プロローグ
俺は仕事中はいつでも火のついていないタバコをくわえている。
一種のジンクスだ。
とでもいえれば多少はカッコがついたのだろう。
実際は新しいタバコを買う金が惜しくてこんなことをしてしまうほど、俺が貧乏であることを意味しているに過ぎない。
まだ成人に達していないこの身にはニコチンだかなんだかの物質は成長を妨げるとかで、法律上禁止されているらしいが、そんなもの作るくらいなら俺が問題なく成長できるように金をくれといいたい。
金がなけりゃ、プライドだって安くなっちまう。
幾度も修繕された黒いコートを笑われたってなんら気にならない。残飯を食うことだって、中学を中退したことだってだ。
俺は底辺で意地汚く生きてた方がむしろ好みらしい。中学に通っていた頃は夢も目的もなかった。死にたいと思ったこともなかったが、生きたいと思ったこともなかった。でも今なら断言できる。俺は間違いなく生きていたい。
そのためにやらなきゃいけないことは何だってやる、何だってな――
今回の俺の仕事は単純かつ明快。十五分以内に依頼人にピザを届けること、これだけだ。
もちろん、十五分を過ぎれば報酬は受け取らない訳だが、俺は今まで一度もこの仕事をしくじったことがない、故にそんなことを恐れる理由はない。
「一雨降りそうだな……」
ヘルメット越しに曇り空を見上げてそう呟き、二輪のエンジンを掛けた。