その場をしのぐ介護術
「ねんね、する!」母の日常、その(47)
2005/10/31(月) 午後 0:57
某月某日 心底、守らなければならないものを「持っている」人は、強い、とするのが、私の哲学だ。母がうとうとと、気持ちよさそうにしている。
「お袋ちゃん、もう、寝よか~?」そ~っと声を掛けた。
「うん、ふふ~ん、ねむたかってん」と母が。
「風邪引いたらあかんから、もう寝よか~?」
「にいちゃん、そう、おもう?」
「うん、ちょっと寒なってきたから、そんなとこで、寝たら風邪引くわ~」
「そぅ~やねん、さぶいねん」
「なあ、ほんだら、おしっこして、寝よな~」
「うん、そうする」母をおトイレへ連れていき、顔や歯を洗って母の和室へ、お布団はすでに敷いてある。
「にいちゃんわ、どこで、ねんの~?」
「うん、隣で寝るから、なあ~」もう、半分、寝ている母。掛け布団をしっかりかけて。私が隣のリビングへ戻ると。
「ねんね、するぅ~!」と母の呟くような声がした。
「はい、お休みなさい」と返事をしながら、私は、母の寝顔を覗いた。
「え~顔してるな~」(親父の分まで長生きしてな~)と、何時も思う。
「あんたが、わるいねん、わかってんのかー!」母の日常、その(48)
2005/11/2(水) 午後 0:37
某月某日 認知症の方は、時々刻々、行動や言動が変化する。母もそうだ。私の理解出来ない母の世界がある。私は、母がそうした行動を取ったとき、それが、どんな行動や言動であっても全てをそのまま、受け入れることにしている。この日の夜も。
「もう、仕事やめたらわ~、根詰めたら、しんどいでぇ?」母が一生懸命、ティシュペーパーを一枚一枚、丁寧に折り畳んで積み重ねていく作業を続けている。
「うん、、、、」と母。返事はするが、作業の手を止めることはない。
「今日は、学校(デイ施設)行ってんねんから、疲れるで~」
「しんどないー、これせな、あかんやんかー!」(分かってないのんかー?)と、言わんばかりの母の顔。
「そら、分かってるけどな~、もう寝る時間やしぃ」
「ねるまえに、しとかなあかんねん、そんなんも、わからんのん!」と、口を尖らせて怪訝そうに私に言う。
「お袋ちゃん、やりすぎやねん、明日したらえ~やんか~」こういう時は、母の目を覗き込むようにして、話すのが一番である。
「ほんだら、にいちゃん、これ、おくってくれるぅ?」表情をやわらげ乍、母が答える。そして、母はお饅頭のようになった、ティシュの固まりを私に差し出した。
「うん、分かった、ちゃんと、送るからな~」
「だれに、おくるのか、しってんのんかー?」私の心底を見透かした母。
「知ってるよー」一応、とぼけて。受け取った。ところが、受け取るときに私の肘がお湯のみ茶碗を倒し運悪く、ティシュ饅頭の上にお茶がこぼれ、饅頭がべちゃべちゃになってしまった。
「あっ~、ご免!」
「なにしてんのん、もぅ~、あんたがわるいねん、わかってんのんかっー!!」この後、母の怒りは、、、。ティシュ饅頭を作り直すまで収まらなかった。私は新しいティシュ箱を用意し、約1時間掛けて、ティシュ饅頭を作り直した。
「なにしてんのん、あんたも、こんかいなー、あほー、ばかにしてぇ!」母の日常、その(49)
2005/11/4(金) 午後 5:13
某月某日 デイ施設を、母は決して嫌いではない。むしろ、デイでの様子を聞く限り、楽しく穏やかに過ごしている時のほうが多い。しかし、送り出すときは、時々、こうなる。
「00さ~ん、お早うございます、行きましょうか~?」と、出迎えてくれたヘルパーさんの明るい声。
「お願いします」と私が、答えると。
「だれや、あんた!ー」キーッと睨みつけ、ヘルパーさんを怒鳴る母。その辺りは心得たものでヘルパーさんも、そう言われながらもニコニコしながら、母を送迎車に乗せてくれるのだ。プロは違う。私は、何時も感心する。
「行ってらっしゃい」と言う私に、母が車窓から、顔をださんばかりに、乗り出して。
「なにしてんのん、あんたも、こんかいなー、あほー、ばかにして!」と、怒鳴る母。
「うん、、、」
「兄ちゃんね~、後から来はるからね~」とヘルパーさんが、母を宥める。この時の母の顔は恐い。眼孔鋭く私の目を射抜くのだ。私が一緒に行かないであろうことを十分に承知しているのだ。
