おまけ話1
主に本編で入れられなかった小話や小ネタです。
〈みなとちゃんの買い物〉
「こっちのフリルたっぷりのワンピース可愛いね。ヒラヒラしてカレンちゃんにとっても似合いそう」
「……」
「あ、でも、この白いキラキラドレスも良いね、まるで、お姫様みたいで綺麗」
「…………」
「やだ、私ったらお洋服ばっかみて大変! 靴や髪飾りも見ないと。今日中に終わるかしら」
「………………ミーナ、これって本当に必要かしら?」
今日、私たちは妖精国にお買い物に来ている。目的は可愛い可愛いカレンちゃんの洋服を買うためである。
みなと君の家にもたくさん衣装はあったんだけど何か物足りなくって、私が無理矢理カレンちゃんを誘ったのだ。カレンちゃんはとっても可愛いから、洋服がいくつあっても足りないから大変ね。
「必要だよ、絶対必要!」
「でも、私を着飾るのより、もっと別の物に使った方がよくないかしら?」
「そんなことないよ、俺はアイス君には、もっともっと買ってたもん」
「はぁ、ミーナは、お金持ちだったのね。私の買い物は、そこらへんにしてミーナの服を選びましょうよ」
カレンちゃんは洋服を元の場所に戻す。ああ、あんなに似合っていたのに勿体ない。
「えぇー、まだこれだけしか買ってないよ」
「い・い・か・ら、これ以上買い物すると破産しそう。ほら、ミーナのデート服でも見ましょう、今度は私が選んであげるから」
カレンちゃんに、ぐいぐいと押されて店を出る。
仕方がない、今日はこのへんにしときますか。大人しくカレンちゃんに着いていこう。
「どうせなら面白い店に連れて行ってあげるわ」
「へぇー、どんなお店?」
メンズ向けのお店ってあんまり入ったことないんだよね。どんなお店か気になる。
「それは着いてからのお楽しみよ。さぁ、行きましょう」
この時訪れたお店のせいで新たな趣味に目覚めるとは、今の私には到底わからなかった。
私にとってそれを集めることは楽しかったんだけど、カレンちゃんにとってはちょっとした悩みの種になっていたみたい。女性でもやっている人はいると思うんだけどな、不思議。
みなと君は驚くかな。それとも普通だよって笑ってくれるかな。次に会うのが楽しみ。
〈みなと君とファッション〉
ふぅー、満腹満腹。みなとちゃんのママの夕飯は最高に美味かった。明日のごはんも楽しみだなぁ。
そういえば、そろそろアイスが帰ってくる頃かな。どんな服を買ってくるのだろう。
「ただいまー、ミナミナ」
「おう、おかえり……って、何じゃこりゃっ!!」
妖精店から帰って来たアイスを見ると酷い有様だった。
さっきまでさらさらだった飴色の髪はボサボサのオールバックに、左目は眼帯している……痛そうだ。
殴られた痕なのか、右目にはうっすらと黒い痣のようなものができていた……酷い。
体中のあちこちに包帯が巻かれ、鎖が付いた黒いパンツは所々ビリビリに破けていた……可哀想だ。
どう見てもアイスは事件に巻き込まれている。痛ましい、こんな小さい妖精に酷いことするなんてゆるさねぇ。
俺は急いで救急箱を持っていく。怪我は大丈夫なのだろうか、心配だ。
「アイス、一体何があったんだ! 妖精店に強盗が入ったか、それとも通り魔に襲われたのか!!」
「は? 何言ってんだよ、これはファッションだっつーの。似合うだろ?」
「まったく俺に心配をかけないようにそんな嘘までついて、わかった。深くは聞かん。だが、どんな奴に襲われたのか教えてくれ!」
敵はとるぜアイス、任せな。
「だーかーらー、これはオシャレなの。ほら、これとかクールで、かっこいいだろう?」
アイスは包帯が巻かれている手を俺に見せる。
「!? 包帯にべっとりと血が付いているじゃねーか、くそ、かなりの出血量だ! すぐに病院に行かないと。おい、他にどこか痛いとこあるか?」
「僕はどこも悪くないって、離せって……」
「じたばた動くな、傷が開く。超特急で行くから病院に着くまでガマンしてくれよ」
俺はバスケットにアイスを入れて病院に向かう。アイスは始終暴れていたが、病院に着くなり大人しくなった。
「……またですか、アイスさん」
「すみません、先生」
「先生! アイスが暴漢に襲われて酷い怪我をして……俺がきちんと一緒についてればこんなことにはならなかったんです。俺、くっ、みなとちゃんに顔向けできねぇ」
俺は泣きながら病院の先生の腕に縋る。
「心配ありませんよ、アイスさんの傷は軽いです。これなら痕が残らず治療できますよ。少し待合室でお待ちください」
白い髭を生やした貫禄のある先生は優しく微笑みながら言った。
「先生、アイスのことをよろしくお願いします」
俺は何回も何回も先生に向かって頭を下げる。
良かった、アイスの酷い怪我は治せるみたいだ。
しかし、身体の傷は治っても心の傷は治ってないはずだ。これからは俺がしっかりと見てやらないとな。
「治療は終わりましたよ」
