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「お袋ちゃん」育ててくれて有難う。

「わたしがっ、そんなことするわけないやろーっ!」徘徊、その(1)

2005/5/20(金) 午後 0:31

某月某日 母が夜中に徘徊を始めたのは、何時の頃からか、私の記憶は曖昧である。最初に母が徘徊した時、多分そんなに驚かなかったのだろう。


「もう、おきてもよろしいか?」朝の7時過ぎだ、私が6時半に起き、ゴソゴソするので、「音」に敏感な母は、直ぐに気づくのだ。


「もうちょっと待ってや~、いま、お茶沸かしてるからな~」


「あいよ、ありがとうございます」数分も経たないうちに、四つん這い(母は圧迫骨折で腰骨を2回折っている)になって、母がリビングにやって来た。


「おはようさん、よ~眠れたか~!」


「おはようございます、うん、ねたよ~」


「そうか、はい、この座椅子に座り~」


「にいちゃん、はよ、おきたんか?」


「うん、さっき起きてな、今お茶飲んでんねん、お袋ちゃんも顔洗って飲みな!」


「あいよ、カオあらうわ~」


「わーっぬくいわ~、ゆ~がでてるやんかー!」


「目え、覚めるやろう」


「ほんまやな~、にいちゃんがしたんか~」


「うう~ん、出るようになってるんや!」


「へぇ~、ほんまかいな、しらんかったー!」


「お茶、おいしいわ、にいちゃん」


「そうか、良かったなー!」


「だれが、いれたん?」


「僕やんか~」


「そんなことまでしてくれたん、ありがとうございます」母が、私にお辞儀する。


「眠たないか~」


「ねむたないよ~、なんでやのんなー」


「夕べ、お袋ちゃん、何回も起きてきたからな~、眠たぁないかなー、と思うたんや!」


「なんかいもっ!おきたっー!わたしがっ!そんなことするわけないやろー!」そうでした。母が夜中に6、7回起きて来てきたことなどは、既に過去のことなのである。



 「おか~さん、ねかしてーっ!」徘徊、その(2)

2005/5/23(月) 午後 1:12

某月某日 母の夜中の徘徊は、就寝直後の2時間以内か、明け方近くのやはり2時間直後に多いことが、何となく、分かって来ていた。この日も明け方近くの午前3時過ぎ頃か。


「おか~さん、おか~さん」と、母の声。私が起きるまで、声は続く。


「どうしたんや、寝られへんのんか?」


「ねむたいけどな~」と、母。四つん這いで部屋の中をウロウロする。


「風邪ひいたら、あかんから、寝よな~」母を寝間へ。


「うん」と、返事はしたものの。半時間後。


「おか~さん、おか~さん」母が寝間から這い出て来た。


「なんか、夢でも見たんか~」


「ゆめ、ちゃう、ねむたいねん、どうしよう、わかれへんねん、、、」と、途方に暮れた様子の母。そう言いながら、母は私の寝床で座り込んだ。


「ここで、寝るか?」私の問いかけに。


「うん、ねるわ」このまま、静かに寝てくれたら、と思いつつ。


「にいちゃん、おしっこ」おトイレの帰りに、そのまま、母の寝床へ連れて行く。


「ここで、ねたらええのん?」


「そうやで~ゆっくり休みや~」


「おか~さん、おか~さん、ねかしてー」と、この日、何度目かの母の声。この声を聞くたびに、私は「お袋ちゃん、可愛そうになー、変な病気やなー、心配せんでもえ~よ、僕がついてるからな~」と、心の中で呟くのである。



 「さびしいねん」徘徊、その(3)

2005/5/24(火) 午後 0:51

某月某日 母の連日の徘徊で、私は、ダウン寸前。会社でとうとう「寝とけや」と言われる始末だ。


「おか~さん、おか~さん」と母が四つん這いで例によって、私の寝床へやって来た。寝入り鼻と連日の寝不足で、私がなかなか目覚めない。と、母は私を起こしにかかる。布団を引っ張り、揺らし、顔を叩き始めるのだ。


「ちょっと、待って、お袋ちゃん、分かった、もう、起きたよ!」寝込みを襲われた私。


「わたしが、よんでんのに、なにしてんのん?」


「どうしたん?」と、母の顔を見る。


「おしっこやねん、どこにいったらえ~のん?」不安げそうな、母の顔。


「はいはい、行こか~」おトイレが終わり、母を寝床えへ、1時間と経たないうちに。


「おね~さん、おね~さん」と母の声。もう、2,3度起こされているので、眠りの浅い私は、母の声が直ぐ分かる。


「どうしたん?、寝られへんのんか?」母の居室へ。


「どうしょう、にいちゃん、わかれへんねん、わたし、おかしなったんかな~」と、言いながら起きようとする母を、、、。


「そんなことないよ~、はい、こっちで、寝よな!」と、しばらく、母の寝床の傍らで横になる私。


「な~んにも、心配することないで~」と、母の寝床で私が添い寝をする形。母が寝息を立てたのを聞き、なんの屈託もない母の寝顔を確かめて、私は自分の寝床へ。すると、半時間も経たないうちに。


