おまけ話11
〈髪ゴム、ヘアピン。〉
「アイス、髪の毛を縛る物をくれ。あと縛り方の伝授も一緒によろしく」
「別に教えるのは構わないが、急にどうしたんだ。もしかして、誰かと出掛ける予定でもあるのか?」
座っていたベッドから立ち上がり、寝癖直し用スプレーや頭髪を固めるスプレー等が置いてある白色のチェストの前に移動する。
多分みなとちゃんはこの付近で髪の毛を弄っていたはず。髪の毛に纏わるものが多く配置してあるから、ここで髪を縛るのが正解だろう。
「体育の時間は、この長さだと髪を縛るんだって」
「そうだな、ミーナは髪がロングヘアーだから、纏めないと運動をする時に邪魔になるか」
アイスはチェストの上に置いてある小物入れの引き出しから、みなとちゃんの髪色と同色である髪ゴムを取り出す。
「最初だからな、まずは試しに自分で縛ってみてくれ」
「おう、後ろで一本縛りいくぜ」
輪ゴムなら何回も使ったことがあるし、なんなら水鉄砲のように遠くに飛ばしたこともある。髪ゴムなんて輪ゴムの親戚みたいなもんだろう。髪の毛を縛るなんて楽勝だな。
「こんなもんか。どうよ、アイス!」
「うん、全然駄目だ」
「えぇーー、ダメ出し早くない?」
チラっと見て駄目だなんて、考えが早すぎる。もうちょっとよーく見て欲しいなぁ。
「ミナミナは全く気付いていないようだから指摘するが、髪ゴムがすぐに取れそうな所が駄目だな」
「えっ、嘘だろう!? 俺、かなりギュッと縛ったはずなんだけど……」
髪ゴム君、ちょっと軟弱過ぎるよ。もっと強く緊縛しないとダメダメだよ~! はい、残念だけど減点、マイナス百点です。
「そんなにゆるゆるだと髪がすぐに落ちてきて、また縛る羽目になるぞ。あとミーナの髪だとアメピンで後ろ髪を固定した方がいい」
アイス君はこれを使え、と黒色のヘアピンを俺に差し出す。
ふむ、これは無知な俺でも知っているヘアピンだ。よく漫画やアニメとかでカチャカチャと扉を開けるのに使うキーピックだな。
正式な使い方は髪を挟む……んだっけ? 使ったことがないからいまいち自信がない。これ折れてるかんじだけど、真っ直ぐにすると、どうなるんだ?
むむっ、俺の好奇心がうずうずしてきた。
「ヘアピンを変に弄るなよ。ただ預けているだけだから、手に持っとけばいいだけだぞ。よし、僕が今からお手本を見せてやるから、学校で髪を結ぶ時はそれを真似ればいい」
真っ直ぐにしようとしたらアイスに注意された。もしかして、これって直せないパターンですかね?
セーフ! 神回避!!
ふー、危ない、危ない。
とりあえず、アイス先生が縛り方についてお手本を見せてくれるらしい。
それなら俺は、バッチリとアイスの勇姿を目ん玉に焼きつけるとしますか。略して目玉焼き。
うーむ、後ろ髪は見えないから、美容室さんみたいに鏡を用意しないといけないなぁ。鏡か……姿見だと大きすぎるから、長方形の折り畳み式の鏡がいいかな、手で持てるし。
さて、毛髪関係が置いてあるコーナーを中心に探すとしましょうか。
鏡が見付かったので、早速アイスに頼む。
「準備が出来たか。じゃあ、始めるぞ」
アイスはそう言うと、俺の髪を触る。
「………………!? 痛い痛い痛い、髪を引っ張るな。アイス、ちょっとストップ! とにかくストップ!!」
ととと、頭髪が死ぬ。毛根がやられる。毛にダメージが入る。ハゲちゃう、ハゲちゃうよーーーっ
――髪の毛を縛っただけで、こんなに痛いって詐欺だろ!? 髪が引っ張られて、メチャクチャ痛いんですけど!!
くそ、新手の拷問かよ。髪縛りって江戸時代にあった頭髪拷問の名前だろ、絶対。まじ、髪を縛るのって痛すぎる。嗚呼、涙が出そうだ、ポロリ。
「そんなにきつく結んだつもりはないのだが……ミナミナは意外と繊細なのか?」
「いやいやいや繊細とか関係なくて、すごくきつくて痛かったよ。未知の痛みを感じたし!」
髪の毛を縛るのが、こんなに痛いなんて知らなかったぜ。俺に痛みを与えるなんて、髪ゴムは拷問器具だろ!? そうだ、お洒落な拷問器具だ! まったくチビっこ幼女たちも、よくこんなの平気な顔で着けてられるな……?
