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幕間(とある者の呟き)

 夢を、見た気がした。

 私がまだ私であった頃の夢。

 私は、多分誰かを守りたかった。

 その子が誰なのかは分からない。

 ただ、私はその子を家族という意味で愛していた。

 ということは、私に家族がいたということになる。

 私はどこで生まれ、どこで育ち、どこで何をして来たのか分からない。

思い出せない。

 ただ、時々こうやって、夢を見る。

 そうすると私は涙が溢れそうになる。

 もちろん出ない。それはまやかしであり、そもそも私は涙を流さない。

 でも私は涙の意味を知っている。

それは悲しいときや辛い時に流すもの。絶望に打ちひしがれた時に止めど無く流れる感情の結晶。

嬉しい時、喜びに溢れたとき、幸福を噛み締めた時に流れる感情の結晶。

 人間は涙を流す。知恵を持ち、理性的であることを彼らは美しいと思っている。

 それでも人は涙を流すのだ。抑えきれぬ、抗えぬ、心の叫びを、伝えたから。

 ――――――ああ。

 私は人が羨ましい。妬ましい。

人であるならば、彼の元に寄り添える。人であるならば彼の心に近づける。

 私には心がある。でも、私は涙を流すことができない。

私の涙は何色だろうか? 澄み渡る蒼色。純白の白。情熱的な赤。

私だけを見て欲しい。私だけを感じて欲しい。私だけを、愛して欲しい。

分かっている。私は、その子と彼を重ね合わせているのである。

そして決定的に違うのは、私は彼を男として愛している。いや、愛してしまった。

叶わぬ恋。禁断の恋。許されぬ恋。

だというのなら。私のこの恋慕が叶わぬというのなら。

私は、彼を許さない。

だから私は彼を苦しめた。心を引き裂くほど、生きていられぬほどの衝撃を与えた。

彼は殻に閉じこもった。私を責めることもなく、自らの殻に閉じこもった。

それからは幸せだった。彼と喋ることはなかったが、彼を感じ、彼の家族になれたような気がした。

この数年間は、私にとって一番幸せな時期だった……。



どうしてなの? こんなに愛しているのに。どうして繰り返そうとするの? あなたはどうして誰かを感じようとするの?


どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして…………。



そう、死んでも尚、あなたは邪魔をするのね。

分かっているわ。正体があなただってことくらい。

殺してやりたい。

私に人を殺すことが出来たら。

でもそれでは私は天使になれない。いい子でなければ天使にはなれない。それだけは絶対にダメ。

醜い感情ばかりが支配する。私は自分が大嫌い。

彼に嫌われてしまった。当たり前だ、私はそれだけのことをしてしまった。彼女は私が殺したようなものだから……。

大嫌いだったけど、殺したかったけど、でもそんなつもりはなかった。なんてただの言い訳。今でも思い出す、彼女の死に際、燃えるような熱い瞳。

同じ、何もかもが同じだ。また私はどす黒い感情に支配されようとしている。


叶える、願い。その為に、私は天使になる。

多分、それが私に課せられた運命。精霊も、人も、運命の輪から逃れることはできない。

世界は確定している。あらかじめ定められた道筋を、世界は歩む。

それを変えられるものがいるというなら。

神、か。神に近い存在――――創世主。

早くしなければ。早く。

彼が堕ちる前に、彼が傀儡となる前に。

あの子の笑顔のためにも。

守る。

例え、どれだけの者に虐げられても、どれだけの者に嫌われても。

どれだけ、彼が私を恨んでいようとも。呪ったとしても。

私は、守りたい。


 オカアサン――。


 声が聞こえる。私を呼ぶ声が。

 守ることの出来なかった誰かが。私を呼ぶ。

 ―――――様、――――――様!


 華恋の声――――?



「俺は――――だ。初めまして、お姉さま」



 ――――衝撃的な出会い。輪廻の始まり。

私が大罪を犯し、彼が死んだ日。


 全ては、ここから始まったのだ――――。



 


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