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何をやっても「怒らない」


  「わあ~ウレしい、おそなえしてくれんのん!」

 

 2005/4/18(月) 午後 1:15

某月某日 夕食後、母は、残したおかずを一生懸命、テーブルに広げたティシュの上に載せる作業を黙々と続けている。その真摯な作業態度を見ながら、母に声を掛けた。


「お袋ちゃん、もう食べへんのん?」


「もう~たべましたっ!」と、平然と言い放つ母。


「そやかて、まだ、残ってんで~」


「これは、おそなえするんやんか~」


「誰に、するん?」


「みんなにせなあかんのっ!」と、真顔で。


「お袋ちゃんの食べ残しを、お供えなんか、出来ひんのちゃうん?」(駄目もとで言ってます)。


「たべのこしーっ!、ちゃうでー、おそなえするために、こうてきたんやでー」口を尖らせ言う母。やっぱりだ。


「そやけど、それ、今、お袋ちゃんが、食べてたやつやで~」


「わたしは、これたべてへんっ!」


「今、食べとったやんか~」(消えるような私の声)。


「なにゆ~てんの、たべてへん!、これは、おそなえのやつやんかっ!」これ以上、母にあれこれ言うと必ず母に叱られる。ここからは、母の世界へ入り込む。


「もう~、その位でえ~のんちゃうか~」


「そうかな~」と、母が。


「仏さんも、そんなによ~け、食べられへんで」


「にいちゃん、そう、おもう?」


「うん、思うな~」


「そやけど、まだ、のこってるから、もうちょっとなっ!」母は上機嫌だ。


「あとは、僕が食べるから、その位いで、え~んちゃうかな」


「にいちゃんもたべたいの~?」


「うん、美味しいそうやから!」


「ほんだら、たべてえ~よ」


「食べるわ~、有難う!」


「ど~うぞ」と、母が、両手に持って、大切そうに差し出してくれた。


「さあ~、そしたら、お袋ちゃんが折角、一生懸命、お供え作ったから、親父の仏壇にお供えしとこな~」


「わあ~うれしい、おそなえしてくれんのん、やっぱり、にいちゃんはかしこいなー」と、母は満面の笑みを私に向けてくれる。私は、こうして母の世界に入って行くコツを少しずつ母から教わるのだ。



 

「わ~キレイな~」

2005/4/19(火) 午後 1:03

某月某日 朝食後、春風も暖かく、リビングのカーテンを一杯に開けた。ベランダに置いてある満開の花を、母が指差し。


「わ~キレイわー、にいちゃんみてみぃ、あこ~うてキレイでぇー」


「ほんまやな、綺麗に咲いたな~」


「だれがうえたん?」


「うん、お隣の00さんがくれはったんやでぇ」


「そうか~、もろたん、おれいゆ~たか?」


「言うたよ~」


「わたしもゆ~とかなあかんなっ!」


「うん、会~たらお礼ゆ~ときな!」


「うん、ゆ~とくわー!」


「さあ~お茶飲んで、学校デイサービス行く用意しようか?」


「おしっこ、いきたいねん」母をおトイレへ。トイレを済ませてリビングに戻ると。


「にいちゃんみてみぃ~、あかいハナさいてるわ~」と、母が。


「ほんまや、綺麗なあ」


「だれが、うえたん?」


「うん、あれはな、お隣の00さんが、くれはったんやで」


「あっ、そうかいな、しらんかった、いつもろたん?」


「去年やで~」


「おれいゆ~とかなあかんな~」


「00さんに会うたら、お袋ちゃんからもお礼言うてなっ!」


「わかった、ゆ~とくわ!」


「お袋ちゃん、見てみぃ、今日は、青天やで~」


「ほんまやな~、え~てんきや!」


「こないだ、桜も満開で綺麗やったで~」


「そ~かー、わたしもみたかったのにぃ」先日、母はデイサービスで、近くの公園の桜を見にお出かけしたばかりだ。


「お袋ちゃん、今度な~僕の休みのときに花見に行こか~」


「いくわ~、ハナみなんか、したことないから」


「もう直ぐ、学校に行く時間やで~」


「にいちゃん、みてみぃ~、あかいハナ、キレイにさいてるわ~」


「わ~ほんまやなっ!」デイの送迎バスがくるまで、この会話は終わらないのだ。母と私の共通の世界だ。



 「そんなこと、せーへんわっ!」お金、その(1)