――――はっ、俺は賢いから理由が判ってしまったぜ。
彼女たちは小さい頃から、髪ゴムという名のカワイイ拷問器具を毎日装着をしているため、痛みに慣れ親しんでいる。
つまり、外で見かける子どもは痛みを忘れた歴戦の戦士ということだ。戦士と呼ばないといけないなぁ、幼女戦士。
「ミナミナ、まだピンで留めてないから、じっとしてろ」
「あっ、まだあるんだ。まぁ髪ゴムよりは痛くないから良いけど」
髪の毛を縛るのって、すーげー面倒臭いなぁ。痛いし、時間が掛かる。
〈髪ゴム、ヘアピン②〉
「う~ん、髪が固定されて変なかんじがする。違和感がネックだ」
縛る時は痛かったけど、縛った後は痛くないのは素直に嬉しい。
「これくらいちゃんと留めないと、体育の時に激しい運動は出来ないからな、覚えておけよ」
「うげぇーー、了解デアリマス!」
流石に、シャカシャカとライブのような激しいヘッドバンキングをしたら、取れそうになるんじゃないか。
「髪ゴムが嫌だったらシュシュを使ってみるのはどうだ?」
「おーいいね、女子が着けているあの可愛いやつかー」
よく女の子がアクセサリーのように、手首に着けているひらひらしたやつか……
何ていうか、ぶっちゃけシュシュって手首に着けてると甘くて可愛いというイメージで、あんまり髪を縛る物というイメージがないんだよなぁ。
とにかくシュシュはカワイイ♡っていう雰囲気を出すものと考えていたし。可愛いを演出する小悪魔♡魔法道具。
シュシュも縛ると痛い物だったら嫌だなぁ。
「アイス、髪ゴムは取った方がいいのか?」
「んー? そうだな、他の物も試したい所だし、取っていいぞ。あっちょっと待った、髪ゴムよりも先にヘアピンの方を外さないと」
ヘアピン、ヘアピンっと、髪を下ろすのも面倒臭いものだ。
シュッと取って髪ゴムを外し、シュシュで大変身☆するとしますか。おしゃれとは大変だね。そして、スーパーだるいね。
「ぐっ……ダメージ(小)か、縛るよりは痛くないデス」
「ヘアピンを取るのも痛いみたいだな。それならミナミナは、おしゃれな髪型には向いていないな……」
アイスに残念な子を見る目で、冷静に分析された。
いやいやいや、俺は普段はこんなかんじじゃないよ!
注射は怯えずクールに打たれるし、怪我をしたら狼狽えず最適な判断をしますよ、本当。
ヘアアクセサリーだけだ、こんなに俺の心を引っ掻き回すのは。見るのは好きだが、着けるのは嫌いだ! そうだ、君なんて嫌いなんだからね。なんかツンデレ風になったな。
俺が髪ゴムに対して複雑な感情を抱いている間に、アイスがパパッとシュシュで髪を縛る。
今度は全然痛くないな。
「まぁでも、シュシュは髪ゴムよりは好きだな。シュシュのひらひらは天使の羽、全く俺に痛みを与えないキュートエンジェルシュシュは最高だっ!!」
「そんなに気に入ったのなら、体育の時間はシュシュで決まりか」
「…………」
アイス君、それはどうかな?
俺はそんなに単純な男じゃないんだなぁ、これが。
「なんでそんなに不満そうな顔をするんだ? シュシュで決まりだろう」
「………………みなとちゃんは短い髪も似合うと思う」
みなとちゃんはショートヘアも良いと俺は思うなぁ~
うん、絶対キャワイイ。
だから髪ゴムという名の拷問器具も要らないし、シュシュも手首を甘く飾るキュートアクセサリーのままで良いと思う。
「…………おい、それはないだろう、ミナミナ」
「いや、俺的にショートヘアのみなとちゃんはすごく可愛いと思う。もちろん、ロングも良いと思うけど、ここは高校生になったからイメチェン的にばっさりとカットするのはどうだろうか?」
ナイスアイディアだ! いきなりヘアチェンジしたみなとちゃんに攻略対象たちもドキドキ、俺も髪が軽くなってウハウハ。これって幸せってことじゃないか……?
