みなとちゃんの尾行5
「それってハンデか? 数を減らす方が普通に考えて不利だろう。おれは別に二対一でも構わないんだけど」
「貴方の考えは喧嘩に馴れている者の思考です。彼が人質にされたら、私は満足に動くことができませんから……」
「けっ、お優しいこと――お前さぁ、お荷物だから早く帰れっ! だってさ」
私に向かって顎をクイッと動かして、男子高校生は指摘する。
お荷物、お荷物……私って役立たずってことだよね……
「私はそんな風に言ってません。わざと勘違いさせるような酷い言い方はやめてください」
「ハンデをやるのはおれなんだから、おれがルールだ。お前らに気を遣う訳がないだろう」
「……こちらが下手に出ているからって勘違いしないでください。この程度の拘束、いつでも振りほどけるのですから」
結城さんは拘束されていない足を使って、力ずくで男子高校生を退かす。
そして、迅速に私のいる方向へ彼女は向かい、私の腕を掴んで位置を移動する。
これにより、前と後が入れ変わり、男と位置は逆転した。
一方、結城さんに叢の方へ転ばせられた彼は、ゆらりと立ち上がり、衣服の汚れをパンパンと叩き落としている。
なんという太々しい態度、大物だわ。
「なんだよ、お遊びは終わりってことかよ。つまんねーな。こっちは、もっと下らないことで馬鹿みたいに楽しみたいのになぁ」
結城さんは私を背に隠して、男子高校生と対峙する。
結城さんが彼を転がせた隙に、大分距離を離したが安心は出来ない。
「申し訳ありませんが、これからあの野蛮人との戦闘が始まると思います。貴方を庇う程の余裕がありませんから、速やかな離脱をお願いします」
「……結城さん、迷惑をかけるね」
これ以上、この場所にいることは結城さんの負担になる。早急に離れよう。
幸いなことに、私たちは後ろ側の道から歩いてきたので、来た道を戻る形になる。下手に歩き回るよりは、一度でも通ったことがある道を使った方が、スムーズに逃走できるはずだ。
「うん? 結城だと」
男子高校生は私が結城さんだけに聞こえるように、小声で話した彼女の名前を口にする。
し、しまった、結城さんの個人情報をあの危険人物の前に喋ってしまった。悪用されたらどうしよう! ネットで変な書き込みをされて因縁をつけられたり、詐欺に使われるかもしれないわ!!
私ってば、内緒話のような小さいな声で名前を呼んだのに。なんという地獄耳だ。頭部に衝撃を与えたら、ポーンっと結城さんについての記憶だけ失くならないかしら……ごくり。
男子高校生は無言で、スラックスのポケットに手を突っ込みながら、ズンズンと大股で私たちの方へ向かって来る。
攻撃を仕掛けてきた!! 思っていたよりも早い。とりあえず、結城さんの邪魔にならないように距離をとらなくては――
私は背中を絶対に向けず、じりじりと後退する。何をしてくるか分からない相手に、後ろをとられるのはリスクがある。まずは、相手と距離を離してからだ。そう……背後を見せてダッシュで走り去るのは、それからです。
私が少しずつ結城さんから遠ざかっているのとは反対に、男子高校生は彼女に近付いていた。
そして、彼を警戒している結城さんに向かって、
「……あーあー、認識がされていないってマジありえねぇ。完全に繋がりが切れているじゃねーか! 乙葉いや結城乙葉だよな」
と、知っているはずのない結城さんのフルネームを呼び掛ける。
その言葉を聞くと、結城さんの動きが何故かぴたりと止まった。
「…………認証しました。こちら結城乙葉、貴方は結城甲太ですね。コードナンバー01の本人確認を開始します。確認中。コードナンバー01の本人確認が完了しました――コードナンバー01の再登録を開始します」
「こちら結城甲太。コードナンバー02の本人確認を開始します。確認中、確認中、本人確認が完了しました――コードナンバー02の再登録を開始します」
あれ、もしかして、もう、喧嘩は終わりってことかな? 二人に近付いても大丈夫ってことかしら。
さっきまであった……お互いを殴り合うような殺伐とした雰囲気が消え失せているようだし。
私は、おっかなびっくりと、二人に近付く。
流石に、もうバトルは始まらないよね。
不安に思いながら握りしめた孫の手は、僅かに湿っている。
「――再登録が完了しました。結城甲太、行動を開始します」
「――再登録が完了しました。結城乙葉、行動を開始します」
二人とも、名前以外は全く同じ言葉を同時に話す。ずれがない、完璧のタイミングで。
彼女たちの声は、異常なまでに重なっている。
まるで、機械を使って人工的に重ねたようだ。
機械? そういえば、結城さんはロボットだ。その結城さんと、完璧にタイミングを合わせられるということは、彼もロボットなのでは……?




