正しいんだぜ。だがそんなあなたでいつまでもいてくれ。


 軽く現実逃避をしていると、いつの間にかそいつが立っていた。

 しゅ、瞬間移動!? エスパーかよっ!!

 


「――入学式をサボるなんてどういうこと? 説明してくれるよね」


 優しくさとすような笑顔で話すが、それとは裏腹に声は低い。

 こわっっ、まじでこわ! みなとちゃん、こいつのどこが抜けているんだ。全然ドジ男子じゃないっすよ、この方。



「ここじゃあ、なんだから家でゆっくり話そうか、ゆっくりとね……」


 俺はぐいぐいと手を引っ張られて、相風家に連れてかれる。あぁ、ドナドナ。

 もっと楽しい気分で家に入りたかったなぁ、マイハウス、マイ拠点。






「――湊、なんで学校に来なかったのかな、けいも凄く心配してたんだけど?」


 うぅ、俺は今和室の客間で正座させられている。

 くそーーーなんでだ、何か悪い事したか。入学式を欠席しただけだろ、こいつは俺の保護者かよ。

 ちなみに、怒れる幼馴染様の比井野純一は、悠々と座布団の上で胡座あぐらをかいています。



「ちゃんと聞いている?」


 ギラリと俺を睨み付けてくる。



「うっ、はい、聞いてます……」


 俺は、か細い声で返事する。

 眼力やばいな、こいつ。



「じゃあ、なんでサボったかきちんと説明してくれるよね?」


 バンとちゃぶ台を叩く。

 おいおいおい、ここはみなとちゃん家であってお前の家じゃないんだ。もうちっと優しくマイルドに説教しようぜ。



「それはメールで送った内容と……」

「俺はメールじゃなくて直接聞きたいの!」


 俺が反論する前に怒られた。

 なんだこいつ、なんだこいつ、しつけーんだけどっ!! しかも、こえぇーし。

 はーー、俺の目に狂いはなかった。写真を見た時から分かっていたぜ。こいつが超怖いやつだってことを。きっと、壬生ってやつも怖いんだろうな。


 怖さのあまり下を向いてやつと目線を逸らす。すると、


「……心配したんだよ。頭を打ったって言うから」


 と急に困った声を出して、優しく俺の頭を撫でる。


ああそうか、俺は頭をぶつけたってメールに書いたんだっけ。もしかして、こいつに心配かけたのかな。うーん、だとしたら悪い事したなぁ、きちんと謝ろう。

 


「心配かけてごめん」

「もういいよ、思っていたより元気そうだしね。おばさんには黙っといてやるよ」

 

 そう言って頂けると助かります。みなとちゃんのママさんに余計な心配はかけたくないし。



「代わりに夕飯、湊ん家で食べるからよろしく」


 純ちゃんは鼻をヒクヒクさせて笑いながら言う。緊張感がなくなったせいか、グーとお腹の音が鳴る。


 台所から美味しそうな匂いがするもんな、お腹がへっちゃうのは仕方がないよな。

 クスクスと俺が笑うと、ムスっと拗ねた顔をする。


 さてと、話はもう済んだみたいだし、部屋で着替えてこよう。制服のままで、夕飯を食べたくないし。


 俺がふすまに手をかけると、慌てて純ちゃんが話しかけてくる。



「どこ行くの?」

「うん? 服を着替えてくるんだよ」

「ふーん、じゃあ俺ここで待ってる。いってらっしゃい」


 俺はバタンと襖を閉める。



 ふーー、やれやれ、やっと目的の場所に行ける。


 ふふふふふふふ、念願のマイルームじゃなくて、みなとちゃんルーム!! いやー、楽しみだな、楽しみだな。女子の部屋って小学校の頃に幼馴染の土筆つくしの部屋に遊びに行った以来だもんな。どんなんだろう。動物のぬいぐるみや可愛い小物が置いてあったりするんだろうか、うへへへへへへ。


 俺はスキップをしながら階段を上る。

 目指すは、みなとちゃんのお・へ・や!


 


 



 

 

 

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