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どんなことがあっても「認知症の母をそのまま受け止める」

「わたしをっ!、にんげんと、おもってないんやろーっ!」考えさせられる言葉、その(1)

2005/5/16(月) 午後 1:38

某月某日 先日の日曜日、親子二人きりで、のんびりだったが、夕食後に異変が。


「お袋ちゃん、シャワー浴びてくるわな~」


「あいよ、あびといでー」


「有り難うさん、直ぐ、浴びるからな~」


「ゆっくりで、え~よー」


「此処やで、ここで、シャワー浴びるさかいな~」と、私は浴室へ入るドアを開け放して、リビングで珍しく一人きりで、TVを見て笑っている母に声をかけた。


「うん、そんなとこかいなー」と、母がこちらを見て、手を振った。


「そうや、近いやろう、直ぐ、終わるからな!」と私は返事をした。母が私を探し出す時間の限界は5分くらいだ。手早く浴びて、頭の洗髪の時に顔を見せなければ。


「もう直ぐやで!」と、リビングの母に声をかけながら、シャワーを浴びる。


「あいよー」と母。頭の洗髪にとりかかり、終わりかけたとき、浴室のドア付近で。


「にいちゃん!、にいちゃん!」と母の声。あわてて、私は、真っ裸のまま、浴室から飛び出した。母がいつの間にか廊下へ出て、玄関の方に向かっている。


「お袋ちゃん、何してんのん、危ないやんか~、こけたら、どうすんのん!」私は裸で母を追う。


「こけへんわー!、あんた!、こんなとこで、なにしてんのん、はよ、こんかいなー!」


「シャワー浴びるで~て、言う~たやろ~な」


「しらん!、きいてへん!」


「お袋ちゃんな~、直ぐ、忘れるから~」(しまった、この言葉は禁句である)。


「きいてへんわーっ!、わたしを、にんげんとおもってないんやろーっ!」眉間にしわを寄せて怒る母。


「う~ん、、、、、、、、、、」(後の祭りだ)。母は、私の口調の、少しの変化も見逃さない。まだまだ精進が足りない。



 「わたしはなー!、にんげんやでっー!」考えさせられる言葉、その(2)

2005/5/17(火) 午後 0:32

某月某日 母はデイ施設から、タオル、バスタオル、お箸、コップ、パンツ、シャツなど、様々な物を取り違えて自分のバッグに仕舞い込んで帰ってくる。デイに持っていく物は殆ど、母の名前を書いてある。デイに通ってくる他の人達も、もちろん、名前が入っている。だから、取り違えると直ぐに分かる。今日も、デイの送迎バスから、満面の笑みを浮かべて。


「にいちゃんやーっ!!」と、手を振ってご機嫌よく帰ってきた。


「お帰りなさい」


「むかえに、きてくれたん、うれしいぃー!」


「しんどなかったか?」と、母の両手を握る。


「うう~ん、ぜーんぜん、しんどない」


「良かったな~」と、何時もの会話、そして直ぐに持ち物を改める。


「お袋ちゃん、これ、うちのと違うで~」


「そうか~、だれのんや?」


「00さん、て書いてあるで~」


「しらんわ~、そんなひと!」


「明日ヘルパーさんに言うて、返しとかなあかんな!」


「わたしのん、ちゃうのん?」


「ほ~ら、見てみぃ、ここに、00さん、て書いてあるやろう」


「ほんまやな、わたしのんと、ちゃうわ~」


「この、タオル、洗う~といてやらなあかんな!」


「そうしいぃ~」


「お袋ちゃんの名前はこれやからな!、もう、間違わんよ~に、せんとあかんで~」


「だれが、いれたん?、わたしは、しらんで~」


「お袋ちゃん、すぐ、忘れるからな~(しまったーっ、禁句を)、間違うて、入れてしもたんちゃうかな~」私は気づいて、トーンダウン。


「そんなこと、せーへん!、わたしはなー、にんげんやでー、わすれへんわーっ!」案の定母が怒りました。


「う~ん、、、、、、、、」(同じ間違いを何度繰り返して来たことか、お袋ちゃんご免な~)。母は一人の人間だ。



 「わたしのためにぃ~、な~、ありがとうございます」考えさせられる言葉、その(3)

2005/5/19(木) 午後 0:47

某月某日 この日は、宅配便が立て続けに2回届いた。マンション独特の無機質な「ピーンポーン」と鳴るチャイムに、母は未だに馴染めない。(私もだが)。


「ピーンポーン」1回め、この音を聞くと、、、。


「だれやっー!」と、声を荒げ不機嫌になる母。


「宅配便や」


「なんで、いまごろ、くるのん!」


「昼間は、僕らは、おらんときが、多いからな~」


「こんな、おそーからー、あほちゃうかーっ!」と、母はこのチャイムが鳴ると一変に、不機嫌になる。ときには。


「ほっときぃー!」と言うこともある。


「お袋ちゃん、00先生からや」


「00先生て、だれやのん?」


「うん、僕がお世話になってる剣術団体の先生や」


「なんの?せんせい、やてー?」


「そやからな~、武道の先生やんか、先生の奥さんから、手作りの食品を送ってきてくれはったんや」


「なんで~、そんなことするのん?」私が、所属している武道団体の会長だ。その方は、私が90うん歳の母と二人暮しを良くご存知なので、奥さんが、時折こうして、手作りのいろいろな料理を送って下さるのだ。私は全く料理が出来ない。ために、母には、お惣菜や時には恥ずかしながら、コンビニの弁当で夕飯を供することになる。そのコンビニ弁当を母が。


「おいしいわ、にいちゃん、つくったん、わたしが、やらなあかんのに、ごめんな~」と、私に言ってくれる、胸中複雑である。


「美味しいか~、良かった~」と、答えざるを得ない、我が心中は忸怩たる思いで一杯である。こうした生活は「阪神淡路大震災」で被災し、このマンションに移って来て以来、続いている。チャイムの音に対する母の反応もしかりだ。


「にいちゃん、ぶじゅつて、なんやの~?」


「ほら、僕が昔からやってる剣術やんか~」


「あ~、そうか~」と、その時、また、チャイムが鳴った。


「またやーっ!、だれやー、ならさんよーに、ゆーといてーなっ!」


「お袋ちゃん、妹の00からやで」


「00?、しらんでぇ~」


「お袋ちゃんの、子~やんか、母の日やからな~、カーネーションのお花、贈ってきてくれたんやで!」


「おハナか~みたいわー!」


「良かったな~、お袋ちゃんがな~何時までも、元気ですごせますように、ゆ~て、贈って来てくれたんやで~、後で、00に電話しとこなー!」


「わたしのために、なぁ~、ありがとうございます」ペコリとお辞儀する母。そして母は、テーブルに置いた妹からの贈り物に手を合わせる。母の感性は全てを分かっている、と私は確信している。



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