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別視点

 風を切るように空を翔る。蒼葉九柳それが私の名前だ。元の名前はもう自分の名前と認識できないぐらいに記憶の彼方に消えてしまった。私は生まれた時からディスガードになるべく育てられ、ディスガードの最高峰『三原色トライテイント』までたった十五歳で登りつめた。

 そんな私を威圧した男がいる。性格には少年というべきか、私と同じぐらいの歳に見えた。

 本当は私一人で十分だったのに、実際は彼を残して私はこうして走っている。奴が追いかけてこない所からして彼は上手くやってくれたのだろう。

 私に語った彼の目は真直ぐで、彼の瞳には私にない力が宿っていた。命を賭けるなんて言葉で言うほど簡単じゃない。

 警備員と違って運び屋は荷物を命を賭けて守ることはしないはずだ。だけど彼は命を賭けた。ましてや彼はDランク、まともに戦えば勝ち目はない。それでも彼は命を賭けた。それで私も彼の可能性に賭けてみたくなってしまった。不思議だ。

 最も彼の実力なら逃げに徹すれば奴から逃げきることは可能だろう。あの足でDランクという評価を受けている理由は分からないが、随分不当な評価だと思う。ピザの宅配に偽装するというアイデアも悪くない。彼はもっと高い評価を受けるべきだと思うのだが、運び屋には運び屋の基準があるのだろう。

 彼は今頃足止めのために着かず離れずの逃走劇を繰り広げているだろうか。

 ともあれ、私は彼にできるだけ速くという願いを託された。彼は彼の役割を果たしているのだから、私も彼の願いを果たさねばならない。

 本気で駆ける。受け渡し場所までは五分もかからなかった。

 しかし、待っていたのは紅い男だ。

「蒼葉九柳、久しぶりだね」

「新橋、運び屋が何故ここにいるのよ」

 新橋紀陽、元『三原色トライテイント』紅坂千里、現Sランクの運び屋。依頼の達成度は百パーセントだが、手段と仕事を選ばないので評判はよくない。私も嫌いだ。

「いや、蒼に出向いてもらって説明をしないのは不味いでしょ」

「どういう意味?」

「君には今回囮になってもらったんだ。まあ、最初から説明しないと分からないかな」

「もったいぶらないでどういうことか説明して」

 声は苛立ちを隠しきれないものになってしまった。やはり、こいつは嫌いだ。

「今回の依頼は元々僕が受けたものだったんだよ。で僕は確実に依頼を達成するためにデコイを用意した。それが始めに君が死んだって聞いていたDランクの名も無き運び屋君なんだよ。僕は焦ったね、デコイが役目を果たす前に死んでしまうんだもの。あそこまで使えないなんて思いもしなかったな」

 新橋は口元を吊り上げる。

「そこで僕は急遽代わりを用意した。それがさっきまで君といたデリバリーピザのアルバイトだよ」

「まさか、彼がただの一般人だったなんていうわけ?」

「うーん、どうかな? 彼は一般人ともいえないかもね。何しろ彼には保証人がいない。だからこそ彼を選んだんだけどね。死んでも困る奴なんて誰もいないだろ?」

 私は新橋の馬鹿面を殴りたい衝動に駆られたが、堪える。こいつは色んな場所に顔が利く、機嫌を損ねて私だけに復讐するならいいが、ディスガードに迷惑をかける可能性もある。

「情報をどこまで流すかかなり気を配ったんだ。結果、敵の注目も向けれたけど君まで呼び出すことになっちゃった。でも囮だって疑われなくて逆に良かったかもしれないけど」

「じゃあ、私が運んできたこれはただのピザってこと」

「あははは、面白いよね。彼は何の事情も知らずにピザのためだけに命を賭けたんだぜ。そんな馬鹿はそうはいないね」

 笑い事ではない。ピザに命を懸けるなんて理解できない。

「理解できないって顔をしてるね。そりゃそうさ、何もしなくても生きられる君のような人間には分からない。僕達のような生きるために生きている人間の気持ちはね」

「君は僕のことが嫌いだろう、依頼達成のためには何でもするって。そりゃそうだよ、僕は生きるためにはなんでもしなきゃいけないような人間なんだからさ。君のような人間とは身分が圧倒的に違うのさ。絶対的? 絶望的にさ」

「そんな僕から言わせて貰えば彼は生きるためにピザを守ったんだよ。それができなきゃ彼にとっては意味がなかったんだろうな。ていうか、彼にとって生きることっていうのはピザを守ることそのものだったんだ。彼の気持ち、僕の説明で多少は分かってくれたかな?」

「全然」

「まあそんなもんだろうね。期待もしていなかったよ。でね、もう一ついうべきことがあるんだけど、聞きたい?」

 私は新橋を睨む。

「怖いなあ。女の子なんだから笑ってればいいのに」

「いいから話しなさい」

「はいはい。実はね彼、ELMの第三幹部清野寛弘にタイマン勝負を挑んで見事勝利したみたいなんだよね。驚くべきことに」

「そんなことありえない」

「どうかな、絶対に勝てない勝負に勝ってしまう人間ってのが時々はいる。それが彼だっただけのことだよ。という訳で君がスカウトする気がないのなら、僕が彼をスカウトしちゃっていい? 彼とは気が合いそうなんだ。あんな馬鹿は中々いない」

「ダメに決まってる」

 この男は嫌な奴だが優秀だ。情報は全て正確だろう。本当に彼が一般人で奴を倒したのならば、そうでなくとももう一度彼に会ってみたい。あわよくば彼をディスガードに引き入れよう。彼との仕事は楽しそうだ。

 自然と口元が綻んでいたのに私は気づかなかった。

「ふーん、じゃあ今回迷惑をかけた分のお詫びとして僕は手を引くってことでいいかな?」

「構わない」

「じゃあ僕から一つアドバイス、もし彼のところに行くならお土産にそのピザを持っていってあげなよ。きっと喜ぶ」

 新橋はそういって姿を消す。文字通り突然空気になったようにだ。相変わらず妙な技を使う。気に食わない。

 私はしばらくその場に佇んでいた。

 彼に会いに行ってみようか。ディスガードにならなくても彼に報酬の分け前を渡さなくてはならない。

 しかし問題は、彼はどこに住んでいるのだろうか?



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