みなとちゃんと指輪
みなと君との電話が終わると、生き生きとした輝きを持つカレンちゃんと目が合う。かなり張り切っているみたいだなぁ。
「さてと、アホの心配もなくなったし、私んとこの攻略キャラの説明をするわね」
「そうだね、みなと君からは簡単なプロフィールは渡されたけど攻略法は伝授してもらってないし、よろしく頼むよ」
「ふふん、バッチリ任せてちょうだいな。まずミーナは、どの子狙いなのかしら?」
「結城乙葉さんと筒見葵さんかな」
因みに、結城さんは髪も瞳も藍色のショートカットの女の子で、筒見さんは蒼君と瓜二つの顔で眼鏡をかけている女の子だ。
「あれま、随分攻略が難しい女の子を選ぶわね。特に筒見葵は、ミナミナですら落とせなかった難攻不落の女で、かなりパラメーターが高くないと見向きもされないわよ――それでも挑戦するの?」
えぇ!? そうなんだ。筒見君は早い段階で打ち解けたんだけどな。葵さんは気難しい女の子なのかしら。
でも、難しくてもやりとげたい。初めて見た時、ビビッときた女の子たちだもん。
「うん、頑張ってみるよ」
「ほほう、良い心構えね。ならば、これを使いなさい」
カレンちゃんからアメジストのような紫色の石がついた指輪を渡された。
「これは?」
「これはね、装備しながら勉強すると能力値が大幅にアップする神秘のアクセサリーよ。しかも、ある攻略キャラの遭遇率と好感度が上がる装備品ね。ちょこっと問題もある品だけど、これを使ってガンガン強化していけば彼女と出会えるチャンスが巡ってくるわ!」
「うわー、凄い装備品なんだね。ところで問題ってなんだい?」
「うっ、それは日曜日に判るわ。それまでのお楽しみってことで。次に結城乙葉ね、彼女は、まず岡本透輝と仲良くしていけば、その内紹介をしてもらえるわ。但し、この子も相当高い数値じゃないと付き合うのは無理ね」
二人ともかなり自分を磨いていかないと振り向いてくれないようだ。
古賀先輩や臥龍岡先輩と同じぐらいの高いパラメーターが要求されるってことかしら。
「さてと、次は幼馴染の子を紹介しようかしら。うちの近所に住んでいる沢村土筆、ミナミナは名前を呼び捨てしているから同じようにしなさい」
カレンちゃんは緑色の髪に橙色の瞳をした、喫茶店で食事をしている女の子の写真を見せる。随分と美味しそうにショートケーキを食べているなあ、この子。
「土筆ちゃんじゃなくて土筆だね、わかったよ」
「この子食いしん坊なのよ。この子と仲良くなると友達の姫森小桃を紹介してくれるわ。筒見葵だったら宝方三千代というテニス部のお嬢様を紹介されるわね」
ふむふむ、仲良くなると同性の友達を紹介してもらえるシステムは、ギャルゲーも同じってことか。
あれ、結城さんは誰を紹介してくれるのかな。聞いてみよう。
「結城さんは誰を紹介してくれるの?」
「誰も紹介しないわよ。彼女と仲良いのって岡本透輝だもの。岡本は主人公と友達になるから紹介なんてする必要ないし」
そうなんだ、じゃあ、結城さんと一番に仲良くなる同性って私が初めてなのかな。ちょっと嬉しいな。
「やる気が漲ってきた。よーし、頑張るぞー」
「その意気よ、ミーナ! 一緒に頑張りましょう」
明日から学校が始まるし、気合を入れないとね。早速、明日から岡本君と仲良くなれるように、一緒に行動してみよう。
頭の中で明日のことを考えていると、一階から大声で名前を呼ばれる。
「みーなーとー! ご飯ができたから降りてきなさい」
どうやら夕食が出来たので、みなと君のお母さんに呼ばれているようだ。
……そういえば、言われなかったから夕飯の手伝いを何もしなかったけど、もしかして、お母さんに注意されるかしら。どうなんだろう? まあ、しないよりした方が喜ばれるよね。次からは、ちゃんとお手伝いしよう。
「はーい、今行くよ」
「あら、もうこんな時間なのね。じゃあミーナ、また後で……」
今日は色んな出来事があってお腹がすいたなあ。ダイエットを気にする必要はないし、久し振りに沢山食べちゃおう。
夕飯は野菜たっぷりのカツカレーだった。
とても美味しくていつもはしないお代わりをしちゃった。
夕飯の準備を手伝わなかったことについて怒られるかと思ったけど、全然怒られなかったなぁ。どうしてかというと、みなと君は、あんまり家のお手伝いをしないタイプだったみたい。