2005/4/21(木) 午後 1:07

某月某日 会社に着いてしばらくしてから、母が通う老健施設(デイサービス施設)から電話があった。母に何かが(私、小心者ですが覚悟だけはしております)。


「00さんですか!?。お母さんのトートバッグからお給料袋が出てきましたので、お預かりしています」


「えっ!、給料袋ですか?」


「はい、0000さんと書いてあります。間違いございませんか?」


「はい、間違いありません。私の先月の給料です」


「00さん、こう~言うの困ります。万が一と言うことがありますので、施設には必要なモノ以外、まして、現金等は絶対に持ってこないようにお願いしますね!」


「はあ~、申し訳ありません。今度から注意します」(良かったー、金かー、小心者はこれやからあかん、と心中の私が言っている)。


我が家では、給料日にお給料を袋ごと、親父の仏壇に、お供えする慣習がある。先日、その慣習で仏壇に供えたばかりだった。


仕事を終え、急いで帰宅し、仏壇を見た。やっぱり、お供えしていた、給料袋がない。お供えした給料袋を2~3日そのままにしておくことは、まま、よくあることなので、気にもしなかった。仏壇は、母の居室にある。その晩、母に。


「お袋ちゃん、あんな~、給料は学校へ持って行ったらあかんで~、給料もそやけど、お金もあかんねんで~、分かった~」


「きゅうりょうなんか、もっていってへんで、なにを、ゆ~てんねんな」(アホかーと言わんばかり)の母の顔。


「今日な~、学校から僕に電話があってな~、お袋ちゃんの鞄に、給料袋が入ってたんやてぇ」


「あんたが、いれたんか~」


「いや、僕は入れてへんけどな~」


「ほんだら、だれやろなっ」と、小首を傾げ、母が言う。このぐらい人間余裕が欲しいものだ。(お袋ちゃんのほうが、腹座っとるわ)。


「お袋ちゃん、ティシュに包んで、何でも入れるやろ~、入れて忘れたん違うかな~」


「そんなこと、せーへんわっ!」(済んだことを、何をグタグタ言うてんねん!)と、言わんばかりの顔をしている。毎日、気をつけているつもりだが、マンネリの落とし穴、母はお金の区別をするような、そんな俗世とは無縁の人であることを、うかりとした、私の失態だ。



 「わーっ!叔父さんこんなとこにもあったわー!」お金、その(2)

2005/4/22(金) 午後 1:00

某月某日 昨日給料日とボーナスの支給日であった。母にそれらを見せ。


「お袋ちゃん、今日はな~、ボーナスも出たんやでぇ、これや、見てみっ!」


「わー!、ほんとう、にいちゃん、がんばったからなっ!」母も笑顔を見せる。


「お供えしとくわな!」


「うん、ちゃんと、しときや~」翌日、何気なく仏壇を見ると、ボーナス袋がない。


「お袋ちゃん、仏壇に、お供えしたボーナスしらんか~」


「しらんよ~、どうしたん?ないんか~」


「うん、昨日、お供えしたんやけど、あれへんねん」


「ふ~ん、どないしたんやろな~」午後、姪が、夕食の用意とお掃除に来てくれた。私は、母の居室に入り、箪笥、衣装ケースや仏壇の小抽出し、などを捜し始めた。


「叔父さん何してんっ!」と、母の居室をうろつく私を見とがめて、姪が。


「うん、ボーナスがな、失くなってん」


「わー、えらいこっちゃんかー」と、姪が大声を挙げる。


「00(姪)も、ちょっと探すの手伝うて~や」と、姪に声をかけ。


「分かった、え~とお婆ちゃんの手の届く範囲やから~」と、姪も心得ている。こうして、姪と二人で、母の居室を探すことおよそ半時間。


「ど~や、00見つかったかー!」と、姪に声を掛けた。


「見てみぃー叔父さんこれだけあったでぇ~」と、姪がティシュの束を4~5個私に差し出した。


「一つ一つちょっと開けてみぃ」


「分かった、ひやーっ、叔父さん、00万円もあったわっ!」


「僕も、これだけあったわ」


「叔父さん、まだあるでー!」と、姪はなんだか面白そうに。


「そうやな、もうちょっとあるはずやから~」私と姪のやり取りや、不審?、な行動に母は面白くないのか、ちょっとヘソを曲げたらしい様子で。


「なにしてんのっ!、ふたりでー、ゴソゴソとー!」案の定だ。


「うん、お袋ちゃんは心配せんでもえ~よ、ちょっと探しものしてんねん」


「なに、さがしてんの~?」


「大事なもんや~」


「わたしもさがそうか~」と、母が。


「え~よ、もうだいたい見つかったから、00(姪)に手伝うてもろたから大丈夫やっ!」


「そうか、それやったら、え~えけどなっ!」と悠然としている母。その母に、夕飯を出さなければならない時間だ。また、あとで探そうか、と思ったその時。


「わーっ!叔父さんこんなとこにもあったわー!」と姪が感心したような甲高い声をあげた。その場所は、母の敷き布団の下であった。

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