どうみても最高な未来が待っているようにしか思えん。俺もハッピー、みんなもハッピー、THEハッピーエンド~♪ スタッフロールもついでに流しとけ。
「……夏祭りやデート時に髪型が変わる女子が大好きだ。あと悶える程好きなシチュエーションの一つは、本気になると髪型が変わる女の子とかほざいていただろうに。なんというか、他人は良いけど自分は駄目っていうのはどうかと思う――――ミナミナ諦めろ、観念して(授業中の)シュシュを受け入れるのだ」
うぐぐぐぅ、正論パンチの腹パンがキツイ。
でも正直、シュシュだろうが髪を縛るのはヤダ。
「ほらっ、拗ねてないでこれを見ろ。男でも立派に髪の毛を縛っている人物はいる」
なんだ、侍か? 殿様か? 相撲取りか? 忍者は多分違うか。
アイスは本棚から写真を取ってきて、俺に押し付ける。
「よく見てみろ、お前も知っている人物だぞ」
「ほぉーーそんな人物に心当たりはいないが、どれどれ」
?! なんだと、まさか、そんな……驚愕な事実だ!!
「古賀先輩が学校指定のジャージを着て、体育の授業を受けている!! 嘘だろっ、絶対エリートトレーナーという名の特別なジャージを着用していると思ったのに、意外すぎる」
「驚くポイントを間違ってないか? はぁ、ほらっ、男のポニーテールだぞ」
本当だ、ポニーテールでスポーツをしているね。
しかし、他の男児ならともかく、私服先輩なら話は別だ。俺は大いに抗議させてもらう。
「フフフ、俺は騙されないぞ、アイス。古賀先輩は絶対に幼少の頃、頭に簪を差して、おべべを着ながら手鞠で遊んでいたはずだ。まったく、よく訓練された女装経験者の先輩と、新人のペーパーな俺を一緒にしないでもらいたいなー」
「そ、そうなのか……待て待て、僕も知らない攻略対象の幼少時代をなぜ知っているのだ?」
これって所謂お金持ちあるあるネタじゃないのか。坊っちゃんは女装、お嬢ちゃんは男装って。
「古賀先輩はお金持ちだから、小さい頃は家庭の事情(?)的な理由で女の子になっていたのではないかと、俺は推測しただけなんだけど……」
「えっ、人間って裕福だと女装するのか。変な生き物だな」
俺も詳しくは知らないけど、何か昔の風習でやるんだっけ。俺ん家はやらないから、詳細は知らないんだよなー
「こほんっ、話が逸れてしまったが、僕は髪を切るのは反対だからな」
「んもーー仕方ないなぁ、じゃあ全部バッサリのショートカットはやめるよ」
「それなら散髪は許可してやろう」
おっし、アイスのOKが出たぜ。
後で、撤回はやめてくれよ。
「で、どれくらい短くするんだ?」
「髪の毛が縛れないぐらい短くて、でも傍目からそこそこ長い、体育で注意されないギリギリを攻めていこうと思う」
俺はアウトに近いセーフゾーンの領域を狙おうと思う。
セーフゾーンなので髪が縛れない、なのでアウトじゃない。ある意味、中途半端な状態だ。
特に恨みはないが、体育教師を苛つかせていくぜ。
「ふーん、そうか、髪を切りに行く場合は僕に一言声をかけろよ」
「あいあいさー」
おっと、これは尾行する宣言だね。俺、アイスの信用まじでないなぁ、悲しいぜ。
〈髪ゴム、ヘアピン③〉
「そういえば、ミナミナ的には、このスリーピンはどうなんだ?」
「これはまたチビっこ幼女が、おでこに着けてそうなヘアピンがきたなぁ」
ペコン、ペコンと凹む銀色に輝くヘアピンだ。
一応着けてみるか、あらよっと……
ペコン
「!? アイス、アイス、このヘアピンを着けたら、おでこにしっぺされたんだけど。こいつヘアピンのくせに攻撃するなんて、酷いヘアピンだよ!!」
「また言ってるよ」
ヘアピンが好戦的すぎる。あのアメピンってやつも外す時に軽く攻撃をしてきたし、やつらは俺に痛みをすぐ加える。
それにしても、いきなり俺にしっぺをしてきた重罪ヘアピン。あだ名はアナログ式しっぺ兵器で決まりだ! しっぺが上手く出来ないお子様もこれを使えば、相手に罰ゲームをあたえることができる。まさに子ども向け商品だな。
ペコン
「このヘアピンは外す時も攻撃してくるんだけど、何なの? 追い討ちしてくるし、前のヘアピンより凶悪だよ!」
「はいはい、このヘアピンも気に入らないのは分かったから」
ヘアピンはみんな攻撃的だ。使う時にダメージが入る、恐るべき装備品である! RPGで装備する時は気を付けなくては!!




