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認知症の介護は、毎日が臨機応変



  「あんたーっ!、よそからきたんやろー、しらんまにっ!」母の日常、その(55)


2005/11/15(火) 午後 0:22

某月某日 母の世界は、過去との交錯もまじるのだが、いま、母が「見たもの、聞いたこと」が中心である。数秒経つと、それは、二度と戻らない過去になる可能性が大きいが、毎日会話することで、何とかなるような気がするのは私だけか。


「あのひとな~、こっちばっかり、みとんねん、なっ、にいちゃん、なんでや?」


「あれな~、外人さんや、コマーシャルやんか~、お袋ちゃんのこと、えらい、お婆さんが見てるな~、思うて、見てんのんちゃうか~」と、私が冗談めかしに言うと。


「そうかぁ、わてそんな、としかな~?」と、母が小首を傾げる。


「そらそ~や、90超えてんねんから、珍しい思うてんのちゃうかな~?」


「わて、90う!?、そんなことないわー、そんななってへん!」


「ほんだら、お袋ちゃん、いま、幾つになったんや?」


「う~ん、、、60なんぼやったおもうけどな~、ちゃうかな~?」


「わあー、僕がそのくらいやで~、あんたの、息子がやで~」


「はぁはっ~は~ん、あんた!、わてのコーかーっ!」


「そうやで~」と母を見る。


「しらん!、わて、うんだおぼえないっ!」と、キッパリ言う母。


「ほんだら、僕は誰が産んだん?」


「あんたーっ!、よそからきたんやろー、しらんまにっ!」この受け答えが絶妙である。私は何時も感心するのだ。


「う~ん、、、そうかもね~」これ以上、この話を続けると、決まって母は怒りだす、ここはかわして、他の話題に変えるのが上策である。こうした会話は周期的にある。





   「しらん、わてしてへんかったっ!」母の日常、その(56)


2005/11/16(水) 午後 0:33

某月某日 母は自由奔放になったのだ。喜怒哀楽をセーブしたりはしないし、まして、誰かに自分を偽って、気を遣うなどと言うことはしない(その代償が、母にとって辛い、認知症と言う病であることを、私は忘れてはいない)。そんな母にとって「いま」とは「昔」のことなのである。


「もう食べたんか~?」母がお箸をゆっくり座卓へ置いた。


「うん、もう、いらん」


「ちょっと残ってるけど、え~んかな~?」


「いらん、あんた、たべぇ!」


「うん、僕は、もう食べたよ~、ほらっ」と母に、綺麗にたいらげた、シチュウのお皿を見せた。


「わーっ、ほんまや!、あんたよ~け、たべたな~、これもたべぇ」


「もう、いらんわ~、お腹一杯や~」と、その時、私は、嫌な予感がした。


「お袋ちゃん、ちょっと、い~ん、してみぃ~」案の定、母の下の入れ歯が無い。(しまった)駄目もとで、母に。


「入れ歯、どうしたん?、お袋ちゃん」


「イレバか~?、ハ~か?、い~ん、あるやんか~」と、上の歯を見せる。


「ちゃうやん、下の入れ歯や、それ、上の入れ歯やで~」


「しらん、わてしてへんかった!ー」と母が平然と、お答えあそばす。これ以上追求するとややこしくなる。さあ、探し始めること、20、30分。なにせ、母はこれまでに下の入れ歯を4つも失くしているので、私も必死だ。マンションの1階にある、ゴミ置き場で見つけた実績?、もある。母の部屋から、トイレ、洗面所、リビング、そして、最後はダストシュート。


「あったっ!!、」と、私は、思わず大声を上げた。キッチンのゴミ箱の中からティシュぺーパーに幾重にもくるまれた入れ歯が!。そして、母を見た。


「なにをバタバタしとんねん、あほかー!」と、言わんばかりに平然とすましておられるのだ。(俗世はしんどいわ~、お袋ちゃん、と、私は心の中で母に言う)。






   「ほったらかしてっ!、どこいってたん、あほっ!」母の日常、その(57)


