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「今」を生きる



  「いけへん、ゆーてるやろ!、あほ、どついたろかー!」母の日常、その(70)


2005/12/6(火) 午後 0:30

某月某日 季節の変わり目は、母の言動や行動などの様子でよく分かる。人間とはたいしたものだ。朝8時前、そろそろ、母を起こさねば。


「お袋ちゃん、もう、起きよ~か?」


「う~ん、もうちよっと」


「朝ご飯できてるで、熱いスープ、冷めんうちにな~」と、私は声をかけながら、母の掛け布団をそ~っと、めくった。


「なにするのん、さぶいやんかー!」


「そやけど、もう起きな~、学校(デイ施設のこと)行かな、あかんしぃ」


「もう、ちょっとしたら、おきるっ、さぶい、ゆーてるやろー!」


「分かった、もう、ちょっとなっ」8時半だ。9時過ぎには、デイの送迎バスが来る。


「お袋ちゃん、もう起きな~、学校、間に合わんでぇ、なあ起きよ~」


「なにすんの~、もう、さぶい、ゆーてるやろー、なにが、がっこうやっ、いけへん!」


「怒りなや~、熱いスープ冷めたら美味しいないで~、なっ、ほ~ら、ゆっくり」と、起こそうと、母の手を私が触ると。


「痛っ!、痛いなあ、もう~、何すんのんな~、叩かんでもえ~やろ」(ま~、よくあることなので)。


「つめたいっ!、あんたの、てぇ、つめたいやんかー、あほっー!、じぶんで、おきるわー!」


「はい、はい、ほな、自分で、起きてやっ!」


「あんた、あほかー!、さぶいのにぃー!」


「ご飯な、冷めたら、美味しい~ないやろ~、熱いお湯で顔洗う~たら、気持ちえ~よ、なっ!」


「なにが、きもちえ~よーや!、あほかっー!」と、母は唇を突きだして、私に答える。それでも、観念したのか、四つん這いになって、布団から這い出してきた。


「こっちやで、ゆっくりね~、学校行こうな~」


「いけへん、ゆーてるやろ!、あほっ!、どついたろかっー!」

おぉー怖っ。(因みに、母は寅年生まれです。私は、ネズミ年)。





   「ちゃんと、してちょうだいな~、おねがいします」母の日常、その(71)


2005/12/8(木) 午前 9:33

某月某日 母と私はやはり親子である。(当たり前の事なのだが、恥ずかしながら、それに気付いたのは、母が認知症になってからだ。それ以前は、自分一人で大きくなったような顔をしておりました)。


「おか~さ~ん、おか~さん、だれかっ、おらんのんか~?」母が、どうやら、お目覚めのようだ。


「うん、起きたよ、もう、起きるんか~?」午前7時半頃だ。


「あんただれやのん?ね~ちゃんか~?」と、真顔で私を見る。


「僕やんか?00やで」


「あぁ、にいちゃんか~、なにしてんのん?」


「いま、朝のご飯の用意してるねん、もう直ぐ出来るよ~」


「ありがとう、そんなことまで、あんた、してくれるん?」


「用意出来たら、起こしたるからな~、もうちょっと、寝ててえ~よ」


「うれしい、ほんま、そうさして、もらいます、ごめんな~、わてが、せなあかんのにぃ」


「今日は、学校(デイ施設)休みやから、ゆっくりしたらえ~やんか」


「へぇ、きょう、やすみかいな~、しらんかった~、なにも、ゆ~てくれへんから」


「寒ないか~?」


「お~きに、さぶないわ!」朝食の支度をほぼ終えたころ。母が寝床から四つん這いになって、這い出して来てリビングに顔を出した。


「あ~あっ、そんな格好で、風邪引くやんか~」と私は、慌てて、近寄った。寝起きの身なりだ。


「ちゃんと、してちょうだいな、おねがいします」と、母は私にペコリとお辞儀をするのだ。(母は何もかもちゃ~んと解っているのだ)。





   「なんでもさせて~、わてがせんならんのに、ごめんな~!」母の日常、その(72)


2005/12/9(金) 午後 0:26

某月某日 最近の母は比較的落ち着いてきた。夜中の徘徊がない日も珍しくなくなった。生活のリズムが良くなって来たのだろうか。それとも朝晩冷え込むからか。


「ねるっ!」と、母が一言。


「うん、分かった、お布団敷くから、ちょっと待ってなっ」


「はよして~な!、ねむたいねん」


「直ぐ出きるよ~」午後10時前、座椅子で気持ちよさそうに「うつらうつら」していたが我慢できなくなったらしい。


「お袋ちゃん、おしっこ、行っとこか~?」


「あいよ」


「はい、此処やで~」


「こんなとこやったん?せまいな、しらんかった~」


「はい、此処に、座ろ~うな」母をゆっくり便座へ座らせる。


「にいちゃん、ハー、どないしたん?」


「うん、これか?、鬼歯やねん、格好悪いけど治らんねんて!」


「ふ~ん、あかんのかいな~、あぁおしっこ、でた~、ふっふ~ん」笑顔を見せる母。


「ほんまや!元気な証拠やで!、良かったなっ」トイレを済ませ、洗面を済まし、母を寝床へ。


「お休みなさい」と声をかけ、私はキッチンで食器を片付けに。


「にいちゃん、なにしてんのん?がしゃがしゃ、うるさい」


「うん、洗いもん、片づけてんねんやんか~、お袋ちゃん、音に敏感やからな~」


「そうか~、なんでもさせて、わてがせんならんのに、ごめんな~」と母が寝床から。


「ちょっとしかない、直ぐ終わる、ゆっくり寝~や」


「あいよ」この日は、夜中に二度ほど、トイレに行っただけで、徘徊は無かった。


「何日ぶりかな~、こんな日は」もう、私の記憶も定かではない。





   「ぷふっー、ふぁーっふわー、」母の日常、その(73)


