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何があっても、そのまま「受け止める」



  「こんなとこしらん!、はじめてやっ、はよー、うちかえりたい!」母の日常、その(41)


2005/10/20(木) 午後 0:29

某月某日 姉宅での三泊四日も終わり、自宅に戻った。帰宅したのは、午後8時ごろ。車中の母は「おろしんかいなー、わてをばかにして!」と、怒りの声をあげっぱなしだった。


「さあ~、お袋ちゃん、帰ったで~」と、私が玄関のドアを開け母を中にいれようとすると。


「なんでぇ!、こんなとこきたん、こんなとこしらん、!はじめてや、!はよぅー、うちかかえりたいっ!」と手押し車を押しながら、くるりと向きをかえて、エレベーターの方へ。


「お袋ちゃん、ちょっと待ってぇ!」と私。この後、私は、あるテクニックを駆使して、無事母を自宅へ戻らせた。その、テクニック、認知症の介護者なら、すぐ分かるかも。(廊下を二、三度行ったり来たりしたのである)。





  「がっこう?、しらんで~、いったことないー!」母の日常、その(42)


2005/10/21(金) 午後 0:45

某月某日 姉宅へ三泊四日で遊んだ母と私。私の懸念材料は、果たして母が明日、デイ施設(母は、学校と呼んでいる)へ素直に行ってくれるかどうかだけであった。その朝。


「へぇ、全部食べたん、調子え~んやな~、美味しかったんか?」と、母に聞く。


「うん、これな、はじめてたべたんや~、おいしいわ」リンゴのプリンは母の好物。チーズ入りのケーキ菓子パンもお気に入りだ。朝食を気持ちよさそうに完食した。


「にいちゃんもたべぇ、おいしいでぇ」


「そうか?、ほな、ひとつ、僕も食べるわ」


「うん、美味しいな~」


「これもあるでぇ」と母が、パンを取ってくれた。


「ありがとさん、それも食べるわ、わあ、ほんまや、お袋ちゃんこれも美味しいわ~」


「にいちゃん、それ、なにしてんのん?」目聡い母が、私が、学校へ行くために用意した母のバッグを指さした。


「うん、これな~、学校へお袋ちゃんが、持っていくもん、入れてあるバッグや」


「がっこう?、がっこう~て、なんや?」案の定だ。


「今日な~、お袋ちゃん、学校行く日やで~」


「がっこう?、しらんで~、いったことないっー!」

デイからの送迎バスが来るまで、あと半時間ほどだ。今日はひょっとしたら、一緒に学校まで行かねばならないかも。





   「これな~、おいしないねん、ぜ~んぜん、あじない!」母の日常、その(43)


2005/10/24(月) 午後 1:01

某月某日 認知証の母の介護で、私の一番の悩みは、料理である。私は、料理が全く出来ないのだ。他のことなら、たいがい出来るが、こればっかりはどうにもならない。


「もう、食べへんの~?」


「これな~、おいしないねん」


「ちょっと、塩か醤油でもいれたろか~?」


「ふぅ~ん、おいしなるか~?」で、醤油を入れてみた。


「どうや?」と、母を見る。


「どこにぃ、なにいれたん?おいしないねん」(やっぱりな~)。


「ちょっと、醤油入れたけど、あかんか~」


「まずいねん、これ、どうしょう、あんまり、ほしないねん、にいちゃん、これなんや~」


「うん、卵と野菜をかけた、ドンブリみたいなもんやけどな、美味しいか~?」


「あじなぁ、ないねん、たべとうない、どうしょう、だれがしたん?」


「そうか~、僕が買~てきたんやけどな、あかんか~」


「あじない、これ、まずいねん、たべたないっー!」


「う~ん、そうか、へんなもん、買~てきて、ご免な~」料理が出来ないとは、今更、母には言えない。


「にいちゃんこ~たん、これな~、おいしないねん、ぜんぜん、あじないっ!」母の食欲が落ちるのも無理はない。このような、日が度々ある。母の介護に自信がなくなる、私の最大の弱点だ。