2005/11/17(木) 午後 1:04

某月某日 「不安感」が招く「寂しさ」が、母の「病」の特徴である。それをちゃんと理解出来ない「人(私)」に対して、母は。


「にいちゃん、なんか、たべたい、なんか、ないのん?」


「何がえ~のん、カステラか?、プリンみたいなもんか?」


「プリン、たべたいぃ」母が笑顔で答える。


「ほんだら、買~て来たるから、ちょっと、待っててくれるか?」


「わぁ~うれしい、こ~てきてくれるん、にいちゃん、かしこいな~」


「待っといてやあ、直ぐ、買~てくるからな~」と、私は急いで、自宅マンションから自転車で3分くらいのコンビニへ。この間約5分。


「ただ今~、お袋ちゃん、買~てきたよ~」と、玄関のドアを開けながら、声をかけたが返事がない。


「お袋ちゃん!、お袋ちゃ~ん!!」不吉な予感。3LDKのマンションだ。母がいないのに気づくのに1分とかからない。その時、玄関にいつも置いてある、母の外出時に使用する手押し車が無いことに気づいた。まさか、と、思いつつ外の廊下へ飛び出した。


「お袋ちゃーん!、お袋ちゃーん!、どこ行ったんやーっ!」と大声で探す。その時、お隣の00さんの玄関のドアが開けられた。


「00さん、こっちよ~」と、00さんの奥さんが。玄関越しに00さん宅を覗き込むと、母がニコニコしながら、座っている。私は、安堵し力が抜けた。


「お袋ちゃん、何してんのん?」


「ほったらかしてぇ、どこいってたん、あほっ!」母にとっては、数分も数時間も同じだ。

00さんに事情を聞くと、母は私の名を呼びながら、廊下をいったりきたりしていたらしいのだ。00さん、有り難う御座いました。(介護用語で「見守り介護」と言う、体力、気力がいる、たいへんなお仕事なのだ)。





   「いけへんゆーてんのに、どついたろかっー!」母の日常、その(58)


2005/11/18(金) 午後 0:21

某月某日 「いつまでもあると思うな、親と金」。昭和48年に親父が他界し、以後、母と私は一緒に暮らしてきた。私は、長男である。その時から、この家を守るのは「私」と決めていた。


「お袋ちゃん、もう起きな、あかんやろ~?」


「もう、ちょっと」


「今日は、学校(デイ施設)やで~、行かなあかんやんか、もう8時回ってるでぇ」午前9時半頃にデイの送迎車が来るのだ。


「もう、ちょっとやねん、ねむたいから~」


「ほら~、熱いお湯で顔洗う~たら、気持ちえ~で」と言いながら、私は母の布団に手をかけた。


「なにすんのん、もう、さぶいやんか~、ねむたい、ゆーてるやろっー!」


「学校いけへんのんか~?、もう起きな、間に合えへんで~」


「しらん、いけへんねん、あんた、いっといでー!」


「僕は、仕事やんか~、学校はお袋ちゃんが、行くとこやんか~、な~起きよう」と、掛け布団をあげようとした、その時。


「イタッ!、なにすんのん!」と私は思わず声を上げた。母が、私の頭を叩きはじめたのである。(私はこれでも剣術師範だが、母の一撃すらかわせない程度だ、たいしたことはない)。


「さぶい、ゆーてるやろっー!、むこういきっ!、ねてんのにぃ!」


「殴らんでもえ~やろ~」全く私は、スキだらけだ。


「いけへん!ゆーてんのに、どついたろかっー!」


「あーっ怖っ!、知らんで~」と、引き下がるほかない私。(我ながら情けないわ)。

まあー、母が「おしっこ!」と、言うまで、待つしかないのだ。





   「あっーほーっ、しらん!、くそったれ!!」母の日常、その(59)


