おまけ話8
〈みなとちゃんと保健委員会〉
今日の放課後、月に一回ある各委員会の集まりがある。私は保健委員会に所属しているので、指定の教室に急いで向かう。
「あれ、土筆も保健委員?」
「港も保健委員なんだ、それなら一緒に行けば良かったね」
教室には沢村さんがいた。
同級生に知り合いがいるなんてラッキーだ。みなと君の高校の委員会って謎の部分があるから、困ったら迷惑のかからない範囲で相談しよう。
保健委員会の集会に多くの生徒が出席していたが、何故か委員長が来ていなかった。委員長なのに、さぼり?
「おかしいわね、私よりも先に教室を出たはずなんだけど……仕方ない、委員会を始めます!」
委員長が不在の状態で、保健委員会が始まった。
「――では、初めに我が保健委員会に所属している証を配ります。証は男子と女子では異なりますので、まずは一年の男子生徒から前へ取りに来てください」
あ、証? 所属の、証?
何それ!? 凄く怪しいんだけど!! この委員会に私は所属して大丈夫なのかしら。
「港、後ろがつっかえちゃうから、さっさと取りに行かないと……」
「そ、そうだね、うん、行ってくる」
教壇の近くに積まれてある、段ボールから出された箱を受けとる。
箱は、ごく普通の箱。まぁ、箱じゃなくて中身が問題なんだけどね。
保健委員会の証とは、いったいどんなものかしら?
気になる。まだ誰も中身を出してないみたいだけど、開けてみよう。さぁ、何が入って…………!!!!?
「皆さん、配られた証を付けましたね。保健委員会の活動をする場合は、この証を必ず装着してください。では、副委員長である私が……」
保健委員会の証とは、男子がアライグマの被り物で、女子はアライグマを模した耳が付いているカチューシャだった。
なんだろう、この残念な気持ち。初めて感じる気持ちだ。もしかして、私は証というものを神聖視、いや期待していたのかしら?
……いや、この気持ちは少しいただけない、今は忘れよう。
生まれてしまった複雑な感情に葛藤していると、ガラッと勢いよく教室の扉が開けられた。
「……ウウゥゥー、すまない、遅れてしまった」
――そして、アライグマの被り物をかぶり、茶色の手袋をつけ、縞柄の尻尾を生やした男子生徒が、謝りながら教室に入って来た。
はぁ、このノリ、いや雰囲気だと、あの変な格好をした先輩が委員長だろうな……
私は保健委員会の集まりに来たはずなのに、アライグマ愛好家の集まりに参加している気分だ。この格好は、何か意味があるのかしら。
「委員長! 遅かったですね」
「何かトラブルでもあったんですか?」
何人かの生徒が席を立って保健委員長(?)に近付く。やはり、彼は委員長だったようだ。
「あぁ、実は風紀委員……いや闇堕ち風紀委員に襲われてしまってな」
うん、個性的な遅刻理由だ。これに納得する人は、いるのだろうか。
「成る程、だから、こんなに窶れているのかっ!」
「いつもより尻尾に艶がないもんねー、ボサボサッ」
「まったく風紀委員として自覚を持っているのかしら? 嘆かわしい出来事だわ!!」
あはははは、皆さん、信じちゃうんだ、そうなんだ。凄い疎外感。いいなぁ、みんな、この気持ちを共有することが出来て……羨ましい。
「そいつらって、オレたちのことをタヌキ委員会だと馬鹿にしてくる奴だろ?」
「あたしが廊下で絡まれた時は、レッサーパンダちゃんって囃し立てられたわよ」
ううん? それは本当に嘲笑されているのかしら。動物がみんな可愛すぎて、私には理解できないんだけど。
「みんな、落ち着け! 委員長、それは本当に闇堕ち風紀委員だったのか?!」
闇堕ちって、闇堕ちって、いやもう指摘するのはやめよう。
とりあえず、あの格好で校内を歩いていたから、絡まれたのではないのかしら。どう見ても風紀を乱している姿だもの。
「あぁ、風紀委員のシンボルであるゾウのマークの腕章が裏返しだったからな」
いいなー、風紀委員は被り物じゃなくて腕章を付けるんだ。心底羨ましい。どうして闇堕ちしてしまったのか謎だわ。
「……っとすまない、時間が押している。この話題は後でしよう。遅れてしまったが、俺が委員長の――」
みなと君の高校は、なんで委員会がこんなにユニークなんだろう。他はわりと普通なのに不思議だ。他が普通だから尖ってしまったのかしら……?
