おまけ話2
〈みなとちゃんと委員会〉
「ハーイ皆さん、今から所属する委員会と係を決めてもらいます」
みなと君のクラスの担任である高倉満地留先生が、黒板の前でパンパンと手を叩きながら話す。
委員会か……私は去年体育委員だったんだよね。今年は、どうしようかな。
「さてまずは、学級委員長と副委員長を決めましょうか? 立候補や推薦、誰かいますか?」
…………………えっ? ボスザルって何ですか? 委員長を決めるんですよね? どこからボスザルという単語が出てきたの?
「はいはいはいっ、田所君と〇〇さんがいいと思います」
「えっ、あたしですか?」
「あー、確かに〇〇さんだったら委員長を任せられそう~」
あのあのあの、だから、ボスザルって何ですか? 黒板には委員長と副委員長、書記って書いてあるんですが。
「そうだな、〇〇はしっかりしているし、委員長に向いているんじゃないか」
「田所君がそう言うなら、あたし少し頑張ってみようかな……先生委員長やります!」
「――他に立候補や推薦はありませんか? ないようでしたら我がクラスの委員長は〇〇さん、副委員長は田所日狩さんで決まりですね」
「意義ありません」
「〇〇さんは中学も委員長を務めていたしねー」
「田所君も纏めるの上手いしピッタリね」
うぅ、だからボスザルって何?
もしかして、昨日それについての説明会があったのかな? 私、その日は欠席していたから全然わかんないよー、みなと君、助けて。
「みなと君、俺はアライグマになったよ」
「へぇー、保健委員会になったんだ。私は風紀委員に入ったよ。バンバン校則違反を取り締まっちゃうよーん」
つ、通じてる!? みなと君の学校ではこれ普通なんだ。そ、そうなんだ。
もしかして、みなと君の学校ってちょっと変?
〈みなと君の春本〉
「へぇー、みなと君って星座の本を読むんだね。ふふ、ロマンチック」
みなと君からお許しが出たので、みなと君の本棚をチェック。各キャラクターの攻略ノートを今探しています。
「ちょっ、ミーナ、それって……」
「あれ? 本の後ろに薄い本が……何これ」
手に取ってみると、際どい格好した女性が表紙の本だった。なんだか髪型や体型が筒見さんに似ているような……気のせいだよね?
「きゃーっ、それは読んじゃ駄目よー!!」
ページを捲ろうとすると、カレンちゃんに引ったくられた。
これは、もしかして、もしかすると?
「もしかして、カレンちゃんの本? 勝手に読もうとしてごめんね」
「っっんなわけないでしょ!! これはミナミナのエロ本よ!」
「こっ、これが?」
なんと! 私はみなと君のエッチな本を読もうとしていたのか。危ない危ない、完全に読むところだったよ。
「で、でも、そういう本ってベットの下に隠すのが様式美じゃないの? ほらっ、漫画やドラマだとそっちに隠すし……」
「そうね……でも、ベットの下に隠すのがメジャーだからマイナーな本棚に隠すんじゃないかしら? ほら、木を隠すには森って言うし」
「なるほど、大変勉強になりました」
それじゃあメジャーな隠し所には何が置いてあるのかな。気になる、ちょっと覗いてみようかな。
「ベットの下を見たらみなと君に怒られるかな?」
「大丈夫じゃない? ベットの下を漁っちゃ駄目って聞いてないし、どうせ大した物は置いてないわよ。そうねー、もしかしたら斧を持った知らない男性が潜んでいるかもね」
「やだなぁ、怖いこと言わないでよ、カレンちゃん」
夜寝れなくなったら困るじゃないか。
そして、私は恐る恐るみなと君のベットの下を覗く。
変な人が居ませんように、知らない人が居ませんように、とにかく誰もいませんように。
ベットの下には小さめの段ボールがポツンと置いてあった。
「何が入っているんだろう?」
「さあ? 開けてみれば分かるんじゃない?」
カレンちゃんはカッターでベリベリとガムテープを剥がす。
「みなと君に叱られちゃうよー、カレンちゃん!」
「ふふん、ミナミナの分際でこの私に説教なんて十年早いってーの。全く隠し事なんてミナミナの癖に生意気なんだからねっ」
ダンボールを開けてみると……中には大量の本とピンク色の手紙が一通入っていた。
大量の本は、もしかして、みなと君のエッチな本?
「あら、ミナミナの秘蔵エロ本かと思ったけど違うみたいね。どうやら、女の子からのプレゼントみたいよ。手紙にはそう書いてあるし」
みなとちゃんが私に手紙を見せる。そこには、愛巣高校ひ・み・つ女子クラブより萌えを込めて♡ と書いてあった。
「カレンちゃん、勝手に読んじゃ駄目だよ」
「大丈夫よ、さてどんな本かしら。ほらっ、量が多いしミーナも読んでみたら?」
カレンちゃんはダンボールの中から本を取り出して読み始める。
手のひらサイズなのに私と同じくらいのスピードでパパッと動けるなんてカレンちゃんはすごいなぁ。
と現実逃避している場合じゃない。私はどうするかだ。そう、読むか読まないか。
「ごめんっ、みなと君」
好奇心に私は勝てないんだ。一冊だけ、しかも一番ページ数の少ない本だけ、読ませていただきます!