2005/12/12(月) 午前 11:28

某月某日 先月末に脳梗塞で倒れた義兄が先週無事に退院した。幸い軽い脳梗塞で、一安心だ。母との生活は、どんな、環境になろうと、極力、リズムを崩さず平静を保つことにしている。今日は。


「もう食べたんか?え~か~」


「うん、たべたわ~!」満面の笑みだ。何故か母は上機嫌である。


「んじゃ~片付けるよ~、お薬飲もか~、風邪引い~たら大変やからな!」


「にいちゃん、のみ、わて、そんなん、いらんわ~!」


「僕は、もう、飲んだよ~、お袋ちゃんも飲んどかな、なっ」コップにお湯を入れ、何時ものように、卓上にお薬を広げ、一粒づつ、母の口元へ。


「むむむっ、、、、、、、」と母は嫌々しながら、口を噤んで飲もうとしない。


「何してんのん?ふざけたら、あかんやろ~、飲まな~」


「けったろかー!」と母。言葉とは、裏腹にどちらも笑顔なのである。


「学校(デイ施設)行かなあかんねんから、早よ、飲もうな~」


「いけんへんわ~、いらん!」


「いらんて、風邪引い~たら、どうするん?」


「ひけへんわ~」


「今日な~、雪降るかもしれんぐらい、寒いねんで、な~、そやから、飲んどこ~な~」


「さむない!、」と、その時。


「痛いっ!、何すんねんな~、もう」一発、私は、母に頭をどつかれた。誠に的確なパンチである。


「薬、落ちるやんか、もう、飲めへんのんか~、知らんよう~」


「はぁ~はっはっは~、にいちゃんのかお、おもしろい、ハーがおかしいぃ」


「そうか~、可笑しいか~、分かったから、これだけでも、飲んどこなっ?」一番、小さい薬を選んで、母の口元へ。


「ぷふっー、ふぁーっふわー、」と、いったん、飲んだ薬をお湯ごと、母が吐き出した。


「うわっー!」と私。顔面でそれらを全部受け止めた。今朝は、これ以上、母に薬を飲ませるのはどうやら、無理のようだ(あのパンチで今日は僕の負けやったかー)。仕方なし。学校で昼食の時にヘルパーさんに、飲ませてもらうように、お頼みしなければならない。私は、連絡帳に、その旨記載した。




   「あんたよそのひとや~、あんたおり~、わてかえるからー!」母の日常、その(74)


2005/12/13(火) 午後 1:45

某月某日 認知症は「辛く悲しい」。介護者が見ていて、そう思うのだから、本人はもっと「苦しいはず」だと思う。心底「泣けて」くる時がある。この日も。


「もう、かえろ~か?」と母が。この言葉が、母の認知症の「苦悩」のサインだと私は思い始めている。


「うん、、、」慌てず、騒がず、さりげなく交わさなければならない。


「かえる~、ゆーてんねんっ!、」私の思惑は、既に母に看破されているのだが。


「今日は、もう遅いから、明日、帰ったら?」と、取りあえずは、言ってみる。


「なんでや~、もうな、わたし、かえりたいねん!」完璧に見破られているのだが。


「お袋ちゃん、なあ~、もう、9時(午後)回ってるし、遅いから、明日帰ろ~なあ?」


「みんな、まってるから、かえらな、あかんねん、、、おか~さんやらなー!」と、母の攻勢(母の不安感が高まってきたのだ)が始まる。


「うん、分かるけど~、明日学校(デイ施設)行かなあかんしい、ここで、僕と一緒に泊まろ~や」その不安感を、どうすれば取り除いてやれるか。私は慎重に言葉を選ぶのだ。


「がっこう!、だれがっー、しらんでー!」と母。


「うん、今日はな~、日曜日で学校休みやからな~、明日は月曜日やから、学校行かなあかんやんか~」柳の木になる私。


「きょうは、にちようびか?、しらんでぇ」少し、母の声が変わった。


「うん、お袋ちゃん、忘れたかもしらんけどなっ、今日は日曜で休んだんやん」


「しらん、かえりたいねん、かえらして~」と母。


「そやからな、明日、僕と一緒に帰えろう、もう、遅いから、今日はここに泊まろう~な」


「なんで、あんたと、とまらなあかんのん、かえるわー」


「親子やんか~、一緒に明日帰ろ~、なっ!」


「おやコー!、しらんでー、あんたよそのひとやーっ、あんたおりー、わてかえるからー!」

と、母がだんだん、激昂してきた。一気呵成にだ。ここは、出来るだけ、静かな口調で、母を不安から解放してやらねばならない。柳の木に徹するのだ。母が自然に眠くなるまで会話を続けた。



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