2005/11/21(月) 午後 1:11

某月某日 一気に季節が進んだ。母の言葉の一つ一つにも、それが、感じられる。


「べぇ~、ぶ~、だっ!」母が食事に飽きて遊んでいる。


「スープ冷めるで~、早よ、食べな~」と、促すが。素知らぬ顔をする母。


「べぇ~、ぶ~、やない、遊んでんと、食べなあかんで~」


「いらん、あほーっ、さぶいゆーてるやろー」母には三枚重ね着させている。それに、今日からコタツも入れたのだが。


「まだ、上から着るんかいな~」着膨れしている母上。


「ぶ~、ぶ~、ばーっ、だ!」面白がって、遊ぶ母。ちょっと厚手の毛糸のカーデガンを、もう一枚着せることにした。


「いたいっ、ちゃんと、しんかいな~」三枚の上から、カーデガンをさらに上から着せるものだから、袖口がなかなか通らない。


「これ以上、無理ちゃうかな~?まだ、寒いんかあ?」


「イタイッ!、ゆーてるやろー!」と、言葉と同時に母の右手が。


「痛っ!、どつかんでも、え~やろう」私の頭をその右手で素早くポカリ。その後も着せ終わるまで、今度は両手でポカリ、ポカリと叩き続ける。


「痛い、痛い、分かった、わかった、ちょっと待ってぇ~な~」母の両手をとりあえず制する。


「ぶぅー、べ~だ、あほーがーっ!」遊びの続きなのだ。


「美味しいで~、ちょっ飲んでみ~や、なっ」と、スプーンで母の口元へスープを一口運んだ。母は、素直に口を開け。


「あっつ~い!」と仰る。


「なあ~、熱う~て、美味しいやろ、どうしたん?今日は、お腹すいたやろ~?」


「すいてない、いらん、あんたたべー、ぶっー、だっ」


「それ、もう一口飲んでみぃ」と、私が、スープを口へ運んだ時。


「ぷーふーっ!、ぷーふーっ!ぷっふあぁーっ」とスープを吐き出し、吹き飛ばした。


「何すんねんな~、食べもん、そんなことしたら、あかんやろ~」


「あっーほーっ、しらん!、くそったれ!!」どうやら、持久戦になりそうである。私のワイシャツからスープが滴り落ちた。





   「そらそ~や、わてが、うんだコーやもん、わかってるわいなー!」母の日常、その(60)


2005/11/22(火) 午後 0:26

某月某日 母は、時々だが、テレビに夢中になることがある。この日の夕方も。


「だれやこれ?」TV画面を見ながら、顎で母が聞く(横着なのではない、鷹揚なのだ)。


「うん、00の人やで~(大阪の若手の漫才師?)」


「なにゆ~てるん?」


「う~ん、ああ、漫才してはるんや~」


「わからんねん?なにゆ~てるか?、にいちゃん、わかるか~?」


「うん、話してることは分かるけど、笑えんな~(確かに早口だし、最近の若者言葉の連発で私にも、どう面白いのかは分からない)」


「そうやろ~、わても、おかしないわ~、ほか、しぃ!」母が、チャンネルを変えろと言う。


「変えよか?、何見たいのん?00のドラマでもしょうか?」


「うれしいぃ、それ、みるぅ」時代劇だ。


「ここどこや~?」


「うん、九州の八女やて~、八女茶で有名なとこやで~」


「やめちゃ?、て、なんや~?」


「お茶やんか~、ここのお茶美味しいんやでぇ」


「ふ~ん、おちゃかいな~、にいちゃん、かしこいなぁ、よう、しってるな~」


「そら、お袋ちゃんの子供やから、頭悪ないでぇ」(学校の成績と、頭が良い、悪いは関係ない、と昔大学のえらーい精神分析学の先生が言っていたのを思い出して)。


「ほんま~?かしこいのん、ふふ~ん」(私の学業成績など、母はちゃんと分かっているのだ)。


「お袋ちゃんわな~、四人の子供を苦労して、育ててくれたんやで~、ほーら、僕もこんな~、大きなったやろ~」と私は、立ち上がり。


「ガッツポーズ」をして見せた。


「わ~っ、あんた、そんなおおきかったんかー、しらんかったーっ」


「親父、はよ~、亡くなったから、お袋ちゃん、苦労したもんな~、僕ら産んで大学まで出してくれてな~、よ~覚えてるやろ~」


「そらそ~や、わてが、うんだコ~やもん、わかってるわいなー!」私は、繰り返し、母がこの「言葉」を思い出すように、同じ会話を持ち出すのだ(意図的でずるいかな~とは思うのだが)。



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