「にいちゃん、にいちゃん、さびしいいねん」と、母の声が。私は、母を自分の寝床へ連れてきた。すでに、リビングのカーテンの隙間から、夜明けの陽差しが差し込んでいた。母と私は同じ寝床で、、、。




 「し(死)んでしまうかもわからんな~」徘徊、その(4)

2005/5/25(水) 午後 0:33

某月某日 日が昇ると、母はご機嫌で、日が沈むと、不安感を増すようだ。特に、就寝前は落ち着きが無くなり、不安になるようだ。


「おトイレ行って、もう、寝ましょうか?」と、母を促す。


「うん、そうやな~」


「明日また、学校(デイ施設)やから、はよ寝よな~」


「あした、がっこうか~、なにするんや?」


「明日はな~、お袋ちゃんの好きな、カラオケ大会やでー、歌好きやろ~」母は、ニッコリして。


「うん、スキやー!」


「良かったな、遅れんようにせななっ!」


「そうやな、にいちゃん、かしこいな~、え~ことゆ~わ!」


「僕が、ちゃんと、起こしたるから、ゆっくり寝ぇ~や!」


「はい、おやすみなさい」私も就寝。この後、2,3度おトイレへ。


「おね~さん、おね~さん」と、母が呼ぶ。


「また、おトイレか?、ちょっと今日は多いのんと違うか?、どうしたんや?」


「わかれへんねん、し(死)んでしまうかもわからんな~,,,」と、不安げな顔をする母。


「なに言うてんねんな~、心配ない!」(こう言う時はキッパリと言うのが最良だ)。この母の、全てを私は自然に受け止めるだけである。



 「ふっふ~ん、かわいいやろ~」徘徊、その(5)

2005/5/26(木) 午前 11:23

某月某日 認知症の介護の要諦は「会話」にあると、私は母から、教わった。そこから、笑顔を引き出すことが出来れば、どんな会話であろうと、かまわない。それで母と一緒に暮らすことができるのであればそれで良い。夜明け間近い、この日何度目かの徘徊。


「はいはい、行こな!」母をおトイレへ。


「にいちゃんのてぇ、つめたいなぁ~」


「そうか、お袋ちゃんのは暖かいで」


「ねむたいねん、どこいったらえ~のん?」


「もう直ぐや、すぐそこやからな!」


「はよしてぇ」


「はい、此処やで~」母を便座に座らせる。


「コシがな~、イタいねん、なんでやろう?」


「うん、お袋ちゃんの腰な、折れてしもうたんや、そやけど、寝る前に痛み止め飲んだから大丈夫やで~」


「そうかなー、ふっふ~ん」


「なにか、嬉しいのんか?」


「にいちゃん、え~フクきてるな、なんぼしたん?」


「これか~、00で、買うたんや、000円や、安いやろっ!」


「へ~え、そんなんで、うっとたんかいなー、わてのわ~」


「お袋ちゃんのはな、姉~ちゃんが、え~の買うてきたから、高いんとちがうかな~」


「ふふぅん、え~フクか?」


「うん、よ~似合うてるで!」


「ふっふ~ん、かわいいやろーっ!」


「うん、可愛いで~」便座に、ちん、とお座りの母を見上げながら真夜中の親子の会話である。



 「ごめんな~、にいちゃんばっかりさして~」徘徊、その(6)

2005/5/27(金) 午前 10:48

某月某日 「逆らわない」、「怒らない」、「大声を出さない(怒鳴らない)」、私は、この「三ない」を母の介護の基本としている。さらに、大切なのは、私が、何かをする時には「00してくるわな」、「00するわな」、「00しような」と、必ず声をかけるようにしていることだ。今宵も何度目かの母の声。


「おか~さん、おか~さん」


「どうした、寝られへんのんか?」


「ちがうねん、おかしぃ~、なってんねん」


「そんなことないよ、誰でも、歳いったら、なるんやから、何~んにも心配せんでえ~よっ!」


「そうか、にいちゃんも、はよ、ね~やっ!」


「うん、お袋ちゃんも寝よなっ!」


「どこでねるの~?」不安げな母の顔。


「こっちやで」


「ありがとう、よ~わかってんな」不安が一瞬にして消えた母の表情。


「お袋ちゃんのことやったら、何でもわかるよ!」


「かしこいな~、かぶしてっ!」


「かぶしたるから、風邪引いたらあかんで」掛け布団を、そ~っと。


「ごめんな~、にいちゃんばっかりにさして」(うん、え~顔してる、と安堵する私)。


「親子やんか、お袋ちゃん、当たり前やろう~!」


「そう、おもうてくれんのん、ありがとう」(育ててくれておー気にな~、お袋ちゃん!と私は何時も心の中で呟く)。私は、「三ない」を実践してから、母との絆が一層深まったと思っている。



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