「………(港の表情が凄くチベットスナギツネに似ている。写真を撮りたい)」
〈みなとちゃんと生徒会室〉
あっ! 前方に姫森さんが歩いている。鞄と紙袋、そして、段ボールの大荷物を持っているなぁ、大変そうだ。よし、今日は特に用事もないし、お手伝いに行こう!
「姫森! 手伝うよ」
「おっと火置か、気が利くじゃん。じゃあ悪いけど、これ生徒会室までお願いねー」
小さめの段ボールなのに、中身がぎっしりと詰まってて結構重いなぁ。
「いやー、助かったよ、ありがとねー」
「どういたしまして。それより中まで運ぼうか?」
生徒会室の前でお礼を言われたけど、この荷物は廊下に放置するのかな。それとも、中に役員がいて外で荷物を受けとるのかしら。それなら、まだ持ってた方がいいかな。
「んじゃあ、頼もうかな。ノックして、今、開けてもらうから、まだ段ボールを持っててくれる。あとは、絶対荷物を落とさないようにね。何があってもね……」
えっ? 何があっても……って、な、何が起きるの!? というか何か起きるの?! 予定、未来予知ですか?
……もしかして、生徒会室にいる人物を見て、思わずビックリして荷物を落とすとか? ありそう! よ、よし、絶対どんな人がドアを開けたとしても驚かないようにしないとね。
ガチャっとドアが開くと同時に、
「ギャオオオォォォーーーン」
「やぁ、荷物を持ってきてくれてありがとう!」
と、動物の咆哮と人間の声が聞こえた……んだけど、つい驚いて尻餅をついてしまった。でも、荷物は死守しました、からセーフ、かな。
「ありゃりゃ、ちょっと脅し過ぎたね。火置、悪い、大丈夫?」
「まさか、ライオンの咆哮が君にクリーンヒットするなんて……ハッハッハッ、君って、まじで運がイイね」
訳がわからない、私は説明を求めます。
「我が生徒会室は特別でね、ドアチャイムを導入しているんだよ。で、さっきのライオンの雄叫びがそれね。十五種類の中から滅多に聞けないレアボイスを引くなんて、ラッキーだよねぇ、君?」
ライオンのお面を頭に付けた女子生徒はニヤニヤと笑いながら、さっきの出来事について説明する。
ドアチャイムって、カランカランと鐘が鳴るのとか、コンビニの入店音とか、もっと平和的で落ち着く音声ではないのでしょうか。
「火置、呆れた顔をしているけど、ちゃんと大人しめのもあるからね」
「あぁ、良かった、普通のもあるんだね」
他の十四種類は、まともなんだ。そうだよね、毎回ドアを開ける度に威嚇されるなんて、たまったもんじゃないし。
「えーっと、例えば、これっ」
「にゃーーっ、にゃーっ」
甘えた猫の鳴き声だ。凄く可愛い、癒される。
「フーン、ご飯をねだる猫のボイスか、次は……」
「ニャーン♡ いらっしゃいませ、御主人さニャーン♡ 」
……き、気まずいのが来ちゃった。どう、反応すればいいの?
「猫耳メイドのボイスだな。ニャーン♡を台詞に挟むことによって、より萌え萌えボイスに仕上がっているニャーン」
「何回もリテイクしたらしいね。変に懲り性だニャーン」
猫耳メイドのボイスを聞いたら、語尾にニャーンをつけるルールでもあるの?
私も何か控えめのコメントをしようとしたら、
「おっと、もうこんな時間か。悪いが、そろそろ会長が仕事しに来る。生徒会室から出てってもらおうか」
と壁掛け時計をチラチラと気にしている彼女に、それを告げられた。
「もう、そんな時間? やばっ、面倒くさいヤツが来る前に、火置、ほらっ、行くよー」
生徒会のお仕事の邪魔しちゃ悪いし、さっさと撤収しないといけないのは分かる。
でも、帰る前に一つ……気になることがある。たいして時間は、とらないつもりなので、尋ねてから帰ろう。
「あの……ドアチャイム音の関係性って何ですか?」
「ん? ライオンとネコ科だよーん。それじゃあ、バイバーイ、また遊びに来てね」
……帰り道に、ふと疑問に思って考えてみたけど、猫耳メイドはネコ科かな? 絶対違うよね、普通に考えて人間だよね。
「闇堕ち風紀委員は、校則違反してそう」
「闇堕ち美化委員は、校内の壁にスプレーで落書きしてそう」
「闇堕ち図書委員は、†黒魔術†を嗜んでいる」
「それなら闇堕ち保健委員は……きっと保健室に運ばない。そう、代わりに実験室に連れてかれてしまうのだわ!」
「ミーナが急に恐い話をしている……」




