みなとちゃんと不良
ふう、やっと学校が終わった。これからどうしようかな。過恋学園の湊なら、この後部活または買い物に行くんだけど、愛巣高校の港はこの後どうしようか。
うーん、まだ放課後の活動内容を決めてないし暇だ。ちょっと学校の近くをブラブラしてみようかな。探検、探検っと。
あれ? なんだかこの先騒がしいような。気になる、ちょっと覗いてみよう。
あまり人通りが少ない道だけど、大丈夫だよね。
「へっへっへっ、いい鞄を使ってるねぇ、お坊ちゃん」
「か、鞄を返してください」
「うわっ、こいつ、財布にすーげー金が入っているよ! ヒュー、金持ち~♪」
「あっあの、お願いですから返してください……」
「ああ? 何言ってんだ、これはもうオレたちのモノなんだよっ!」
クラスメイトの岡本君が、ガラの悪そうな他高校の男子に絡まれていた。
わーわー、こんなことをする人って本当にいるんだ、初めて見ました。
って、見ている場合じゃない。岡本君を助けないと! と、とりあえず、前にドラマで使っていた手法で華麗に撃退しましょうか。
「――恐喝は犯罪ですよ」
「はぁ? そんなの知ってるし」
「おいおいおいおい! そもそも、オレたちカツアゲなんてしてねぇーし! そこ、ちゃんと否定しとけよっ」
「だよな、ちょっとぉー、お金を貸してもらっているだけだし、オレたち♪」
三人組の男子高校生の興味を私に引いて、急いで彼を背中に隠す。
岡本君は少し震えているようだ。体が弱いから倒れないか心配だな。
「いいえ、どう見ても恐喝です。さっき、警察を呼びました。補導をされたくなければ、さっさとここから去るんですね」
これで諦めて家に帰ってくれるはず。さぁさぁ皆さん、お家に帰るのです!
「はっ、警察が怖くてカツアゲができるかよっ!」
「ほんとに呼んだか怪しくね? ぜってぇー、ハッタリっしょ」
「つかさー、こいつからも巻き上げちゃえばよくね? 一石二鳥だし♪」
き、効いてない!? そんなあのドラマの主人公が使っていたスマートな手法なのに。まさか、もうこの手、古い?
どうしよう、次の手を考えないと。
「ごめんなさい、僕はあなたまで巻き込んでしまった……」
岡本君が震えた声で悲しそうに言う。
「気にしなくていいよ」
女子高生の私だったら、もしかすると怯えて動けなくなるかもしれないけど、今の私はみなと君なんだから。
そう、ギャルゲーの主人公なんだから、女の子たちをガッカリさせるわけにはいかない。男(?)ってやつを見せないとね!
とりあえず、純ちゃんが前にやっていたファイティングポーズをとってみる。威嚇は大事です。それが例えハッタリだとしても……そう、ドラマの主人公も言っていました!
他校生の三人組は、ゲラゲラと笑いながら私を見る。
うぅー、やっぱり素人の構えだって、ばれてるんだろう、どうしよう。
……でも、狼狽えるのは心の中だけで、きちんと相手の目線は外さないようにしないと。目を離した瞬間、襲ってくるかもしれないし。
そうして他校生たちをよく見ると、いつの間にか彼らの背後に人が立っていた。彼らは、まったく気付いていないけど誰だろう。助っ人かしら?
「透輝様、遅くなって申し訳ありません」
後ろにいたのは結城乙葉さんだった。そして、背後に第三者が現れて、彼等は動揺している。よくよく考えたら挟み撃ちになっているからね、そりゃあ驚くか。
「乙葉か、探しに来てくれたんだね」
「はい、それでは迅速に処理します。お下がりください、透輝様」
結城さんは、こちらを安心させるような優しい笑顔で言った。
写真で見るよりもかっこいいなぁー、結城さん。写真だとクールな美人さんだけど、実際は柔らかな雰囲気なんだね。
っと、見惚れてる場合じゃない、私も何かしないと。
「乙葉なら大丈夫だから見てて」
岡本君に手を引かれ、後ろに下がる。
結城さんってロボットだから、やっぱり喧嘩が強いのかな?
もしかして、ビーム光線が出たり、〇〇〇パンチを繰り出したりして……って、まさかありえないよね。
「あぁ? なんだお前? もしかして、てめぇが代わりに……ぐぅっ」
「黙りなさい」
他校生の首元を結城さんはグイっと片手で持ち上げる。首が絞まって苦しそうだ。
「おい、調子に乗ってんじゃねーーぞっ!」
他校生が結城さんのお腹を勢いよく蹴り上げる。うわっ、痛そう。
カンッと金属の音が響き、蹴り上げた他校生……三人いて紛らわしいので、他校生Bと仮定しよう。他校生Bさんは蹴り上げた足を摩りながら、結城さんを睨み付ける。
「こいつ、腹になんか仕込んでるなっ、クソがっ!!」
「これ以上痛い目に合いたくなければ、その鞄と財布を置いて帰りなさい。今日のところは、見逃してあげますから……」
そう言うと、結城さんは持ち上げていた他校生(この人は順番的にAさん)を壁に叩きつけた。
「ちっ……てめぇらの顔、覚えたからなっ!」
「オレたちに、こんなことをしてタダで済むと思うなよ」
「………………クソッ」
乱れた衣服を直しながら、他校生三人は去っていった。
絡まれた時はどうしようかと思ったけど、結城さんのおかげで見事に解決しました。すごい! 結城さん、テレビに出てくるヒーローみたいでカッコイイです!
「助かったよ、ありがとう。君って、とっても強いんだね」
「いえ、こちらこそ透輝様をお守りしていただき、ありがとうございます」
「庇ってくれて、本当にありがとう。ん、よく見たら、君ってうちのクラスの火置君だね」
「透輝様のクラスメイトでしたか……私は透耀様の護衛を務めている結城乙葉といいます。どうぞ、お見知りおきを……」
「うん、こちらこそ結城さん、じゃなかった結城君よろしくね」
「はい、火置君これからも透輝様のことをよろしくお願いします」
「僕のことは岡本じゃなくて透輝でいいよ。あと、乙葉、そんなに心配しなくても、僕は大丈夫だからっ」
「はは、二人ともよろしくね」
こうして私は、透輝君と結城さんと無事お知り合いになれました。
これを機に結城さんとより親しくなれるといいな。
よし、来週結城さんを遊びに誘ってみよう。
もっと仲良く、親しくなりたいし。
楽しい気分になって、浮かれながら私は家に帰った。
――明日、何が起きるか知らずに。
「これで、あいつらは、あの女に目をつけた。夜美と港君の大切なデートを彼らに邪魔される訳にはいかないし、精々《せいぜい》夜美の役に立ってよね。あぁそれにしても、明日の港君とのデートが楽しみ。うふふ、もうお姫様に王子様は渡さない――悪役だって恋をする権利はあるんだから。今にみてなさい、港君と結ばれるのは夜美なんだからね……!」