十分くらいして病院着を着たアイスは、先生と一緒に診察室から出てきた。
アイスに駆け寄ると、顔にあった殴られた痕はなくなり、包帯の巻かれた箇所は傷一つない綺麗な皮膚になっていた。
「アイス!! あれだけ酷い怪我が一瞬で、先生ありがとうございます、ありがとうございます! 先生はスーパードクターだ」
俺は感激のあまり先生の手をぎゅっと握ってぶんぶんと振り回す。
良かった、良かった。アイスの怪我が治って、本当に良かった。今度から外出する時は必ず俺が着いて行くからな。
それにしてもアイスは、なかなか犯人について口を割らないな。これはもしや相手を庇っている可能性が高い。ということは顔見知りの犯行ってことか。アイスの優しいところに漬け込むなんて最低な奴のすることだ。俺は絶対犯人を許さない、絶対にみつけてやる。
〈オシャレ曜日〉
「みなと君って曜日ごとに変えているものってある?」
「え? 急にどうしたの、みなとちゃん」
「んー、親友が曜日ごとに靴下を変えていたんだよ。面白いからって勧められたのを思い出してね、俺もやってみようかなーっと」
靴下を毎日変えることってそんなに面白いかな。寧ろ普通じゃないのか。女子の考えていることは、さっぱり判らん。
「あー、普通なことだと考えているでしょ? 残念、親友の蛍都はね、月曜日はソックス・火曜日はニーソ・水曜日はストッキングといったように曜日によって変えているおしゃれさんなんだよ」
「えぇ、それはすごいな」
木曜日と金曜日は何を穿いているのだろう。ちと気になりますな。
「でしょう? 俺もやってみようと思って」
「へぇー、みなとちゃんはどんなことやるの?」
毎日できる事としたら、髪型を変えたり香水を変えたりとか。それとも、靴やアクセサリーを変えたりとか。
うーむ、俺の少ない知識だとこれが限界ですな。
「俺はね、曜日ごとに下着を変えようと思っているよ」
「し、下着? 下着を?」
えっと、それって、どういうことですかね。そんな見えない箇所を変えても気付くのは同性だけですよ、みなとちゃん。
「うん、この前ショップへ買い物に行ったら、可愛くて格好良くてステキな下着をいっぱい見つけてね、思いついたんだ。びっくりしたよ。ブリーフって白色ってイメージだったんだけど、お洒落なのがたくさんあるんだね」
「そ、そう。因みにどんな計画なんですか?」
思わず敬語になってしまった。何か不穏な気配がする。絶対恐ろしい計画な気がするだってばよ。
「えっとね、月曜日はブリーフ、火曜日はトランクス、水曜日はボクサー、木曜日はTバック、金曜日は褌一丁で行こうと思うんだけど」
「まじですかーーっ!?」
想像してたものよりもワイルド、つかワイルドってよりデンジャーだ。
きっと教室では、「火置がTバックだから木曜日だな」って下着で曜日を確認されるんだぜ、クラスメイトたちに。
うわっ嫌だ、絶対変態だと思われるよー
「そ、そ、それは、ちょっと過激すぎないかな」
「えっ、そうかな? 校則には引っ掛かってないし、大丈夫だと思うよ」
いやー、男子生徒でTバックや褌で登校してくるやつなんていないって。どんなオシャレ上級生って話だよ。いや、オシャレってよりドン引きだよ。何ですか、みなとちゃんの学校には普通に生息しているんですか。
あれ? そーいや土日は、まだ何を穿くか聞いていないな。またまた嫌な予感がする。
「……土日はどうするの、みなとちゃん」
「穿かないよ」
「えっ」
「うん、だから穿かない」
は か な い だ と。
と い う こ と は ノーパン? ノーパン? ノ - パ ン ?!
そんなことしたら俺の詳しくは言えない重要な部位がチャックに挟まっちゃうよ。
し・か・も、デートって基本土日だよね。デートにノーパンで行く男ってどうなの? ありなの? OKなの? 女子の考えていることわかんねーわ、まじで。
「あははは、みなと君ったら本気にした? 冗談だよ。下着をつけないなんて破廉恥な真似しないよ、流石に」
「そうだよね、ははは、もう冗談きついなぁ」
なーんだ冗談か、俺、信じちゃうとこだったよ。もう、みなとちゃんったらエイプリルフールは、とっくに過ぎてるぜっ☆
「土日はフリーでいくつもりだから安心してね、みなと君」
「…………えっ」
冗談ってそっちなんですか。じゃあ、下着チェンジ計画は続行なの?
まぁでも、ノーパンに比べたら穿いているだけましかな。うん、むしろ普通だな。
「やめさせねーのかよ、ミナミナは……」
「あのアホには無理よ。だって私でも出来なかったことよ」
「……主人公って変人ばっかなのか」
「今回はそういうパターンってことじゃない。はぁー、疲れるわ」
脇でヒソヒソとカレンとアイスが話し合っている。
真面目な彼らのことだから今後について大いに議論しているのだろう。
よっしゃー! 主人公である俺も頑張らないといけないな。応援よろしく、アイスにカレンよ。