ドジっ娘・みなとちゃん
結城さん、今日も欠席するのかしら。うーん、気になるなぁ。病気や怪我の類いではないので、お見舞いに行く必要性はないのよね。
私が出来ることは、授業のノートをしっかり取ることくらいかな? 少し微妙。これって、同じ教科担任の先生ではないと意味がないよね。
しかも、私と透輝君は同じクラスだから、私よりも親しい彼に借りれば良いし。
そう考えると、私に出来ることって何もないね。残念だけど……
次の授業が体育なのに、理科実験室に忘れ物をするなんて、気持ちが弛んでいるのかな。私、しっかりしないと!
急いで教室へ戻って、体操服に着替えないとだね。休み時間、残っているかしら。
遅刻するかもしれないから、透輝君には先に行って貰ったけど、私ってば、うっかりし過ぎだ。
ちょっと反省。勿論、結城さんのことも大事だけど、自分自身を置き去りにしてはいけないね。
教訓にして、これからは気を付けましょう。
先生方に見付からないように、廊下を小走りしていると、
「きゃっ」
しまった! 女子生徒に衝突してしまった。
「ごめん、急いでて……」
当たった衝撃で落としてしまった筆記用具を、慌てて拾う。
パッと外から見たけど、壊れてもいないし、割れ物でもないようだ。また、中身も飛び出して、床にばら蒔くことも起きなかった。
不幸中の幸いね……
そして、ペンケースを床に落としてしまったけど、女子生徒にも怪我はなさそう。彼女自身は尻餅もついてないで立っているし、被害は一個だけのようだ。
「もう、何をやっているの。ちゃんと前を見なさいよね」
「ごめんね。はい、これ……」
腰を落とした姿勢で、私は女子生徒にペンケースを手渡す。
屈んだ状態で彼女を見上げると、その瞬間、驚きで身体が停止した。
頭の中にある攻略対象者のリストを高速で捲り、誰なのかを視認すると、思考より遅れた眼球が乾いたように瞬き始める。
それに伴い、身体も漸く動き始める。
私の前には、青空のような綺麗な髪色と目の色を持つ、眼鏡を掛けている知的な少女が立っていた――私はその人物を知っている。そう、彼女の名は、筒見葵さん。蒼君の双子のお姉さんだ。
わー、写真ではなく本物の葵さんだ。ボブカットの髪型で、装飾のないカチューシャを頭に着けている。シンプルスタイルで可愛い。
まじまじと見ると、蒼君と顔が本当にそっくりだ。
でも、やっぱり、身長は男性の蒼君の方があるかな。
「……? 何なの、じろじろと私のことを見てきて。私の顔が何か?」
ペンケースを受け取った葵さんは、眉間に皺を寄せて、むっとした顔をする。
「あっ、いや、えーっと……そう! 眼鏡! 衝撃で掛けている眼鏡は大丈夫かなー……っと心配に思ってさ、あはは」
すくっと勢いよく立ち上がりながら、彼女に弁解する。
失敗した。声を出す時、若干、目が泳いでしまった。これでは、言葉に真実味が帯びず、怪しい発言になってしまう。
私が言うのもなんだけど、かなり苦しい言い訳だし……葵さん、信じてくれるかしら。
「私の眼鏡が心配だなんて、貴方って変な人だわ。フフ、ぶつかったのは貴方のせいだけど、筆箱を拾ってくれてありがとう。私も急いでいるから、じゃあね」
ほっ、良かった。怪しんでいない。
ではでは、はい、さようならーです。立ち去る彼女に向かって、黙って手を振る私。
ここ最近で、一番ドキドキと心臓が高鳴ったなぁ。葵さんって、蒼君と雰囲気が全然違うし。
蒼君は、ほんわか系ポカポカだけど、葵さんは反対にクールビューティー系ツンツンだから、ギャップの破壊力が凄いんだよね。
別人なのは解っているけど、いつもと違うクールな蒼君の一面を感じ取ってしまい、つい動揺してしまった。
なんていうか、双子マジックって、凄まじいね……