「こ、これは……」
ベットの下にあった本は、全てみなと君と結城さんのラブストーリーであった。シリアスやギャグ、ドロドロの三角関係(みなと君と結城さんと岡本君)、悲恋、愛憎、甘々など多数のシチュエーションが漫画や小説で描かれている。
特に面白かったのは、みなと君と結城さんの両片思いだ。読んでいて思わず、結城さん頑張って、と心の中で応援してしまった。
しかし、どうにも理解できないのは、全て結城さんが男性になっている点だ。これらの本では結城さんが男性のように扱われている。一体なんでだろう。
「何となく、ミナミナがこれを封印してた理由がわかったわ。あいつ、女の子からのプレゼントは断れないからね。ミーナも今度から知らない女子に貰った本は、読まずに私に渡すこと! いいわね!!」
「う、うん」
こっそり読んじゃダメかな。私は少女漫画や恋愛小説を読むのが好きなんだよね。
〈みなとちゃんと新刊〉
「火置先輩」
廊下を歩いていると、ジャージ姿の女子生徒に声を掛けられた。
「俺に何か用?」
「ふふふふ、先輩に新刊をプレゼントです」
「ううん? ありがとう」
青いビニールに入った本を渡される。
これって、もしかして、ベットの下にあった本関係?
はは、そんな訳ないか、考えすぎだよね。
「私たちヒミツ女子ク☆ラヴは、火置先輩を応援しています! ええ、とにかく応援しています!! 特に結城先輩の仲を、頑張って下さいね、先輩」
「あ、ありがとう」
私って結城君好きすき光線でも出ているのかしら。なんか照れるってよりは、恥ずかしいなぁ。
「絶対に、ひ・み・つ女子クラブや秘密女子クラ部に屈せず己の愛を貫いてください! 絶対に、絶対ですよ、先輩。それでは、また、新刊の季節に会いましょう」
「は? えっ、ちょっと待って……」
彼女は疾風のように廊下を駆けていった。
廊下は走っちゃだめなんだけど、急ぎの用があったのかな。
「手紙の名前と若干違うんだけど、もしかして、ベットの下にあった本とは別のグループなのかな?」
気になる。早く家に帰ってカレンちゃんに相談したい。
「あらっ、そわそわしてどうしたの、火置君」
「うわっ」
考え事をしていたら知らない先輩がいつの間にか横にいた。うう、急に話かけられたからびっくりしてしまった。
「驚かしてゴメンね、火置君~♪」
「い、いえ……」
みなと君の知り合いの方なのかな。どういう仲?
「実はね、新しい本が出来たからあげようと思って、わざわざ来たってわけさ」
「そうなんですか」
本? まさか……
「じゃじゃーん、我ら秘密女子クラ部の新刊だよ。はーい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
新たなグループからの新刊。今日は新刊デーという行事なのかしら。
「ちゃんとお家に帰ってから読むんだよ。絶対に学校で読んじゃダメ、あと誰かに見せるのもダメ。火置君は良い子だからちゃんと約束を守れるよね?」
「は、はい!」
先輩、目が笑ってなくて怖いです。みなと君とは、どういう関係なのですか!? というか、私はどうすれば正解になるの?
「よしよし、良い後輩だね。もうすぐチャイムが鳴るから教室に戻るわー♪」
「はい、新刊をどうもありがとうございます!」
先輩は手を振りながら上の階に帰った。
「はーーっ、疲れた」
本を貰っただけなのに、なぜか疲労感。つっかれたーです。今日は寄り道しないで真っ直ぐ家に帰ろう。
「火置、どうしたの? 溜息なんてついて」
「委員長、いや、その、そ、そういえば、今日たくさん本を貰っちゃってどうしようかなーって。俺、紙袋を持ってないからさ」
よし、良い感じに誤魔化せた。委員長に相談するわけにはいかないからね。
「じゃあ、これあげるよ。ちょうど貴方に渡す予定だったし」
「わー、ありがとう委員長。さすが、頼りになるね。えっ……」
空の紙袋を渡されると思いきや、ずっしりと重みがある紙袋が机に置かれる。
「あたしたち、ひ・み・つ女子クラブの新刊が中に入っているからね。ついでに予備の紙袋も入っているから、今日貰った本も一緒に仕舞っちゃいなよ」
「…………わぁ、嬉しいなーっ」
思わず棒読みで返答してしまった。
「ミーナ、これどうしたの?」
「……聞かないで、私もよく分からないの」
みなと君、君の学校のモブの女子生徒は、私の学園と全然違うことが今日よく分かったよ。うん、本当に全然違うね。
アライグマやゾウといった委員会の呼び名は、当時の担当教諭の好きな子ども向けのキャラクター(動物)が元。
委員会のプリントにも、その動物が使われているくらい学校内でポピュラーなものになっている。