しかし、私も同じようにやらないという訳にはいかない。
今日からみなと君の体に居候させてもらうんだし、家のこと少しは手伝わないとね。お皿洗いだけしてきたけど、明日からは自分でお弁当も用意しようっと。
家事のことを考えながら部屋に入ると、部屋に居たカレンちゃんの機嫌が悪かった。どうしたんだろう、何かトラブルでも起きたのかな。
「聞いてよ、ミーナ、あのアホが何を着ていいのか分からないって、わざわざ電話してきたのよ」
みなと君、これから出掛ける用事でもあるのかしら。でも、私の家って門限があるから、今から出掛けてもどこも行けないと思うけど。
「出掛ける用事でもあったの?」
「違うわよ、夕飯を食べるのに着る服が分からないって電話してきたのよ」
えぇっ、ご飯を食べる時の服が分からないって……
まさか、古賀先輩や臥龍岡先輩にディナーを誘われたのかしら。こんな初期に先輩に誘われるなんて、みなと君はすごいなぁ。ギャルゲーよりも乙女ゲーの主人公の方が向いているんじゃないかな。
「……ミーナ、関心しているところ悪いんだけど、あいつが悩んでいるのは、ミーナの家の夕飯に着る服よ」
「えっ、私の家にドレスコードなんてないよ。どうして悩んでいるの、みなと君」
「さぁ? 今サポート妖精が出掛けているみたいで、かなり焦っていたわ。まったく、デートじゃないから適当な服を着ればいいのに、あのアホ。とりあえず、適当に見繕ってあげたわよ。本当に手間かけさせるんだから」
「みなと君は元々男の子だから女子の服装が分からないのは、しょうがないよ」
みなと君は今日女の子になったばかりだし、仕方がないと思う。それに私の着る服が多すぎて、何を着ていいのか分からなくなったという可能性もあるし。
「それに加えてもいきなり下着に手を出すかしら? 絶対スケベ心よ、あいつ」
「あはははは」
それは相当慌てていたってことにしよう。
「はぁー、今日はもう疲れたわ」
「もうそろそろおねむの時間?」
「お子様扱いするのは禁止よ、ミーナ。私、こう見えてもあなたより年上なんだから」
「ああ、ごめんねカレンちゃん。決して子ども扱いしているわけじゃないんだ」
ついアイス君と喋っているノリで話してしまった。反省です。
「悪気がないなら別にいいの。ところで、ミーナは、お風呂に今すぐ入りたい?」
「お風呂? うーん、今はお腹いっぱいだし、やめとこうかな」
まだ胃にカツカレーが残っている気がするしね。
「ふーん、それなら時間があるわね」
「うん? お風呂がどうかしたの」
そういえば、夕食の時、みなと君のお母さんが早く入りなさいって言ってたなぁ。
「今、ミーナは男性でミナミナは女性でしょう? 着替えやお風呂、トイレの問題を解決しようと思ってね」
「そっか、そうだよね。入れ替わるってことは、見る・見られる関係なんだよね」
わかっていたことだけど、異性に自分の身体を見られるのは恥ずかしい。みなと君もきっと私に見られるのは恥ずかしいだろうなぁ。なるべく見ないようにしないと!
「安心してちょうだいな。私がこれからサポート妖精の権限でシステムを弄って改変するから、あのエロアホに裸を見られる心配はないわ。逆にミーナもこの貧弱ボディの裸を見る必要はないわ!」
ひ、貧弱ボティって、結構辛辣なことを言うなぁ、カレンちゃん。
「システムをちょちょいと改造して、さっき言った行動すべてにスキップ機能を取り付けるの。そうすると、自動で服が着替えられたり、勝手にお風呂とトイレが入り終わるわね。もちろん、その時の記憶はないわ」
「うわー、これで私もみなと君も安心してお風呂に入ったり着替えたりできるね。ありがとう、カレンちゃん」
「お安い御用よ。ふふふ、今にミナミナの悔しがる顔が見えるわ」
カレンちゃんは不気味に笑う。不気味っていうよりは、ネズミを甚振って楽しむ猫のようだけど。
「何か手伝うことある?」
「気にしてくれてありがとう。でも、これに関しては大丈夫よ。そうね、暇だったら本棚にミナミナの攻略用データがあるから読んでみれば?」
「うん、暇だしそうするね」
みなと君の攻略データをありがたく拝見させていただきます。ああ、そうだ、私の攻略用ノートの場所をメールで伝えておこう。
みなと君の攻略の参考になると良いな。