「し(死)なせるつもりやろー、いらん、あんたのんだらえーねん!」母の日常、その(50)
2005/11/7(月) 午後 5:03
某月某日 毎日が教えられることばかりだ。母の言動に左右されずに、生活のリズムを、いかに崩さないようにするかが、未だに難しい。
「もうえ~か~?、ご馳走さんするう?」と、母に。
「もぅ~えー、いらん、あんた、たべ~」
「ちょっとだけ、残ったな、僕食べたるわ~」朝食をほぼ、完食した母。次は朝の薬を飲ませなければならない。これが、なかなか、すんなりとはいかないのだ。
「風邪引いたら、あかんから、お薬飲んどこな~」と、私は何時も嘘をつく。
「いらん、あんた、のみーぃ!」案の定だ(そんなことは見透かされているのだ)。
「何でや~?、いつも、飲んでるやんかー?」
「のんだことないわー、しらん!」
「お袋ちゃん、夕べも、咳してたやん、飲んどかな、また咳でるで~」
「してない、くすり、いらん、あんた、のみぃー!」
「僕は、もう、飲んだよ~」
「うそやろー、みてない、いらんねん!」下手な嘘は通じないのだが。
「そんなこと、言わんと、なっ、飲んどこな!」夕べ、母は、かなり咳き込んだのだ。顔を真っ赤にして苦しそうだった。
「し(死)なせるつもりやろー、いらん、あんたのだらえーねん!」と、今日もキッパリ断られた。デイの送迎車が、来るまで未だ時間がある。最悪、ヘルパーさん、にお願いして、昼食後に飲ませてもらうほかない。最近こういうケースが増えてきた(ヘルパーさん、どうやって飲ましはんのんかな~、今度いっぺん聞いてみよ)。
「ねさせてーゆーてんねん、!」母の日常、その(51)
2005/11/8(火) 午後 1:11
某月某日 テレビや新聞等のマスコミで「認知症」の報道や番組が増えた。だが、どう介護や看護するかとなると「?」がつく。専門医も、私が首を傾げたくなることを平気で、真面目に仰る方が目立つ。(あんた、認知症て、ほんまに、わかってんのんか?)と言いたい専門医だらけだ。認知症の方の対処方法は「千差万別」。脳味噌の中身は未だに謎だらけなのだ。(診察室での患者と、日常生活とでは大違いなのだ)。
「にいちゃん、ねたんか~、なにしてるん?」
「うん、もう、寝るよ~、いま用意してるねん」
「はよう、ねんかいな~」
「TVのニュース見たら、寝るからね~」
「はよしぃや~」
今日はデイが休みだ。朝から、母と二人きり。歌の好きな母にラジカセで、音楽を聞かせてやり、家事を無事こなした。午後10時過ぎ、母が欠伸をしたので、寝かせたのだが。
「おやすみなさい」と、母は布団に入り込んだ。
「はい、お休みなさい、風邪引かんようにな~」掛け布団をしっかりかける。
「わかってま~す」と母。しばらくすると。
「にいちゃん、ねた~?」
「うん、もう寝てるよ~」
「わても、ねさせて~」
「どうしたん、寒いんか~?」
「さむない!、ねさせてー、ゆーてんねん!」
「うん、、、(こらあかんかな~)」今日は添い寝するか。
{ある人からのコメントに答えて}PS いま、気が付いたんですが、いつのまにか「4000」超えてました。ご訪問有り難う御座います。認知症の介護で沢山の方が苦しんではります。事情はそれぞれ。なんでもかんでも、一人で抱え込んだら「あきませんよー、」。誰でもよろしいーから、泣きつきなはれ、相談しなはれ、愚痴りなはれ。
「あほになってしもたんやー!」母の日常、その(52)
2005/11/10(木) 午後 0:29
某月某日 認知症の介護は「人」として見続けることにある、と私は思っている。
「お早うさん、起きよ~か~」母に声をかけてから朝食の用意をする。
「さぶいねん、もう~ちょっと」
「そ~かっ、今日はな~、青天やで~、学校(デイ施設)も休みやし、ゆっくりしたらえ~わ」
「なんで、やすみや~?」
「うん、昨日な~、(学校)行って、疲れてるから、休みやねん」
「おしっこ」母をおトイレへ。便座に座ると母が。
「しんどいねん、わかれへんねん?、バカになってんねん?」と、しきりに言う。
「バカになんか、なってへんでぇ、どうしたんや?」聞き流すのはいけない。
