親子の絆(3)
「くるしいねん、どないなったん、にいちゃん、たすけてー、」母の日常、その(90)
2006/1/11(水) 午後 0:44
某月某日 母には、慢性気管支炎の持病がある。この時期は、特に気をつけてはいるのだが。
「こっほん、こっほん、こっほん!」午後9時半ごろ、母は就寝したのだが。11時過ぎ頃に、母が軽く咳をする声が聞こえた。私の頭に不安が過ぎる。
「お袋ちゃん、大丈夫か~?」と、声をかけた。
「こっほん、こっほん、にいちゃんか~、せきがでんねん、なんでやろ~?」声も弱々しい。
「ちょっと、待っときやっ!」と私は、慌てて、飛び起き、母の寝床へ。
「くるしいぃ~、にいちゃ~ん、くるしいぃ~、こっほん、こっほん、うえぇっー」
「ちょっと、起きよっ、なっ!寝てたら、喉につかえるからな~」
「さぶいぃ、こっほん、こっほん、ぐえぇー、ぐえぇー、のどいたいぃ~!」私は、先日処方された、咳止めの薬を取りに。とって返して、直ぐ母にお湯を用意し、飲ませた。
「心配せんでえ~よ、これで楽になるからな~」
「にぃちゃん、ほんまかぁ~?、こっほん、こっほん、のどいたいぃ~、たすけてぇ~!」
私は(本当は、何もできないくせに)と、思い乍。
「大丈夫やっ!、僕が助けたるから、心配せんでえ~よ!」と何度も繰り返し言いながら、母の背中をさする。発作は薬が少しは効いたのか、ようやく治まった。母を寝かせ、私はしばらく母の傍らで、添い寝した。軽い寝息を母がたてたので、一安心と思い、私も自分の寝床へ戻った。ところが。
「ぐえー、ぐえー,こっほん、こっほん!!」と、再び母の発作が。
「お袋ちゃん!、お袋ちゃん!、大丈夫かーっ?」時計は、午前4時を回っていた。
「くるしいねん、どないなったん、にいちゃん、たすけてぇー!」と青息吐息の母の弱々しい声。私は、ただただ。
「僕が付いてるから、心配せんでえー!、僕が助けたるからなーっ!」と何度も何度も繰り返すだけ、母の体を抱いて毛布に二人してくるまった。(代われるモノなら、と何度思ったことか)。
「そらそや!、わてのこやからっ!」母の日常、その(91)
2006/1/12(木) 午後 0:57
某月某日 昨日、母は久しぶりに快眠したようで、朝から機嫌が良い。寒さ疲れもあったのか。
「おはようございます」と、母が朝の挨拶をしてくれる。
「おはようさん、よう寝たな~、お袋ちゃん」
「そうかな~、にいちゃんは?」
「うん、僕もなっ、よ~寝たわ~」
「なにしてるん?」
「ご飯、つくってんねんやん」
「にいちゃんがか~?、にいちゃんばっかりさせて~、ごめんな~」母が、カーペットに、こすりつけるように頭を下げる。
「何ゆ~てるん、当たり前やんか、もう出来たよう、食べよう、食べよう、なっ!」
「ありがとうございます、わー!、これ、おいしいぃ」ぱ~っと、母の笑顔が広がる。
「熱いから、気いつけや~!」母は、スープに口をつけ、いつもより、多めに飲んでいる。
「これ、だれがつくったん?おいしいわ~」
「うん、誰でも出来るねん、僕がつくったんや~」(嘘である、私が作れる分けがない)。
「へぇ~、にいちゃんがか、どこでこ~たん?」(そんなことは、たぶん母は見破っているのだ)。何度か同じ会話を繰り返す。母が朝食に夢中になっている間に、私は素早く着替へに自室へ。着替へを終えて、母の前で。
「どうや、お袋ちゃん、え~服やろーっ!」と。
「あらっ!、どうしたん?え~わ、それっ!」と母。
「この前、買~てきたんや、似合うやろ~!」
「そらそ~や、わてのこやから!」私と母が、親子であることを、母はちゃんと、認識しているのだ。数年前、ある精神科医の偉い先生が、母の頭の検査写真を見ながら、縷々説明し「近々貴方のことも(母が)解らなくなるでしょう」と断言された、ことを私は、ふと思いだした。(お袋ちゃん、まだ大丈夫やな~、良かった~)。
「しらん!、だれやあんたーわっ、!」母の日常、その(92)
2006/1/17(火) 午後 0:36
某月某日 母の、今朝の目覚めは、さわやかだったが、朝食後の薬を飲ませた頃から、少しご機嫌が悪くなってきた「まずいな~、もう直ぐデイの送迎車が来るし」と、私は案じながら「いけへん」と言われないように、何とか学校(デイ施設のことを、母はこう呼んでいる)へ行く準備を、母には気づかれないように始めた。
「なにしてるんや?」と、目敏い母が。
「うん、ちょっとな~、、、片づけてんねん」と、誤魔化す。
「いまごろかー!」(見破られているが)。
「やっぱり、ほら~、綺麗にしとかんとな~、あかんやろ~?」と、嘘をつく。
「わて!、ほったらかしかーっ!」
「お袋ちゃんは、今日、学校やんか~」
「がっこう!、しんどいから、いけへんわーっ!」その後も、母と私が、トンチンカンな会話を何度か繰り返しているうちに、デイの送迎バスがやって来た。
「お袋ちゃん、今日は歌をな~、唄うだけや、な~、唄うたら、すぐ帰ってこう、な~」
とか何とか、言いながら、不満気そうな母を身支度させ玄関へ。
「どこつれていくきぃやー!」
「学校やんか~」
「しんどい、いけへん!」エレベーターで階下に降りる。すでに、施設のヘルパーさんが(今朝は、新人らしい人だ)手を振って待ってくれている。
「00さ~ん、おはよう御座います」
「だれや!、わてしってんのんかー!」そのヘルパーさんを、母が睨みつける。
「知ってますよ~、0000さんでしょう~」そんな母を、するりと交わす。
「ちがうわー!、あほかーっ!」不機嫌そのものだ。
「えらい、ご機嫌斜めですねぇ、今日は」と、やんわり受け止める。
「しらん!、だれやあんたわっ!」と母。新人のヘルパーさんが、目を丸くする。
「はあ、ちょっと、失敗しましてん」と私。
「なにがやー!」と母。聞こえている。地獄耳だ。何とか、バスに乗り込ませたが。
「あんたもこんかいなー、!なにしてんのん!」と、座席に座った母が、私を怒鳴りながら手招きする。
「後から、行くからな~、先に行っといてな~」
「こんかぁー!、あほーっ!」と、怒鳴る母の声を残して、バスが発車。
「お袋ちゃん、皆んなと、仲良う、しい~や」と、私は、心の中で呟いた。
PS 今日1月17日は「阪神淡路大震災」から11年目を迎えました。母と私も、この震災で家を失くしました。黙祷。