みなと君のお出掛け
「……起きて、湊。今日は良い天気だし、俺と一緒に遊ぼうよ」
耳元で何者かが囁く。
今、とっても気持ちよく寝ているのだから、ほっといてほしい、空気読め。
「湊ってば、まったく……昨日、何時に寝たんだよ。もう三時だよ午後の三時! 起きましょうね、ほらっ!」
ああん? 昨日? 昨日じゃなくて今日寝たんだよ。
ああー、まじねみぃ、スヤッピーさせてくれ。本当頼むよ。
「全然起きないな。仕方がない、この手は使いたくはなかったが……」
何者かの気配は去ったようだ。
ようやく、お部屋が静かになりましたか。
やれやれ、これで漸く二度寝できるってもんよ。
「隙ありっ!!」
ガバッっ、と何者かが俺のかけ布団を攫って行く。
さ、寒い、四月にNoかけ布団で寝れるか。
何奴!? 妖怪布団ドロボーのお出ましか。退治してくれようホトトギース!! 現在の俺、ハイ・テンショーン!!
「やっと、お目覚めか……おはよう、湊」
「おはようございます、純ちゃん」
妖怪布団ドロボーは、純一だった。
うっし、退治するか、とっちめてやんよ。
「湊? まだ寝ぼけてるの? すごい怖い顔しているけど」
いやいやいや全然目覚めてますよ。なんていったって、俺は覚醒状態だから、ハハハ。
俺は今、乙女の部屋に無断で侵入した罪人を断罪しなければいけないのだから、寝ぼけている訳がないじゃないか。冗談は、よしてくださいよー、純一君♪
「さて、貴様の罪を数えてもらおうか」
「……やっぱり寝ぼけているじゃん、湊!」
だ・か・ら、寝ぼけてないっちゅーの、失礼な幼馴染だぜ。
現在、俺は純一と買い物? ショッピング? に来ている。決して、デートではない。
なぜこうなったのかと言うと、よくわからない。
知らないうちに、こうなっていた。まじ、意味わからん。
……多分、寝起きの俺をうまい具合に純一が言いくるめたに違いない。
ちっ、まったく巧妙な手を使う奴だ。絶対策士だ、こいつ。
みなとちゃん、気をつけるんだ。こいつバリバリの肉食野郎だぜ!
「久々に南口の周辺に来たけど、あまり変わってないね」
「そうだね、あまり変わらないね」
俺地元の人間じゃないから、どこが変化しているのかまったく分からないが、まあ、適当に頷いておこう。
「あっ、古賀先輩がいる!」
「古賀先輩?」
古賀先輩って、もしかして、あの私服先輩のことか。
へー、先輩をリアルで見るのは始めてだ。
どこにいるんだ? せっかくだ、拝んどきたい。
先輩、俺にイケメンパワーを分けてくれーっ
「湊は知らないよね、古賀篤行先輩って、うちの学校の有名人だよ。中等部の頃は、殆ど私服で学校に来ててさ、制服で登校しなくて悪目立ちしていた。俺も学校で先輩を見かけたことあるけど、全部私服だったんだよ。ああ、でも壬生は一回だけ制服姿を見たことあるって言ってたな。壬生、運が良い奴だよ。まー、今はどうか知らないけど、中等部の時は制服でまったく来ない変人で有名な先輩ってこと」
「へー……そんな人なんだ」
まあそりゃー、私服で学校に通ってたら有名人になるよなぁ、悪い意味で。
でも、俺に言わせればそんなの有名人じゃなくて、どっちかっていうと問題児だけどな。
先生または風紀仕事シテーって、まず思うし。仕事しようね。
それにしても、先輩は休日も私服なんだな。俺としては普段は私服で休日は制服という意外なパターンを予測していたけど、むむっ、外したか。
つか、こいつ年中私服って、制服が箪笥の肥やしになっているじゃねーか。
制服って高いうえ十代しか着れない貴重なもんだというのに、勿体ないことするなぁ。
私服先輩! 制服、いや学生服は今しか着れないっすよ。後悔する前に、もっと着た方がいいと思いまっせ。
なーんて、俺は思うんだけどな。まあ、関わるつもりはないし、放置・放置っと。
「今日は、なんだか風が強いね」
一応髪は梳かしたのだけど、寝癖カールがなかなか直らなかったので帽子を被ってきたのだが、うーむ、失敗したかも。風で帽子が飛ばされそうだ。
「どっかお店にでも入る?」
「んー、どうしようかな……って、わぁぁっ!」
強風に煽られ、スカートが捲れる。
手で帽子を押さえていた隙に、(春風によって)たった今行われた犯行である。である、である、じゃねー! パンチラしちまった!!!