  母の日常、その(43)は削除。




  「ここあんたのイエやから、わては、かえるわ!」母の日常、その(44)


2005/10/26(水) 午後 0:27

某月某日 現実の世界と母の世界は、異なる。それが、理解出来ないと、介護者は悩み苦しむ。そして追い込まれ精神的に参ってしまうのだ。そろそろ、寝る時間。


「あんた、どうする~?、ここにおるん?」母の世界では、マンションというのは、家ではないのだ。


「うん、おるよ」さらりと答えるのが一番だ。


「わたし、かえりたいねん?」


「もう、遅いから、ここに泊まったらえ~やん」この辺りから一語一句を、慎重に選ばねばならない。


「ここ、きらいやねん、ひとのイエやから!」


「ここ、お袋ちゃんと、僕が住んでる家やで~」母の目を見てゆっくり答えることだ。


「しらん、わたしのイエ、ちがう、00にイエあるから、かえらしてー」と、母が目をそらし、プイと横を向く。


「明日、学校(デイ施設)やから、ここへ、迎えにきはるから、今日は、ここに泊まりぃな~、」私は、これまでどれだけ母に嘘をついてきたことか。


「あした、がっこうか~?ここな~、あんまり、すきちゃうねん、かえりたいっー!」


「もう、遅いし、00まで、帰るゆ~たって、帰られへんで~」


「あんた、ここにおっときぃー、わてかえるからっー!」


「なあ、お袋ちゃん、よ~聞きや、ここの家は、お袋ちゃんと僕と二人で暮らしてんねんで~」何度でも繰り返して聞かせてきた話だ。それが大切なことだ。


「いや!、わたしは、いつもじぶんのイエかえってる、ここあんたのイエやから、わては、かえるわっー!」次の話題がでるまで、この話は先に進まない。結論は、まあー、母が欠伸をするか、おトイレにいくか、タイミングを見計らって、寝てもらうしかないのだが。それでも駄目な時は一度外出する事になる。





   「どこいくねん、わたしを、ばかにしてー!!、」母の日常、その(45)


2005/10/27(木) 午後 0:28

某月某日 デイも1週間休みなしで、通うのは、90うん歳の母にはさすがにきつい。このため、週の中程には、自宅にヘルパーさんを派遣してもらっている。その日。


「今日は、学校(デイ施設)休みやからな~、ゆっくりしぃな~」と母に。


「ふぅ~ん、なんでぇ、やすみや?」何時もと違う私の言動を、母は決して見逃さない。


「毎日、行ったら、疲れるやろ~、そやから、休みや」とやんわり交わすのだが。


「つかれへん、あんたなんで!うそゆ~のん?」看破されているのだ。


「嘘、ちゃうよ~、ほんまやで~、その代わり、ヘルパーさんが来てくれはるからな~」


「だれや!、へるぱーさんて、あんた、どこいくのん、わて、ほったらかしかっー!」母は鋭い、私が背広に着替えているのをちゃんと見ているのだ。


「う~ん、僕はちょっと、出掛けなあかんねん」


「どこいくねん、ほったらかしかーっ!」


「そやからな~、僕の代わりに、ヘルパーさんが、ちゃんと、来てくれはるから、お袋ちゃんは、ゆっくりしとったらえ~ねん」(かわしきれるかな~)と内心思いつつ。


「うそやろー!、わてを”ばか”やおもてんねんやろー!!」今朝は、寝起きが少し悪く、母は不機嫌だった。少しでも私の言動や行動が何時もと異なるとこうなるのだ。


「誰が、自分のお母~さんをバカになんか、するかいな~」


「わてを、なにもできへん、あほやおもうて、ばかにしてぇ!、ほったらかしにするねんやろー!」母は私が何処かへ、出かけるであろうことを見透かしている。


「ほったらかしに、せ~へんがな、ヘルパーさんが来るから、大丈夫やて」その時。

ピンーポーン。


「ほらな~、来はったでぇ」私が玄関を開けにいこうとすると。


「どこいくねん、わたしを、ばかにしてー!!、」母は何もかもお見通しだ。



  母の日常(46)は削除。





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