「そんな、よ~け、カミ、いらん」トイレットペーパーを用意する私を見て。
「このくらい、いるで~?」と、私が、トイレットぺーパーを母に見せる。
「いらんわー、そんなよーけー」
「もう、済だんか~?」
「わかれへん?ちょっと、みてぇ、バカになってんねん!」
「ちゃ~んと、出てるやん、バカになんかなってへんやん」
「あんた、うそ、ゆーてるやろー、わてをバカにしてー!」
「自分のお母さん、バカになんかするかいな~」
「あんたー、わてのコーちゃうっ!」
「う~ん、、、」
「はよ、ふきんかいなっ!」なんとか、トイレを済ませ。朝食を。
「お袋ちゃんの好きなヨーグルトもあるよ!」
「どうやって、たべるん?あほになってしもたんや~」
母が、落ち着くまでゆっくり待てばよいのだ。何事もこちらのペースでやってはいけないのだ。(自分が何かを忘れてしまっていることを母は自覚しているのだ、それ故、不安になるのだ)。
「にいちゃん、どこいったー、なにしてんのん?こっちこんかいなー!」母の日常、その(53)
2005/11/11(金) 午後 0:42
某月某日 自宅のマンションは、非常に便利な場所にある。身の回りの生活は、半径5分以内でほとんどの用が足りるので、有り難い。自宅から、徒歩2、3分の所にスーパーがある。今日は、母を連れてそのスーパーへ買い物だ。
「晩のおかず買~て来るから、お袋ちゃん、此処で、待っててな~」
このスーパーには、入り口横のコーナーに、4人掛けの椅子と丸い大きなテーブルが備えられていて、一休み出来るようになっている。私は、母と買い物に来たときは、ここを利用させてもらっている。母もジュースを飲みながら、私が、買い物を終えるまで、たいがいはおとなしくニコニコしながら、待っていてくれている。
「あいよ~」と母。待つと言っても、私の姿が見えなくなると、数分待つのが、母の限界である。
「にい~ちゃん、にい~ちゃ~ん、ゆ~てんのに、どこいったんっ!」母が椅子から立ち上がり、大声で私を呼ぶ。
「此処やでぇ」母が見えるようにして、母に大きく手をふる。
「なにしてるん、はよおいでぇ」
「もう直ぐ、行くから、ちょっと待っててやっ!」
「はよしぃ~や!」
「うん!」パンのコーナーが、丁度、母の座っている休憩コーナーから、死角になる。案の定。
「にいちゃん、どこいった、なにしてんのん、こっちこんかいなー!」母の大声がした。
「此処に、いてるやんか~」と、母に聞こえるように私も大声を出す。
私は、パンのコーナーに訪れる都度、母の姿が見える位置まで、行かなければならない。そして声を掛け合う。他の来店客や店員さんらが、その都度私ら親子のやりとりを聞いているようだ。
「はよふきんかいな!、きもちわるいゆーてんねん!」母の日常、その(54)
2005/11/14(月) 午後 0:43
某月某日 あるベテランのヘルパーさんから「介護の第一歩」と教わったのが、俗に言う「下の世話」である。「00さん、これが出来へんかったら介護なんて無理ですよ!」と。
「おか~さん、おか~さん、はよきてぇ!」と母の声。時計を見ると午前2時前ごろだ。
「どうしたんや~?」と、母の寝間へ。
「はよ~、ふいてぇ、でてんねん!」と、母が言う。
「うんちかあ、それやったら、トイレ行こ~か~?」母は、眠気で目をつむったまま、布団をはね除け、足をバタつかせて叫んでいる。
「にいちゃん、はよふいてぇ!、でたからっ!」
「分かった、わかった、起きよ~、トイレ行こな~」
「いけへん!、はよ、ふいてーなー」布団から出ようとしない母。
「トイレのほうが、綺麗に出きるよ~」
「いけへん、ここでしてぇ!、はよ、ふいてー!」昨日から、母の便が少しゆるいかな、と思っていた矢先だ。目をつむりながら、寝床であばれる母を、何とか落ち着かせようと。
「はよふきんかいな!、きもちわるいゆーてんねん!」眠り乍、怒鳴る母。と、母はとうとう、目を覚まし、両手で私の頭を叩きはじめた。母は腰の骨を折っているので自力では立てない(圧迫骨折を過去二回している)。抱き起こそうとして叩かれた。格闘10数分。なだめすかし、何とか、無事トイレへ。ヘルパーさんの仰る通りだ。