畜生、スケベな風め、この俺のスカートを捲るとは、風の癖になかなかやりおるわい。
おっといけない、いけない、興奮してはいけない。落ち着こう、落ち着かないと。
純一君に今、現在、聞きたいことができてしまったんだった。
ふっふっひー、ふっふっひー
……ちょっと落ち着いたかな。
よーし、純一君、さくさくと正直に答えてもらおうか。
「………………見た?」
「み、見てないよ」
おのれ純一、絶対見えただろう。寧ろ、その位置で見てないってのが、おかしいんだよ!
「絶対見たでしょっ」
「見てない、見てない! 本当に見てないって!」
こいつ、この期に及んで嘘をつくとは良い度胸だ、見直したぜ。
まーー、見直したけど、許さねーけどな。
だいたい着用している俺が、どんなパンツを穿いているか知らないっていうのに、何で純一が俺の穿いているパンツを知っているんだ。
ずるいだろう、おい。仲間、いや幼馴染という親しい関係なら情報を仲良く共用するもんだろう、おい。
俺なんか俺なんかなーー、アイスに変態という濡れ衣をかけられて、みなとちゃんの下着を触るどころか見るのも禁止されているというのに、しくしく。
あー、なんかむかついてきた。
ラッキースケベ☆純一め、どうしてくれようぞ。
「みっ、見てないからね」
何だか純一の顔が赤くなっている気がする。
なんで赤くなっているんだ? えっ、赤くなるポイントなんてあったっけ。
もしかして、みなとちゃん(中身俺)のパンチラを見て赤くなっているのか。
しかし、パンチラした本人が羞恥心で赤くなるのは分かるけど、なんで純一が赤くなるんだ?
考えろ、考えるんだ。
純一が顔を赤くして、チラチラこちらを窺っている状態を分析するんだ、俺!!
何か文章にしたら乙女っぽくてキモくなったけど、気にしちゃだめだ、俺!!!
考えられる可能性は三つ。
①今、俺の穿いている下着がセクシーすぎて興奮して赤くなっている
②今、俺の穿いてる下着が子どもっぽくて恥ずかしくて赤くなっている
③実はいたって普通の下着を穿いているのだか、純一君には刺激が強すぎたようだ。純一君の純情にカンパーイ
うーむ、このどれかだと思うんだけど。
てか、三つも無理矢理選択肢を考えたけど、これ答えわかってるんだよな。
そう、正解は②だ。
きっと動物パンツやキャラ物パンツっといったお子様系パンツを俺は着用、いや装備しているに違いない!
うおぉーーーっ、女子高生の選ぶ下着じゃねーっていうのを穿いていると思う。
戦犯は紛うことなきアイスだな。
あいつは自分が着ている服が可愛いから、つい下着も同じ感覚で選んでしまったんだろう。
まあ、でも良い機会だ。これからは俺にみなとちゃんの穿く下着を選ぶ権利を貰おう。
帰ったらアイスに抗議だ、わっしょい。へっへっへっ、家に帰るのが楽しみだなぁー
おっと、いけない、純一のフォローしとかないとな。
なんつーか、残念なパンツを晒してすまんな。
まあ、お前もいつかステキな……いや、自分好みのシチュエーションのパンチラに巡り合える時がいつか来るさ。
それまで首を長くながーくして待っているといいさ、ドンマイッ☆
「う、うん、そっかー、見てないんだね。ごめんね、何度も聞いちゃって」
まぁ、俺は二度とパンチラするつもりがないし、純一に見せるつもりもないけど、明日からは気合の入った下着を穿くつもりだ。
ハハハ、見せられなくて、いや見れなくて残念だな。
よしよし、この話題は終了です。
男にパンチラしちまった黒歴史は、早めにスルーまたは忘れるに限る。
「……うん、分かってくれたならいい」
純ちゃんは少し挙動不審だったが、段々と大人しくなった。
ふーー、風がまだびゅーびゅーと勢いよく吹いているし、またパンチラしたら嫌だし、今日のところは、なるべく早めに撤収するか。